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 蛍原は、なぜ人間であるはずの清道が覚目なのか、そして覚目は元々、誰の物なのかが分かってしまった。

「おや? 貴方は蛍原(ゆず)さんのお祖父様ではありませんか!」

 一方で、清道も蛍原が誰なのかを覚目で知ったようだ。

(孫の、眼? それに、あの人、人間なのに、瞳、おかしい)

(何だ? オレらの味方してくれんのか? でも、何か怖ぇー奴だな)

 清道の嘲りを滲ませた笑顔に、花耶と灼は気味の悪さを感じていた。


「そちらのお二方は、今の状況がうまくのみ込めていないようですので、お見せしますね」

 そう言って清道は、サングラスを外した。

「「⁉」」

 清道の瞳の色は、蛍原の物とほぼ同じ、虹色の瞳だった。

「え? あいつ、人間だよな? 何で目が虹色なんだ?」

 灼の疑問に、清道は口を開く。

「この目は、そちらの覚、蛍原真幸さんのお孫さんから譲り受けた物です」


「違う‼」


 蛍原は叫び、駆け、清道に斬りかかる。

 だが清道は、短刀で受け止めた。

「孫は、祓い屋に拐われた。貴様の親が無理矢理抉り取ったのだろう‼」

「無理矢理とは心外ですねぇ。私の両親は、ちゃんと麻酔で眠らせて、目玉を頂きました。傷でもついたら使い物になりませんし」

 銃を撃つが、蛍原は避ける。

 覚目での読み合い。

 実力は蛍原の方が上に見えるが、彼は完全に頭に血が昇っていた。


「…………」

 灼は、この二人が言った事に呆然としていた。

「……灼。今の内に、この人達、安全な場所に、運んで。縄枷も、切っておこ」

「んぇっ⁉ あ、ああ」

 今のままでは流れ弾に当たってしまう可能性がある。

 今のところ、花耶が苦無で弾いてくれているが、弾の当たらない箇所に運んでおいた方が安全だ。さらに、縄枷を外す絶好のチャンスである。

 しかし、灼は内心それどころではなかった。

(妖怪を、拐った? 祓い屋が? しかも、目を移植?)

 灼は今まで、一部の例外を除いた妖怪は全て悪だと思っていた。しかし、彼らの話が事実ならば、祓い屋も妖怪に負けず劣らずのえげつない事をしている。

「な、なぁ花耶。あいつらの言ってる事、マジなのかな……?」

「……分からない。でも、嘘には、見えない」

 できれば嘘であってほしい。しかし、彼らの話に矛盾はないように聞こえる。

 もし、彼らの会話が事実ならば、本当の悪はどちらなのだろうか。


「っ!」

 清道は、だんだんと押されていった。

 今の蛍原は冷静でこそないものの、実力は申し分なかったようだ。

 このままでは負ける。

 そう思った清道は、ある情報を教える事にした。


「そうそう。覚目でお分かり頂けるかと思いますが、お孫さんはどうなったと思いますか?」

「‼」

 それだけは、覚目で見ていなかった。いや、怖くて見れなかった。

 蛍原は、口先では「覚悟している」と言っていた。しかし、十六年もの間、もしかしたら孫が生きているかもしれないという希望が頭の片隅から離れなかった。

 もし見てしまったら、その希望が消滅してしまうかもしれない。

「予想ついているけれど、恐ろしくて見るが事できないといったところですかねぇ。では、私が教えて差し上げましょう」

 清道は続ける。


「柚さんは、用済みになったので捨てられました」


 それは、限りなく絶望に近い情報だった。

 孫は当時、人間に換算すると五歳にも満たない年齢である。

 そんな幼い妖怪の子供が、一人、それも盲目で、見ず知らずの土地に捨てられた。


「生死は不明ですが、当時は幼い子供でしたからねぇ。もし無事に成長しても、体格はそこの死徒……花耶さんと同じくらい。そんな子供が、異能を使えないどころか盲目で、十六年も生きているはずがないでしょう」

 心臓に氷でできた刃物を突き立てられたような気がする。

 それは、心を折るのに充分すぎる威力を持っていた。


 ダァンッ。


 銃声が響き、蛍原の腹から血が噴き出した。

「「‼」」

 花耶と灼は、蛍原が吐血して膝をつくのを目の当たりにした。


「貴方と、お孫さんにはお礼を言わなければいけませんねぇ。私は生まれつき目が見えなかったのが、柚さんのおかげで見えるようになりました。それだけではなく、覚目という能力も手に入れた。祓い屋としてもかなり有用ですが、勉学や人間関係でも使える。医師免許を取得するのにも、大いに役立ちました。祓い屋としても、医者としても歴史に名を残すでしょう」

 そう自慢気に話す清道の銃を、蛍原は虚ろに見上げていた。

 清道は、蛍原の顔に銃口を向けた。

「お礼に、お孫さんに会わせて差し上げましょう。お孫さんだけではありません。娘さんや、その旦那さん、それに奥さんにもお会いできますよ」

 引き金にかかっている指に、力を込める。


 孫は死んだ。

 それは、無自覚にすがっていた希望を跡形もなく粉砕した。


 天涯孤独の身。

 もう、人間に復讐したところで家族はいない。


 生への執着は、風前の灯火となっていた。

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