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 怨夢から外に出て、子供達の魂はすぐに戻った。


 四人の人間の子供達が目を覚ますと、周囲には医者と両親がいた。

 子供達はそれぞれの両親に抱きしめられ、「ごめんなさい」「信じてあげられなくて、ごめんなさい」「怖かったよね」と、謝られた。おそらく、祓い屋に妖怪と間違われ、暗い部屋に閉じ込められた時の事だろう。


 そんな家族の生還を喜びを無視するように、祓い屋がやって来た。子供達を妖怪だと決めつけた者達である。

「君達は、自分が何をしたのか分かっているのか?」

 静かだが、厳しい声音だった。

「君達が怨夢を作ったせいで、たくさんの人が死んだんだ」

「「「「‼」」」」

 はっきり告げると、子供達は顔を青くさせる。

「ち、ちょっと! あなた達、何なんですか⁉」

「オンムとか、この子達のせいで人が死んだとか!」

「あれは、ただの夢でしょ⁉」

 子供達の親が口々に言い返す。

「あれは、本当に起こった事だ」

 祓い屋の一人が事実を言う。

 親達はにわかに信じられなかったが、否定もしきれなかった。

 戦争が始まってから、科学では説明のできない事があまりにも起きすぎた。そして、自分達には魔法や妖怪といった知識は全くない。

 さらに、実際に人が眠っている間に死んでいるのだ。

 否定する為の材料がなくて、肯定せざるを得ない要素がある。


「「「「ごめんなさい」」」」

 親達がどうにか否定しようとしていると、子供達は頭を下げて謝った。

『『⁉』』

 親達は、驚愕に目を見開く。

「な、何で?」

 親の一人が、子供達に訊く。

「だって、僕達は悪い事したもん」

「でも、謝らないの、もっと悪いって思ったから……」

「それに、夢の中でお姉さんに約束したの」

「もう悪い事しないって」

 と、子供達は謝った訳を話した。


「でもね、これだけは聞いて」

 子供達は、今度は祓い屋に向けて口を開く。

「妖怪は、悪い人ばかりじゃないよ」

「康太……私達の友達は、ちゃんといい子だよ」

「お願いだから、優しい妖怪まで嫌わないでよぅ」

「子供の僕達でも仲良くできたんだ。大人でもできるでしょ?」

 と、子供達は大人に言った。

「妖怪となんか、仲良くできるわけないだろ‼」

 だが、祓い屋の一人がそれに反論した。

「俺の妻と息子は鬼に殺された! しかもその理由は、俺への逆恨みからだった! そんな傍若無人な化け物の中にも、優しい奴もいる? 反吐が出る理想論だな‼」

 それに対して、子供達はこう反論した。

「それは、その鬼が悪い人だったからだよ!」

「泣いた赤鬼に出てくる鬼みたいに優しい鬼もいるかもしれないでしょ!」

「おじさんは可哀想だと思うけど、それで優しい妖怪まで恨むのはダメ!」

「もしかしたら、妖怪に助けられた人もいるかもしれないよ!」

 子供達の反論に、怒鳴った祓い屋はわなわなと唇を震わせる。


「……反省しないみたいだな」

 今度は別の祓い屋が静かに言った。

「親子揃って出ていきなさい。子供の責任は、親が負う物ですから」

 そう言われて、親達は迷った。

 神社や寺の外に出れば、妖怪に襲われる危険がある。子供だけでも神社に留まらせて貰えるように懇願するのも考えたが、こんな祓い屋のいる所では心配だった。かといって、自分達だけで妖怪から子供を守りきれるか分からない。

 出ていくべきか。突っぱねるべきか。


「ねぇー今の聞いた? 『反省しないみたいだな』って!」

「それ、マジ何様だよって感じー」

 その時、そんな若い女の話し声が聞こえた。

 いつのまにか、まわりには人だかりができていた。騒ぎを聞きつけて集まったのだろう。

「ド正論で言い返されて、ぶちギレたのを厳しい正義面してるだけじゃん」

「ああ言うのが老害って言うんだよねぇ。自分の主義主張だけが正しいってまわりに押しつける奴」

 そう言っているのは、高校生くらいの少女達だった。

「っていうか、あんなちっさい子供がいる親子を化け物がうじゃうじゃいるとこに放り出すとかあり得ねー」

「腹を空かせたライオンの群れに放り込むレベルの危険度だよなぁ」

 今度は若い男の声。

「もし祓い屋の話が正しかったらさー、たぶん夢の中であの子達が言っていた事、事実なんだろうけど、数日間、暗い部屋に閉じ込められたんだって」

「やだそれ本当⁉ 体罰じゃない!」

 今度は中年女性が言う。

「違う! あれは妖怪の可能性が――」

 祓い屋が反論すると、それに被せるように中年男性の声がした。

「じゃああんたら、その子らに謝ったのかよ。『妖怪と間違えてごめんなさい』って」

「俺、わりと最初の方から見てたけど謝ってなかったよな?」

「お前ら、自分達の勘違いで他人の子供を監禁したんだぜ?」

 次に、老婆が諭すような声音で言う。

「間違いは、誰にでもある。じゃが、最低限、間違いを認めて謝らねばならんのぅ。許してくれるかどうかは、その後の事じゃ」

 この場に、祓い屋達を援護する者はいなかった。

「「「………………」」」

 祓い屋達は不服そうにしていたが、子供達の方に向き直った。

「お前達の主張は認めない。だが、妖怪と間違えてすまなかった」

「数日間、暗い部屋に閉じ込めた事はやり過ぎだった。すまん」

「追放は取り消す。悪かった」

 ちゃんと反省しているのか疑わしい謝罪だったが、子供達は許す事にした。


◆◇◆


「子供の宝物を燃やしただと⁉」

 子狐は、そんなドスの利いた怒鳴り声で目を覚ました。

 起き上がると、自分の両親が医療隊の男に本気の説教されていた。耳がぺしょんと垂れていた。

 両親に本気の説教をしている死徒の話は、早口すぎて聞き取れなかったが、もはや罵倒に近い、かなりドギツい言葉のように感じた。

「た、隊長……」

「今はこの大うつけ共に説教してるんだ! 後にしろ!」

「いえ、お子さんが起きました」

 説教している死徒の部下と思しき人物が報告すると、ガトリングのような説教は止まった。


「ほら! お前ら謝れ‼ 燃やした物が物なだけに許してくれるかは分からんが、最低限は言葉で誠意を示せ‼ その後で態度で誠意を見せろ‼」

 死徒の説教が効いたのと、最悪の場合、子狐が化穢に魂を喰べられていた可能性があったからだろう。

「本当に、すまなかった……‼」

「ごめんなさい!」

 両親は、子狐に深く頭を下げて謝った。

 子狐は、許す事にした。ただ、どうしても両親に話しておきたい事があった。

「僕も、ごめんなさい。でもね、怨夢の中で、僕を助けてくれた人の中には人間もいたんだ。だから、妖怪と人間も仲良くできるの。それだけは、分かって」

 両親は、しぶしぶといった感じではあったが、頷いた。

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