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「誠に、申し訳ありませぬ!」
案内された陣幕内。笹森城主は木佐貫に土下座して謝罪した。
「終戦した後、私はいかなる処分もお受け致します! どうか、戦が終わるまでの猶予と家臣に御慈悲を」
「いや。死徒誘致については不問とする。黒幕がいたようであったからの」
と、木佐貫の話を聞いて笹森城主は提案に来た第一討伐隊隊長と副長の事を思い浮かべた。
「黒幕については、後に話そう。その前に、この蛍原の功労もあり、天罰を免れた。その事を忘れぬよう」
「ははっ」
笹森城主は再び深く頭をたれた。
「失礼仕ります。第一討伐隊隊長、雪音。ただいま参上いたしました」
「入れ」
「は」
陣幕の外から聞こえてきた少女の声に、笹森城主は目を見開く。
陣幕内に入ってきたのは、雪女を彷彿とさせるほど真っ白な少女だった。
「偽りの提案をしてきた第一討伐隊隊長は、彼女か?」
「いいえ」
木佐貫が訊くと、城主は顔を横に振った。
「では、隊長と副長を自称した者の人相はどのようなものであったか?」
「隊長は、黒柿色の髪に短い顎髭を生やしておりました。副長は、白髪混じりの黒髪に眼鏡をかけておりました。見たところ、歳は百二十、背丈は六尺ほど。細身の人間の男でございます」
「……その者達は望月の階級章をつけていたか?」
「はい」
隊長は濃い茶髪に顎髭を生やした男。副長は白髪混じりの黒髪に眼鏡をかけている。共通する特徴は、身長百八十センチメートルの細身。そして外見年齢は人間のものに換算すると三十代くらい。
望月の階級章を持っている者の中で、そんな身体的特徴を持った者は見た事がなかった。
個々の特徴が合致する者はいる。しかし、女だったり、妖怪だったり、十代から二十代だったり等、全てが合致する者はいなかった。
(となると、変装か変化か)
もし黒幕が変化をしていたら、外見情報はあまり役に立たない。
だが、仮に黒幕が変装していた場合、容疑者はかなり絞れる。
まず、雪音と朧は除外されるだろう。
雪音の身長は百三十九センチメートル。四十一センチメートルもの差を埋めるのは、物理的に難しいだろう。
朧の体格と年齢は同じくらいだが、あの大きな単眼を隠すのは難しい。それこそ仮面等が必要になる。そんな目立つ物を着けていたら、外見的特徴に含まれていない方がおかしい。そもそも、それなら『副長も人間だった』なんて話さない。
さらに、階級章はかなり精巧な意匠だ。一から複製するのは難しい。
つまり、元から望月の階級章を持っている者。もしくは型を取る等ができる、階級章を持っていた者か、作っている職人。
その上で、変装しても変えるのが難しい体形と、性別と種族が合致する者。
さらにつけ加えるならば、第一討伐を疎ましく思っている者、もしくは第一討伐隊の関係者に怨みを持っている者が黒幕の可能性が高い。あくまで、変装だった場合だが。
(まずは、変装した場合の容疑者から調べるか。変化の場合は、その後に調べよう)
下手をすると、大量の生者が死んでいた危険があるのだ。部外者や黄泉軍に入ったばかりの者なら知らなかった可能性はあるが、望月の階級章を準備できるような者なら、さすがに天罰が下る事も想像できたはず。
何より、支部長として黄泉軍という組織を裏切る行為を見逃すわけにはいかない。
「…………」
雪音は、誘致について不問にするという神の判断に納得がいっていないようだった。
しかし、妖怪側の旗色も芳しくないのは事実。少しでも戦を有利に進めたくて、組織内のたわけ者が発した偽の提案に飛びついたというのも、頭では理解できる。気持ち的には大声で異を唱えたいが。
そんな雪音の不満を察したのか、木佐貫が言った。
「雪音。苦言あれば申せ。発言を許す」
「ありがとうございます。では」
雪音は城主を見据えて前置きした。
「私は卑しい身分の出。城主様に物申すのは畏れ多い事ですが、僭越ながら申し上げます」
一呼吸し、話す。
「もう御存知かと思われますが、屍霊は魂に傷を負った者でございます。あの子達も例外なく、生前に様々な不幸に見舞われましたっ。そんなあの子達に、守る為ではなく滅ぼす為に凶刃を振るわせる事が、どれだけ酷い事かお分かりでしょうかッ‼」
最初こそ理性的に話していたが、だんだんと感情が溢れるように語気が強くなる。
「たとえ縄枷で操られていて、法律上は罪に問われなくても、記憶には残ります! 自分やまわりに、「操られていたから仕方なかった」とどんなに言い聞かされても、心に傷を負います! 肉体的な傷はすぐに治っても、精神的な傷は中々治りません。人間にひどい目に遭わされ、復讐を誓った妖怪達を何人も見ている貴方でも、その事は分からないのですか⁉」
思っている事を一気に吐き出し、一度呼吸を整え、言った。
「もし、あの子達が戦場で戦わされていたら、私は貴方を闇討ちしていた事でしょう」
「雪音」
さすがに言い過ぎだと言わんばかりの、諌める声音で名前を呼ばれて、雪音は一度冷静になった。
「……失礼致しました。私情を挟みすぎておりました」
ひれ伏し、謝罪する。
「ですが、これだけは言わせてください」
起き上がり、城主をまっすぐ見て、口を開いた。
「怨みによって始めた戦は、竹の根のように深く広く強く禍根を残します。今、戦える人間を殺しても、いずれは成長した子供達が。人間を滅ぼしても、人間を好いている一部の妖怪の方々が。貴方達が滅んでも、貴方達を大事に思う者達が。妖怪の未来の為、戦という手段に手を出してしまった事を、非常に残念に思います」
雪音は「御無礼仕りました」と、静かにここまで言い終えた。
正直なところ、城主は雪音の言葉を不快に思った。特に闇討ちの発言は、木佐貫がいなければ不敬罪に処していたところである。
その上、理性的に語った所は政について何も知らないだろう幼子の綺麗言にすぎない。それを卑しい人間に言われて、癇に障った。
だが、戯れ言としては流せなかった。不快に思ったという事は、少なくとも感情を揺さぶられるくらいには、心に刺さったという事である。
死徒救出は無事成功。天罰も中止となり、関東にいる者達は難を逃れた。
また、詫びとして捕まった死徒達には一人一枚、護符が配られた。種類は違うが、愛梨が作った物と同じ効果の物である。
十一章に続きます。
また、プロット作成の為、来週は投稿をお休みします。
十一章1話は10月30日に投稿したいと思っております。




