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特大怨夢の発生から数日後。戦は続行していた。
だが、人々の心に変化が起きていた。
笹森軍の陣幕。
「人間を見逃して、見張りにまわされたそうじゃないか」
と、見張りをしている鬼が女の河童に声をかけた。
「どうかしたのか」
「ええ。実は」
彼らは親しい友人同士なのか、河童は怨夢で見た事を話し始めた。
「怨夢の中で、化け狐の子と人間四人が、楽しそうに遊んでいるのを見たの」
河童は、子供達の楽しそうな声と顔を思い出す。
「何だと?」
鬼は顔をしかめる。
「その子狐は何を考えているんだ! 人間なんかと仲良くするとは」
「子供だから、何も考えていないでしょうね」
河童は溜め息をつく。
「この戦は、人間への仇討ちと同時に子供達の未来の為でしょ? ……この戦が、本当に正しいのか、分からなくなったの」
何も考えていないから、種族や利益と損害関係なしに、純粋な友情を育んだ。
彼女には、それが理想の未来のように見えた。それで、心に迷いが生じてしまったのだ。
「怖じ気づいたのですか?」
「「‼」」
陣幕の中から城主の声が聞こえて、鬼と河童は思わずひれ伏した。
「申し訳ありません! 失言でした!」
「……二度目はありませんよ」
河童が謝罪すると、城主は言った。
「……」
ああは言ったが、城主にも思うところはある。
『怨みによって始めた戦は、竹の根のように深く広く強く禍根を残します』
『妖怪の未来の為、戦という手段に手を出してしまった事を、非常に残念に思います』
本物の、第一討伐隊隊長が言った言葉だ。
人間さえ滅ぼせば、妖怪にとって真の泰平の世が始まると信じていた。
しかし、部下の報告の中には人間を助ける妖怪の姿も確認できた。それも一人二人ではない。おそらく、組織での行動だろう。
人間を滅ぼしても、戦は終わるのだろうか。
もしかしたら、人間擁護派の組織が一揆を起こすのかもしれない。自分達が戦を起こした理由と同じ、『故人の仇を討つ』為に。
それは、求めていた未来とは遠くかけ離れていた。
(人間との共存、か)
一瞬、その事が脳裏によぎる。
自分は疲れているのだと言い聞かせたが、その考えが消える事はなかった。
◆◇◆
関東のどこかにある神社。
「……なぁ。ちょっといいか?」
「何?」
人間の男が、同じ指輪を着けた女に話しかけた。
「俺、自力でここまでたどりついたって言ったじゃん?」
「ええ。その時は本当に安心したわよ」
この男女は、恋人や夫婦等の親しい間柄なのだろう。
「心配かけて悪かった。でも、本当は自力じゃないんだ」
「そうなの?」
この時、女は『途中まで祓い屋に送ってもらったのだろう』と考えていた。
「実は、妖怪に助けられたんだ」
男のこの発言で、女は目を大きく開いた。
「妖怪に⁉」
「ああ。毛むくじゃらの妖怪に襲われていたんだけど、ろくろ首が来て、助けてくれたんだよ。その上、途中まで送ってもらった」
「ろくろ首⁉」
「おう。死ぬほどビビったけど、首が伸びる以外普通の美人だった」
美人と言われたのに少し引っ掛かりを感じたが、女はにわかに信じられなかった。
しかし長い付き合いの経験から、男が嘘をついていないと分かった。
「それ、何ですぐに言わなかったの?」
「言えなかったんだよ。周りが妖怪アンチばっかりだったから」
もしかしたら、自分と同じように妖怪に助けられた人間がいるかもしれない。だが、それよりも妖怪を恐怖する声があまりにも大きすぎた。
よって、打ち明けられる存在は彼女しかいなかった。
「人間を助けてくれる妖怪まで殺しちまうのかな」
「……できれば、その妖怪だけ見逃してほしいわね」
◆◇◆
「ねぇ。本当に妖怪って悪い奴なのかな?」
関東内にある寺。
だいたい十代後半ぐらいだろうか。少女は共に避難してきた友人達に訊いた。
「私は悪い奴だと思うよ」
「悪くない奴なら、テロまがいで戦争なんて始めないよ」
言い出した少女も予想していた事だが、評判は散々だった。
「でも、何でそう思ったの?」
それでも、完全否定せずに理由を訊いてくれた。
「実は、逃げている時に妖怪の声が聞こえちゃったんだ。本当に少しだけなんだけど、妖怪が『妻の仇ぃ‼』って叫んでた」
すぐに逃げたので、本当にそれだけだった。しかし、聞き間違えてはいない。はっきりとそう聞こえた。
「仇って……」
「じゃあ、私達を逃がしてくれた祓い屋の人が妖怪の奥さんを殺しちゃったの?」
「い、いや。分からないよ! もしかしたら向こうの勘違いかもしれないし……」
正直、信じたくなかった。
ただ、もし友人の一人が言っていたように祓い屋が妖怪の伴侶を殺していたら。
妖怪が一方的に悪いという、単純な話では片付けられないかもしれない。




