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木に、魂が一つ生ったのが見えた。
花耶は思わず振り返る。
「っ‼」
花耶は目がいい。離れたところにいる、春介の顔も見えるほどだ。
春介は、悪寒で総毛立つほどの冷たい目で、こちらを睨んでいた。
その視線の先は、子供達に向けられていた。
「だるまさんがみな――‼」
「!」
子狐が言い終わる前に、花耶は子狐の背に触れ、スタート地点に向かって駆けた。
再び子供達が捕まえに来ようとする。急な方向転換に対応できるように、広がっていた。
「「「「⁉」」」」
だが、子供達の間を縫うように躱す。
「止まれ!」
「っ!」
子狐が号令をかけると、まるで言霊にかかったかのように動けなくなった。
しかし、子狐との距離はかなり離れている。たどり着くのは難しそうだ。
少しでも距離を稼ぐつもりか、子狐はできる限り大股で十歩、花耶に近づく。
それでも、まだかなり離れている。
子供達が四人、子狐の元に集合。お互いで手を繋ぎ、花耶にタッチしようとする。
「ぎゅっ……っ! うぅ……!」
わずかに届かない。
「……降参、して」
花耶が言った。
「……やだ」
だが、子狐は首を横に振る。子供達も、花耶を睨む。
「お願い。あなたが、捕まえた人達の、帰り、待ってる子、いる。魂を、返して、ください」
「やだ‼」
子狐は、声を張り上げる。
「返したら、また戦が始まっちゃうじゃん! 他の子は大事な人に会えて、何で僕はみんなとバイバイしないとダメなの⁉ 友達が人間だからって理由で、おとうに宝物も燃やされた‼ みんなとの縁が、切れちゃったんだよ……!」
ぼろぼろと、子供は涙を流して訴える。
子狐の気持ちは、分からなくはなかった。
戦は、人間を恨む妖怪が人間界に攻め込んだから始まった物。妖怪が攻め込んだのは、人間が負の歴史を積み重ねたから。
そんな理由を理解し、戦争を受け入れるには、この怨霊達は幼すぎる。
だが戦争が始まってから、すでに数ヶ月たっている。子供達は、それまで寂しさを我慢していたのだろう。
それが、敵を憎む気持ちを押しつける為の虐待をされて、爆発したのだ。
もちろん、子供達がやってしまったのは最悪な事件だ。無関係な大人も巻き込んでしまっている。死者も出た。消滅してしまった者もいる。絶対に許される事ではない。数十年後、彼らが死んだ後は確実に地獄堕ちになるだろう。
だが、もしも彼らが虐待されなければ、こんな事は起こらなかったのではないだろうか。
「……縁は、切れてないと、思う」
花耶は、春介がやっていたように屈んで、言った。
「縁は、物だけじゃ、ない。戦争、終わった後、あなたは、友達に、会いたいって、思ってる。みんなは、この子に、会いたいって、思ってる?」
子狐以外の四人を、花耶は見た。
「「「「…………」」」」
子供達は、こくりと頷く。
「なら、また、会える」
これは、花耶自身が信じている事だった。
縁は、意思や願いに宿る。お互い、会いたいと思っている限り、切れる事はない。
小首をかしげて、続けて諭す。
「またねって、約束、しよう?」
五人は、何も言わずに俯く。
綺麗事だと突っぱねる事はできた。
しかし、綺麗事で片付けるにはあまりにも、花耶は自分達と年齢が近く、まっすぐで優しい言葉だった。
「――」
子狐が返事をしようと、口を開いた。
その時だった。
【【だづげでえええええええええええええええええ‼】】
森の中。千絃達の後ろから、何かが助けを求める声が聞こえた。




