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(律儀な女子じゃ。名は花耶と申すか。亡者なのが惜しい)
蛍原はそう思いながら、指示を出す。
覚目で思考を読んだが、花耶は逃げていない。灼に連絡だけして、奇襲を仕掛けるつもりである。
「兵器共。杖と苦無が打ち合わされし時、離れて女子に火球を撃て。余力は残すように。まだ人間を殺さねばならぬからな」
炎の燃え盛る音のみが、静寂に紛れ込む。
「!」
蛍原が振り返り、ある火鬼の背後に杖を突き出した。。
ガンッ。
ある火鬼の首、縄枷を狙った苦無は、杖に阻まれていた。
覚目は、相手の心を読む異能。目的の相手に効果を表すには、視認できなければならない。
しかし花耶の攻撃は、蛍原の視界外でのものだ。
つまり、苦無を阻んだ際、覚目を使っていない。
音が響いた瞬間、火鬼達はその場を離れた。
「!」
花耶が追おうとする。しかし。
「っ⁉」
蛍原に足をかけられ、転ぶ。
何十もの火の玉が花耶目掛けて飛んでくる。
「っ!」
転がって着弾点から逃げながら立ち上がる。
火鬼一人に接敵しようとすれば、蛍原が阻む。
別の火鬼の元へ駆けようとすればまた立ち塞がられる。
「ガッ⁉」
無理矢理抜けようとすれば杖で首や脛等を打たれる。
動きが止まったところへ、火鬼の火の玉が襲いかかる。
(近づけ、ない……!)
戦いにおいて、花耶は覚目との相性はいい。
しかしそれは、相手が覚目という強力な異能に頼りきった戦い方をしている場合。その場合は、相手は敵の行動を予測した上でどう対処するのか考えなければならない。最終的に、花耶の反射速度に思考速度が追いつけなくなる為である。
しかし蛍原の場合、戦闘経験が豊富なのだろう。
覚目を主体にするのではなく、補助として使っている。その上で、豊富な戦闘経験を元に異常なほど素早い判断で対応しているのだ。
覚目を使っている以上、フェイントも通用しない。動きは花耶の方が早いが、考えを読まれている以上先回りされてしまう。
「そろそろ諦めればどうじゃ。力の差は歴然。視力のよいおぬしならば気がついておるであろう。この杖は刀が仕込まれておる。白刃ならば、おぬしは死んでおった」
「んん。諦め、ません」
「……そうか。残念じゃ」
蛍原はなおも出し抜こうとする花耶の後頭部を打ち、同時に足もひっかける。
「っ!」
受け身を取る。
今までのパターンから、炎が飛んでくるのは予想できた。
「⁉」
しかし、飛んできたのは全く違う炎だった。
特大の火の玉。
(軌道が、違う?)
それらは花耶目掛けてではなかった。動かなければギリギリ当たらなそうな、周囲の地面。
「‼」
思惑に気がついた花耶は、咄嗟に火球の間に飛び込んで躱した。
だが、まるで待っていたかのように特大火球が襲いかかる。
「っ⁉」
飛び出すと同時に地面に着弾。周りを取り囲んだ炎の壁が燃え盛る
愛梨からもらった護符があるので、そのまま突破する事を考えた。
(……まずい)
しかし、ある事に気がついて、完全に詰んだ事を悟った。
(あの人達、詠唱、してない)
特大火球は、詠唱せずに発動した物だ。つまり、妖術ではなく、火鬼の霊力そのものである。
花耶は今、愛梨が作った物と慰謝料としてもらった物、二枚の護符を持っている。どちらも、一回だけ術による攻撃を無効化するもの。この炎の壁には、全く通用しない。
炎の壁がにじり寄る。
脳裏に、焼け死んで黒焦げになった自分が浮かんだ。




