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花耶は灼と与一郎に連絡と取ろうとしていたが、なぜか通信鏡が繋がらなかった。
いつもは任務が終わると、灼か現世見廻を代わってくれた先輩に連絡を入れて、待ち合わせして合流するのだ。
(……何か、あった?)
今は戦時中。通信鏡に出られない何かが起こったのかもしれないと花耶は思い、担当区域を探し回る事にした。
大通り、駅、公園、住宅街……。
(……静かすぎる)
もちろん遠くでは、発砲音や爆発音、それに混ざって微かな悲鳴も聞こえて無音ではない。
しかし、今まで灼と行動していたせいか、淋しさすら感じる静けさに感じた。
(早く、二人、見つけよう)
花耶は歩みを早めた。
◆◇◆
住宅街を歩いている時、もう一度通信鏡をかけた。今度は出るかもしれないと思ったからだ。
「!」
すると、通信鏡の呼び出し音が聞こえた。
通信鏡は複数人とのテレビ通話とメール機能の備わった二つ折りの鏡である。振動と音による呼び出しの、二つの内どちらかを設定できる。
音のする方へ移動すると、フードを被った後ろ姿があった。音は、その人物からしている。
「いた。灼」
と、声をかける。
パッと見、後ろ姿だけでは判別つかなそうだが、今、花耶がかけているのは灼と与一郎の通信鏡。身長とフードの形から、目の前にいるのは灼だと判断した。
「灼、与一郎先輩は?」
駆け寄りながら訊くと、灼は勢いよく振り返り、花耶の左手首を掴んだ。
「!」
その首には、縄枷がくくりつけられていた。
ベキ、ビキと、花耶の手首から骨に皹の入る音がする。
灼の手を外そうとするが、ガッチリと掴んでいて外せない。
霊棍を取り出し、縄枷を切ろうとする。しかし、灼は手を自身の首に当て、縄枷を守る。
「灼! 起きて!」
呼び掛けるが、虚ろな顔のまま変わらない。一瞬でいいから手をどけてくれれば、縄枷を切る事ができるのに。
灼は、花耶の呼び掛けを拒絶するように、手首を掴んでいる手に力を込めた。
ボギッ。
「っ‼」
切断とまではいかないが、骨を砕かれた。
「っ⁉」
肉がちぎれるような痛みを伴い引き寄せられ、灼の角が迫る。
「っ!」
かろうじて頭突きは躱した。ただの頭突きとはいえ、鬼のような怪力にされたら、確実に頭蓋骨が割れる。
だが、その結果。
バキッ。
「⁉」
肩に牙を立てられ、咬み砕かれた。
だらりと右腕が垂れる。
一瞬で砕かれた肩から口を外した灼は、花耶の右手首を掴んだ。
「やめて! 痛い!」
抵抗するが、左手首がちぎれるような激痛と右手首の圧迫が襲う。
やがて、花耶の右手から苦無が落ちた。血流が止まったのか、右手が痺れて力が入らない。
痛みで視界がにじむ中、ひょいと抱え上げられる。やや息苦しいほどの力で絞められる。
なんとか身をよじって進行方向を見ると、黒い穴があった。
(拐い道⁉)
拐い道とは、隠し神という妖怪の異能だ。近寄ると黒い手が無数に飛び出し、引きずり込まれる。
「お願い、止まって!」
膝で軽く蹴る。だが、止まらない。
「んぎ、ぃ」
縄枷を噛みちぎろうと食らいつくが、全く切れない。
やがて穴の前に立ち、灼は飛び込んだ。
一瞬の浮遊感。
直後、黒い手に覆われるように全身を掴まれ、引きずり込まれた。
◆◇◆
気がついたら花耶は、ある軍の陣幕内にいた。
森の中でも目立たない暗い色の布に囲まれた区域で、入り口には四人の鬼がおり、まわりには数人の死徒がいる。全員が縄枷をつけられていた。
「!」
その死徒達は、花耶の知り合い――第一討伐隊の先輩達だった。
「押さえていろ」
鬼の一人が言うと、死徒達は花耶の頭、肩、腕を掴み、首を差し出すような姿勢をとらされる。
「正気に、戻って!」
花耶は呼び掛けながら抵抗する。しかし、全員力を緩める事はなかった。
別の鬼が縄枷を出し、花耶の前に屈んだ。
「みんなの、縄枷、外してください!」
花耶は鬼を睨みながら言う。
「駄目だ」
鬼は冷たく言い放ち、縄枷を花耶の首に取りつけた。
外れないよう、しっかり結ぶ。すると結び目が消えた。
「…………」
花耶の抵抗する力が、なくなった。
兵士として使う為か、怪我を快癒で治療された。しかし、異空鞄も含めて持っている物を全て没収され、見張り付きの結界内に閉じ込められた。
来週はプロット作成の為、投稿をお休みします。
十章一話は再来週の9月11日に投稿します。




