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花菜はほとんど足音を立てずに蛍原を追跡していた。
妖怪に捕まり、兵器化された人間の居場所を突き止める為である。
一緒に行動しているはずの灼は、祓い屋にかけられた監視眼の効果が一時的に切れた為、人質の安否確認で、今は別行動中だ。
火の手が上がっている場所につくと、蛍原は口を開いた。
「……隠密か。出てきたらどうじゃ?」
その言葉に、花耶は目を瞠る。
(気づ、かれた?)
姿を現さずに様子を見る。しかし、何かの攻撃が飛んできたらすぐに回避できるように身構えた。
「兵器共‼ あの一帯を焼き払え!」
「⁉」
炎の中から火の玉が飛んできて、花耶はその場から飛び出すように避けた。
視線を蛍原に戻すと、何十人もの火鬼が蛍原の後ろに控えていた。
(気づかれてた……! でも、いつ?)
「先程じゃ。密偵としては、中々の才がありそうじゃな」
覚目で花耶の心を読み、答える。
花耶は一瞬動揺するが、一度心を落ち着ける。
「そちらの、方々を、指揮している方と、お見受けし、お願いしたい事、あります」
「兵器共の解放か。断る」
はっきりと拒否されたが、花耶は退かない。
「お願い、します。その人達の、帰り、待っている人達、います。灼……私の、後輩の友達も、います。大事な人達の、元へ、帰らせてください」
頭を下げて頼み込む。
できれば戦闘はしたくない。相手が生者と言うのもあるが、なんとなくこの老人の強さは察していた。
おそらく、勝てない。
「一つ、問おう。わしの家族は、孫以外死んだ。仮にわしが『常夜に逝ったであろう家族を返してほしい』と懇願すれば、おぬしは連れてきてくれるのか?」
できない。
屍霊にならなかった亡者は死んだ直後、生死の境に逝くか、生前の世界で浮遊霊か地縛霊として残るか。そして、生前の世界に残った場合はおよそ七週間以内に保護しなければ魂が消滅してしまう。
蘇生術も、最低一週間かかる蘇生を数秒に縮めるだけで、亡者を生者に戻す効果はない。死体に蘇生術を施しても、意思なく動く屍になるだけである。
死んだら、もう生前の世界で生者と同じように暮らすのは、ほぼ不可能だ。
「それと同じ事。これらの種族は人外。人間には受け入れられぬ」
「それは、違います。人外でも、受け入れてくれる人、います」
「おぬしも幾度か会うたであろう。容姿だけで妖怪と見破り、助けようとしても拒絶した愚かな人間を」
確かに、何回もそんな人間に会った。というより、最近の怨夢ではそんな人間しか見ていないし、例え妖怪だと分からなくても都市伝説の死神と間違われて警戒された事もある。
しかし、そんな人間だけではない。
妖怪だと分かっても、教師として生徒を信じた教師がいた。槍を向けられても、クラスメートを祓い屋から守ろうとした者達がいた。妖怪嫌いになったが、いい妖怪もいると分かってくれた少年もいた。
操られている火鬼達はまだ生きている。手遅れではないのだ。
「人間にも、色々な人、います。妖怪と、同じです」
「人間や、人間を好いている妖怪は皆、そう言うものじゃ」
蛍原は花耶の意見を否定し、切り上げようとする。
「これ以上言葉を重ねても無駄じゃ。仕事に戻るがよい」
確かに、これ以上はもう説得のしようがないように感じた。
しかし、諦めるわけにはいかない。
(一度、退いて、灼に連絡。その後、一人ずつ、奇襲を――)
「奇襲仕掛けても無駄じゃ」
……覚目は、本当に厄介な異能だ。策を考えても、このように筒抜けになってしまう。
「っ!」
花耶は一時、その場を走り去った。
分が悪すぎると思ったのだろうか。




