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寿命の尽きた善良な魂の転生先を決定し、送り出す世界の一つ。天津神の暮らす場所、高天原。
天照大御神の社にある謁見の間に、関東支部支部長、木佐貫は呼び出された。
「面をお上げください」
促されて顔を上げると、凛とした美しい女神がいた。しかしその表情は、生前の世界で起こった戦による激務のためか、目の下に隈が浮かんでおり憂いを帯びている。
木佐貫も生前の世界に戻る暇すらない激務で疲労を溜め込んでいたが、それに負けず劣らずというところだろう。
「近頃、関東支部の一部の死徒達が妖怪軍に拐かされております」
「!」
木佐貫は、うっすらと隈のついている目を見開いた。
高天原を統べる存在である天照の言葉とはいえ、にわかに信じがたい。
妖怪は、神仏を畏れている。
たとえ本人達に全く自覚がないとはいえ、死徒は神々の下で働く者の一組織員だ。さすがに、直属の従者であり神としての弟子でもある神使より下位の存在だが、一応の身分は神の使いでもある。
敵対したら武力による抵抗はするだろう。しかし、妖怪が死徒達を誘拐などするだろうか。
しかも、その誘拐は組織的に行われている。
普段ならばまず、黄泉軍での対応になるのだが、現在は戦の真っ最中でそんな余裕はない。地獄に堕ちた者の対応で、地獄も多忙を極めている。天使は他と比べて元々の人数が少なく、普段の仕事に加えて様々な理由で怪我を負った者の治療のため、現場から人員を割けない。
その場合、動かなくてはならないのが神となる。誘拐した理由によっては、天罰が下る可能性もある。
神仏を畏れ敬う者達が、最悪な時期に死徒達で構成された組織に喧嘩など売るだろうか。
「さらに、こちらを」
形の良い指先を、最奥に設置されている大きな銅鏡に向けた。
そこには、首に縄枷をつけられた死徒達が映っていた。
もし謁見の間でなかったら、天照がその場にいなかったら、木佐貫は目元を覆って天を仰いでいた事だろう。
部下の一人である雪音から聞いた話だが、妖怪軍は拐ってきた人間を無理矢理妖怪に変え、縄枷をとり着けて兵器として使った。
銅鏡に映っている光景は、おそらく自分が考えられる中でも絶対に外れていて欲しい予感が当たっている事を意味していた。
「貴方も予想ついているかもしれませんが、妖怪軍は死徒を戦の兵器として使おうとしています。死徒達が兵器として戦場に出た場合、妖怪軍に天罰を与えなくてはなりません。天罰が下った場合、罪のない者達も巻き添えにしてしまうでしょう」
神の力は非常に強力だ。その為、天罰を与えようとすると広範囲に影響を及ぼしてしまう。神としても、それは避けたい。
天照は続けて命じる。
「中津神、黄泉軍関東支部支部長、木佐貫。暫しの間、暇を与えましょう。必ずや、妖怪軍から死徒達を連れ戻してください」
「御意」
木佐貫は短く答え、頭を下げた。




