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蛍原は木佐貫に謁見した。
木佐貫の両隣やや後ろには猫頭の神使が控えている。
「死徒誘拐についての情報があると聞いた。その事について、詳しく話せ」
木佐貫が情報について話すように促すと、蛍原は口を開いた。
「拐かされた死徒達は、笹森軍の陣幕付近、結界の中におります」
単刀直入に話し始め、自分が知る限りで他の情報も口にする。
目的は、死徒を兵器として使う為。
そうなるに至ったのは、ある死徒が「神が第一討伐隊のみ妖怪軍につかせる」と、殿を唆したから。
その死徒に「賛同している者はいない」と言われ、縄枷を使う事にした。
信じた理由は、証拠にボイスレコーダーを出されたから。
拐かす方法は、幻術をかけて惑わし、襲いかかるというもの。
「唆した死徒については?」
「第一討伐隊隊長と副長と自称しておりましたが、偽者であるかと思われます」
覚目で殿の心を読んだところ、二人とも人間の男だった。
しかし、蓮の心を読んだ場合、隊長は白児の女、副長は夜行だった。偽者であるのは確実。
「……そろそろか。文月、葉月。皆をこちらへ」
「「は」」
短く返事をすると、文月、葉月と呼ばれた猫の神使は立ち上がり、謁見の間から出ていった。
◆◇◆
「木佐貫様」
「各隊の長を連れて参りました」
しばらくすると、神使二人が戻ってきた。
木佐貫の許しが下りると、謁見の間に隊長達が入ってくる。
「!」
雪音の表情を見て、蛍原は意外に思う。
蓮の心を読んで見たところ、雪音はたおやかな笑みを浮かべていた。
だが、今の雪音は怒りを抑えて冷静を装ってこそいるものの、怒気が滲み出ていた。まるで猛吹雪のような荒々しさと冷たさを併せ持つ表情である。
「忙しい中集まっていただき、感謝致す。さっそく本題を」
挨拶を短く済まし、木佐貫は天照からのお告げを言った。
「第一討伐隊、一部の死徒が妖怪に拐われた」
『『‼』』
その場に緊張が走る。それもそうだ。
もしも襲いかかったのが人間だったら、妖怪や敵に攻撃しようとしていた所をたまたま巻き込まれたという可能性の方が高い。人間は亡者が視えないのだ。襲われても視えないからと諦める事ができる。
妖怪はそれこそ盲目でない限りは亡者を視る事ができる。単体ならば不慮の事故の可能性もある。
しかし大量の妖怪に襲われたとあれば話は変わる。意図的に襲った可能性が高い。
「目的は、死徒を兵器として戦場に投入するため。そうなれば、軍のいる関東に天罰が下るだろう。その前に、やめさせなくてはならない」
目的を簡潔に話し、周囲とは違う、物騒な緊張感を纏わせた雪音に目を向ける。
「雪音。連絡の取れない死徒はいかほどか?」
「十九人でございます」
雪音の口からは、いつもより固く低い声音が出てきた。
憤るのも最もだ。
雪音は生前、忌み子として生まれた。捨てられたのか死んだのかは分からないが、物心ついた時には両親はいなかった。
そんな雪音は生前と死後しばらくは、家族というものがよく分からなかった。それが今、部下と称してはいるものの仲間に対して家族のように大切な存在だと思えるようになった。
自分にとって家族と同じような存在を誘拐されて、怒らないはずはない。
「十九人は、笹森軍の陣幕付近にいるとの事。天罰についての真実味を持たせるため、私も参る。しかし、交渉が決裂した場合、実力行使になる可能性もあり。救出に参加する方はいるか?」
即座に雪音の手が上がった。
それに続くように、四、五人ほど手が上がる。
「承知した。尚、妖怪は第一討伐隊の隊長と副長を自称する者に唆されている。残る者は怪しい者を見つけ次第、報告を。では、散会」
号令により、不参加の者達は自分達の持ち場へ、参加する者達は自分達がいない間の指示を副長に任せに席を立った。




