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「「「「!」」」」

 四人は一瞬で臨戦体制になる。

「え、なになになに?」

「お姉さん達、どうしたの?」

「今の声、変じゃなかった?」

「うん……」

「なんか、怖い声だった……」

 子供は不安そうに身を寄せ合う。

「花耶は霊力を絶対に使わず子供達を守って! 愛梨は花耶と僕達の中間あたりに。子供達が怪我をしたら優先して回復! 春介は化穢一体の足止め! でも穢憑きがいたらなるべくそっちの討伐を優先して! 残りは僕が殺る! 一体になったら僕と春介、花耶の三人で総攻撃!」

「分かった!」

「はい!」

「ん!」

 千絃は素早く指示を飛ばす。

 春介が声の方向を向いて最前線に立つ。

 代わりに愛梨は下がり、春介にも子供達にも快癒が届く範囲に移動。

 花耶は子供達を背に、苦無を構える。


 声はだんだんと大きくなり、木の葉や草が擦れるざわめきが激しくなる。

【い゛やああああああああ‼ 殺゛ざれる‼】

【死゛にだぐない゛いいいいいいい゛‼】

「「「「⁉」」」」

 跳び出てきたのは、確かに化穢だった。

 ただ、一体は両腕を切断されていた。もう一体は片足を切断されていたものの、跳ねるように逃げている。その顔には恐怖が浮かんでいる。

 そのまま放置していても、長くは持たなそうなほど、弱っていた。

「「「「「ビャアアアアアアアアアア‼⁉」」」」」

 化穢の姿を見た子供達は、悲鳴をあげる。それを化穢が見た。

【こ、こうなったら、魂を喰べて回復を――】

「させませんよ」

 雪のように、静かで凛とした声がした。

 葉の擦れる音も小さく、木の上から白い人影が飛び出す。

「《纏霊刃》」

 詠唱の直後、両腕のないの化穢が左右に切断された。

【ひっ……‼】

 化穢の斜め前方に着地。即座に振り返り、化穢の首を落とす。

 黒い塊が霧散。黒い靄が晴れると、雪音が姿を表した。


「雪音さん⁉」

「あ! 皆さん! お怪我はありませんか?」

 雪音は春介達に気がついて、安否を訊いた。

「! 蓮さんが……」

 蓮に気がついて、涙の滲んだ悔恨の表情を浮かべる。化穢に、魂を喰われたと思ってしまったのだろう。

「あ、魂は大丈夫ですよ! 怨霊に取られただけなので」

 そう聞いて、少しだけ安堵して涙を指で拭った。

 心配ではあるが、まだ蘇生できる。手遅れではない。

「!」

 離れた所にいる子供達の事に気がついた。

 血の気が引いた。やらかした。もっと上品に化穢を殺ればよかった。さすがに、あの倒し方はグロすぎる。子供達の、トラウマになっていないだろうか。


「……」

 花耶も、おそるおそる子供達の方を向いた。怯えられないように、霊棍も静かにしまう。

 子供達は、目を見開き固まっていた。

「――」

 口下手なりに、雪音のフォローをしようと口を開く。


「「「「「す」」」」」

 それよりも先に、子供達は声を張り上げた。

「「「「「すごおおおおおおおおおい‼」」」」」」

 予想外の反応だった。花耶は出かかった言葉をごっくんと飲み込む。

「あのお姉さん、お化け倒しちゃった!」

「かっこいい……!」

「すっごく強い!」

「ヒーローみたい!」

「お侍さんみたい!」

 子供達は純粋だった。化穢の倒し方より、雪音の活躍の方に注目していたようだ。


「千絃、愛梨、雪音さん。すみませんが、おれは先に戻ってもいいですか?」

 花耶と子狐が来る前に、春介が二人に訊いた。

「さすがに、あの子達がされた事を聞いた後じゃあ怒りたくないので……」

 どこか無理しているような笑顔だった。

 蘇生できるとはいえ、蓮を殺したのは許せないのだろう。しかし、子供達の話を聞いて怒り辛くなったようだ。

「かしこまりました」

「分かった」

「あの、一人だと危険ですので、千絃先輩と……」

 愛梨の提案に、春介は首を横に振る。

「大丈夫だよ」

 春介はそう言いながら、愛梨の頭をぽふぽふ撫でた。

「よっこいせっと。じゃあ、魂とあの子達をお願いします」

「任せて」

「春介さんも、気をつけてくださいね」

「何かありましたら、通信鏡で連絡をくださいね」

 春介は蓮の体を抱えて、先に戻って行った。


◆◇◆


 春介が蓮の死体を持って去り、子供達を雪音達に頼んだ。

 雪音が連絡係である第一諜報隊隊長に連絡したところ、化穢は先程の二体で最後だったようだ。すぐ後に、化穢が全て討伐された事が全体に通達された。

「……千絃先輩」

「何?」

 魂を回収している時、愛梨は千絃に訊いた。

「あの子達も、死んだら地獄に堕ちるのでしょうか……?」

 いくつか、魂の緒が切れた魂があった。


「……このままだとね」

 蓮の返答に、愛梨は唇を噛む。

「あの子達、まだ小学校低学年くらいですよ! それに、妖怪と疑われて明かりすらない暗い部屋に何日も閉じ込められたって! 子供の化け狐は、お父さんに宝物を燃やされたって! 確かにあの子達も悪い事をしましたけど、その前にひどい事したの、その方達じゃないですか……‼」

