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 もちもち。もちもち。


「あ゛ーやっと終わった」

 目の下に隈を浮かべた蓮は、仮設休憩所のベンチにどっかりと腰かけた。

 仕事が落ち着いてきて、少しずつだが労働時間が短くなってきた。今は休日はないものの、前の労働時間にかなり近くなってきている。もうすぐで完全に戻るだろう。

 生前の世界では、和解に向けた休戦状態。終戦ではないが、今は武力衝突が起こっていない。事実上の終戦と捉えていいだろう。

「んぉ。蓮、おつかれー」

「おー」

 灼も休憩所にやって来た。蓮の隣に座る。

「昨日、親御さん達に会ったんだろ? どうだった」

「怪我してたんだけど一週間ぐらいで治る程度の軽傷だった。後遺症もないって」

 灼はどことなくほっとした様子だ。両親が怪我こそしていたが、ほとんど無事だったからだろう。

「そうか。そういや、花耶が『灼、目、赤くなってた』って言ってたなぁ」

「!」

 蓮に言われて、灼は顔を赤くした。

「そ、それ、花耶の見間違いっすよ。オレ、泣いてねーし」

「誰も『泣いたのか?』って訊いてねぇんだけど?」

「⁉」

 面白そうにしている蓮に指摘されて、灼は不機嫌そうにむくれた。


「愛梨か、春介は?」

「あいつらはたぶん、医療隊の手伝いだと思うぜ。火鬼達も、ぼちぼち家族に迎えに来てもらったりしてるらしいからな。人手が少し足りねぇらしい」

 休戦の発表があった後、火鬼達の写真を撮り、祓い屋等の霊視能力者に家族の捜索を頼んだ。

 中には『妖怪だから』という理由で引き取りを拒否する者もいたが、ほとんどが家族の元へ帰っていった。いくら衣食住が保証されているとはいえ、やはり皆、家族の元に帰りたいのだろう。夏輝も家族が迎えに来たが、もう少し医療隊の手伝いをするらしい。

「でも、どうかしたのか? 怪我とかか?」

「いや、まだしてねーんだけど」

「怪我する予定か?」

 おそらく、止められるかもしれない。しかし、灼は話す事にした。

「オレ、黄泉軍に入る前に穢憑きになって、妖怪殺しちまったから。殺した奴らに謝りに行かねーとって」

「たぶん殴られるぞ?」

「その可能性が高いから、帰ってきたら快癒を頼もうかなって思ったんだよ」

 数日前に、夏輝が自首する話を聞いて思うところがあった。戦時中に、妖怪に対する考え方が変わったせいもあるだろう。

 操られていたから地獄でも罪に問われなかったとはいえ、灼は妖怪を大量に殺してしまった。その中には、犯人と同じ職場だっただけで兵器化には関わっていない者もいる。

「ついて行こうか?」

「いや、謝るのはオレ一人じゃねーと意味ねーと思うから……」

 と、灼は断ろうとする。しかし蓮は、内容を捕捉した。

「謝罪そのものじゃなくて、離れたとこで待機だよ。動けなくなったら回収できるようにな」

 殴る蹴るは確実にされるだろう。それでも灼は、謝りに行く覚悟を決めた。それに水を差す気は、蓮にはない。

 だが、心配していないわけではない。

「じゃあ、それなら頼む」

 さすがに骨折したら、自力で移動するのは難しい。頼む事にした。

「でも、止めたりはしないんすね?」

 意外に思った。

 虐められている愛梨を助ける時の作戦会議で、花耶が護衛役になると言った時に、蓮は最後まで渋っていた。

 その時の印象があって、もしかしたら止められるかもしれないと思っていたのだが。

「あたしは千絃みてぇに過保護じゃねぇからな」

 と、灼の質問に蓮は答える。


「……その千絃なんすけど……」

 灼は、先程から気になってたある二人の方を見て、蓮に訊いた。今までスルーしていたが、耐えられなくなったのだろう。


 もちもち。もちもち。


「花耶の頬っぺた、すげーもちってね?」

「ああ。あれか」

 灼の気になってた二人とは、千絃と花耶である。千絃は花耶を膝の上にちょこんと座らせて、その柔らかそうな頬を無心でこねていた。

「たぶんあいつ、くっそ疲れてんだよ。それで癒し求めてたら、花耶の頬っぺたに行き着いたんじゃね?」

「ああ……」

 納得した灼だった。もちられている頬っぺたを見ながら蓮の予想を聞いて、人をダメにするソファが思い浮かんだ。

「でもなんか、花耶が『思ってたんと違う』って言いたげなジト目してるんすけど」

「千絃が『花耶、おいで~』とか言って誘き寄せでもしたんだろ。花耶が素直に甘えられんのって、あいつぐらいだしな。そんで頭撫でたり甘やかしてくれるって思って駆け寄ったらああなったとか」

「あー、それは思ってたんと違うって顔になるわ」

 あくまで蓮の予測だが、花耶の表情を見る限りだと強ち間違いでは無さそうだ。


「……。おーい。千絃ー」

 何か思いついたのか、蓮は灼の座っていない方の隣を軽く叩きながら、千絃を呼んだ。

「………………」

 どうやら千絃は、本気で疲れていたようだ。蓮を一瞥すると、花耶を連れて隣に移動し、ぽすんともたれ掛かる。

「うお。マジで来た」

「蓮が呼んだんだろ?」

「思いついただけで、マジで来るなんて思わなかったんだよ」

 と、蓮は言いつつも、少しだけ口角が上がっていた。


「そうだ!」

 今度は灼が何かを思いついたようだ。動画を撮り始めた。

「何やってんだ?」

「千絃が正気に戻った時にこれ見せたら、すげー面白そうな反応するかなって」

 悪戯っ子な笑みを浮かべる灼。

「灼。お前――」

 蓮は目を丸くさせて、口を開いた。止めるつもりだろうか。

「天才かよ」

 違った。止める気は更々ないようだ。

「……あの。千づむゅ、びっきゅり、すにゅと、思う……」

 花耶はもちられながら止める。少し噛んだ。

「「それが目的だよ」」

 二人とも、やめる気は一切なかった。

「ところで、蓮さっきちょっと嬉しそうにしてたよな?」

「いや、そうか?」

 と、蓮は訊き返したが、すぐに灼の意図を悟って、話した。

「だってこういう、完全に隙だらけの千絃って、くっそ可愛くね?」

「そうっすね~。蓮から見たら、すげー可愛いんでしょうね~」

 灼は動画に写らないように、親指を立てた。どうやら、蓮のこの返答も千絃をからかうネタにするつもりのようだ。


 もちもち。もちもち。ぷにゅ。

(マジで花耶の頬っぺた、柔らかそうだなぁ)

 灼はカメラ越しに、そんな事を思った。

「…………」

 うずうず。

 好奇心を刺激されたのだろう。ぷにるつもりか、花耶の頬に人差し指を近づけた。


「《痺雷――》」


「サーセン順番守ります‼ 横入り、ダメ絶対‼」


 過ぎたる好奇心は、己が身を滅ぼす。されど灼は、即座に人差し指を引っ込め、辛くも難を逃れた。

後日、灼は花耶の頬っぺたをもちった。

灼 「やべー! 何このやわっこいふわもち感触!」

もちもちもちもちもちもちもちもちもちもちもちむぎゅっ。

花耶「…………」

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