 納得がいかなかった。

 確かに、子供達はたくさんの大人を殺してしまった。いかなる理由があっても、許される事ではない。

 しかし、先に酷い目に遭わせたのは祓い屋と子狐の父親だ。子供達の親も、子狐の母親も、止めはしなかった。それさえなければ、あの子供達が怨霊になる事はなかったのではないのだろうか。


「……気持ちは分かるよ。明らかにやり過ぎだよね」

 千絃も自分の気持ちを言い、しかしどうしようもない事を続けた。

「でも、地獄には少年法なんてない。物心ついた上で自分の意思で罪を犯したら、年齢も身分も種族も関係なく、平等に裁かれる場所」

 子供達は確かに幼いが、分別のつかない赤ん坊でもない。その上、誰にも操られていない。

 地獄に堕ちる罪人の条件が、揃ってしまっていた。

「だけど、その分情状酌量も乗っかりやすい。それに、あの子達にはまだ何十年も人生が残ってる。減刑の嘆願書だって受け付けてもらえるはず。寿命いっぱいまで償えば、かなり減刑されるよ」

 だが地獄は、冷酷なだけの場所ではない。自らが犯した罪から逃げようとする者には情け容赦がないが、罪を犯した事を後悔し、償う者には温情が下る。

 地獄での量刑は、罪を犯した者次第である。

「それに、結果的にこんな事態にまでなったんだ。虐待した人達も、無罪放免って訳にはいかないでしょ? 下手に生前での刑罰を軽くされたら、地獄での刑が重くなるだけだから」

 心霊や妖怪関連の事を生業にしている分、地獄の恐ろしさを知っているはずだ。ならば、下手に取り繕ったりして、地獄の刑を軽くする唯一の機会は捨てないだろう。

「なら、まだ少しだけマシですけど……」

 あくまで最悪ではないという程度。まだ愛梨の心にもやもやは残った。


「……あの!」

 愛梨は、子供達に声をかけた。五人は愛梨の方を向く。

「みんな、今回やったのは悪い事だって分かってるよね?」

「「「「「……うん」」」」」

 子供達はしょんぼりと項垂れた。

「じゃあ、お姉さんと一つだけ約束してくれる?」

 愛梨は、続けて言った。

「これからの人生、たぶんものすごく辛い事がたくさんあるかもしれない。だけど、おじいちゃんおばあちゃんになるまで、たくさん良い事して生きて。どんなに小さい事でも、悪い事はしちゃダメ」

 生前の世界では、子供達には何のお咎めはないだろう。

 少年法以前に、何も知らない生者にとって、怨夢での出来事は夢でしかないのだ。

 夢の中で大事な人が子供達に殺された。それで起きたら大事な人が死んでいた。だからその子供達が大事な人を殺したんだ。殺人犯だ。

 なんて言い分は、通用するはずがない。

 よって、子供達は自力で今回の事を償わなくてはならない。それも、残りの人生全ての時間をかけてだ。でなければ、地獄に堕ちて、転生した後にまで響いてしまう。

 どんなに小さい事でも、悪い事を絶対にしてはいけない。その上、良い事をたくさんしろ。その約束は、子供達の人生を縛ってしまうかもしれない。

 だが、地獄での刑罰を最大限に軽くするには、これしかない。

「お願い」

 地獄堕ちが確定してしまった彼らを助ける事はできない。そんな権限はない。だから、できる事は口約束を通した忠告しかなかった。

「「「「「分かった!」」」」」

 子供達は了承してくれた。


◆◇◆


「愛梨。花耶。どした? すげぇ勢いで飛びついてきて」

 魂を持ってきた後。蓮は蘇生術を受けてしばらく悶え苦しんでいた。ある程度落ち着いてきた時だった。

 それまで、千絃が花耶と愛梨を少し離していたのだが、蓮が落ち着いてきたのを確認して戻ってきた。

 瞬間、花耶と愛梨が蓮に飛びついてきた。

「……ごめん、なさい……」

 花耶がぐすぐすしながら呟いた。

「私が、もっと、速く、走れたら……。あと、少しだったのに……、間に、合わなかった……。春介も、痛い思い、した……」

「私も、韋駄天走を花耶先輩にかけてたら、間に合う距離でした……! すみません」

「なんだ。そんな事かよ」

 蓮は溜め息ついて言った。

「さっき春介も謝罪してきたけど、あれは仕方ねぇから。花耶はショートカットした上で全力疾走だったし、愛梨だって快癒と補助妖術を使いまくって残り霊力が少なかった。化穢はまだ残ってるし、警戒して余力を残そうとしてたんだろ。春介にいたっては、あたしが勝手にやった事だしな」

 わしゃわしゃと頭を撫でると、二人の髪は髪がぐしゃぐしゃになった。

「春介も、いきなり痺雷針撃ってごめん」

「いやいや。言い出しっぺはおれだし、大丈夫だよー。むしろ、あれのおかげで全滅防げたんだ。ナイス!」

 春介も手をぱたぱた振って言った。


 その後、なんとか花耶と愛梨を泣き止ませた。

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