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 日差しが強くなってきた季節の公園。戦時中でさえなければ、夏休みで遊ぶ子供達で賑わっていた事だろう。

 花耶は怨夢探索の任務の為、人気のない公園には灼と先輩、与一郎がいた。日陰で昼食のおにぎりを食べている時である。

「……」

 灼は珍しく元気がないように見えた。

「花耶が心配か?」

「ほりゃ、……。心配にもなるっすよ」

 与一郎が訊くと、灼はもそもそ咀嚼していたおにぎりをごくんと飲み込み、答えた。


「前は怨夢なんて二週間に一回あるかないか。多くても週に一回ぐらいだったじゃんか。それが、もう今月に入って二週間なのに六回。それに、任務から帰ってきた花耶はどこか辛そうなんだよ。前回なんて、この世の終わりみてーな顔で帰ってきたし」

「あー。花耶って優しい分、気持ちの切り替えがド下手だからなぁ」

「切り替え?」

 灼は小首を傾げた。

「そ。怨夢って、怨んでる奴をぶち殺す為に作った空間だろ。だから、生者が殺される事も多い。花耶はそれを「自分がもう少し早く駆けつければ」って思うんだろう」

 そう聞いて、灼は自分が初めて花耶と話した時の、罵詈雑言を投げ掛けてしまった黒歴史を思い出した。

 あの時、花耶は「助けるのが遅れた」と謝ってきた。もう四ヶ月も過ぎていたのにだ。

「俺らにもそういうのはあるけど、仕方なかった、次に生かそうって思うようにしてる。じゃねぇと、精神的にもたねぇから」

 与一郎は、指についた塩を舐め取って、二個目のおにぎりに手を出す。


「花耶はどうしても前向きに考えられない。でも、当然と言えば当然だ。怨夢内では俺達は救助する立場で、人の命や魂がかかってるんだから。真剣になりすぎるんだよ」

「……確かに当然かもだけど、それじゃあいつ、だいぶ辛いだろ。先輩ですらキツくなるくらいだし」

「間違いなく辛くなるだろうから、まわりが励ましたり、気を紛らわせたりしてるんだよ」

 与一郎は答え、自分なりのアドバイスを続けて言う。

「もし、花耶を元気づけたかったら、頭でも撫でてやりな。そうすれば多少は気が楽になると思う」

「はい!」

 灼は頷き、残ったおにぎりを一個、異空鞄にしまおうとした。

「あれ? もう一個食わねぇの?」

「花耶にやろっかなって。腹減らしてると思うし」

「気持ちは嬉しいだろうけど、あいつじゃ三個も食えねぇって。それにお前、享年が高校生だろ。握り飯一個じゃあ足りねぇだろ」

 確かにおにぎり一個では全く足りない。花耶の分は、ちゃんと確保してある。

 灼は素直に残りのおにぎりに口をつけた。


「あ! それと、あいつよく無茶するじゃないすか。花耶がえげつない怪我すると、なんかオレの心臓がぎゅるって感じになるんすよ」

「どんな擬音だよ」

 今思い出したように言うと、与一郎にツッコミを入れられた。

「でも怪我する理由が、大抵オレを庇った結果だから強く止められねーんすよ……。どの口案件で……」

 灼は項垂れた。

 ここ数ヶ月、花耶が無茶をして怪我をする場面を見てきた。その状況が、流れ弾や、人間を助けようと妖怪の邪魔をして、キレた相手の攻撃から灼を守る為と言うのがほとんど。

 花耶は何も言わないだろうが、無茶をやめてほしいなら灼がもっとしっかりしないといけないような気がする。

「あー。ほりゃ言いふれぇわ」

 おにぎりを頬張りながら与一郎は納得し、ごくりと飲み込む。

「でも、後輩の心臓に負担かけるほど不安にさせるのは先輩として問題あると思うから、花耶には言っとくわ」

「お願いします」


◆◇◆


 悩み相談しつつおにぎりを食べ終え、現世見廻を始める時だった。

 ビリッと、与一郎の羽織の内ポケットから、音が聞こえた。

(何だ? 妖術の流れ弾か?)

 内ポケットを調べて護符が破れているのが分かり、こう推察する。

 しかし、すぐに流れ弾でない事が分かった。

「あ、花耶!」

 灼の弾んだ声が聞こえ、振り返る。

「⁉」

 灼の駆け寄る先にいたのは花耶でなく、見ず知らずの化狐だった。

(まさか、流れ弾じゃなくて幻術か⁉)

 そう思い、咄嗟に灼の肩を掴んで止める。

「灼! それ花耶じゃない!」

「んぇ⁉ 与一郎先輩、なんだ――」

 振り返った灼の顔が、恐怖に強ばる。

「ヨギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア⁉」

「どわ⁉」

 絶叫し、突き飛ばす。

 訓練の賜物か、予想外の相手の不意討ち、それもかなりの力だったのにも関わらずに受け身を取る。

「何で首燃えてんだよ⁉ 夜行がいるのか⁉」

「馬鹿何言って……。あーくそ! 幻術かよ‼」

 今、灼の目には化狐が花耶に見え、さらに与一郎は首斬り傀儡の死体に見えるという事だ。

「こっち! 逃げるよ!」

「! おう!」

 おそらく、花耶と似せようとすら思っていない声や口調も、灼には花耶のものに聞こえるのだろう。

「行かせるか!」

 与一郎は灼の羽織の裾を掴む。

「うわあ⁉ くそ! 離せ‼」

 灼は羽織を引いて離そうとする。

 普通の服だったら破けるところだったが、鎧草で作られた黒羽織ならば破ける心配はない。

「この!」

 灼は拳を振り上げ、与一郎の背に落とそうとするが、それよりも早く与一郎は懐に踏み、みぞおちに肘を叩き込んだ。

「ガハッ⁉」

 かすれ気味の悲鳴の後、灼はぐったりと気絶する。

「っち! 《狐火(きつねび)》!」

 化狐が詠唱すると、狐の頭部を象った火の玉が大口を開けて襲いかかる。

 しかし与一郎はそれを躱し、化狐に接敵。

 補助武器である小さなナイフを取り出しながら壁に押しつけ、着物の袖を皹の上に広げ、ナイフで刺した。

「くっ!」

 化狐はナイフを外そうとするが、しっかりと皹にはまりこんでおり、抜けなかった。

「《きつ――》んぐ⁉」

 詠唱を唱えられそうになったが、与一郎は自身の腕を化狐の口に押しつけ噛ませ、妖術を封じる。

「悪ぃな。幻術を解くためなんでッ!」

 ゴッ。

 そして、こめかみを殴りつけて気絶させた。


「よし。これで幻術解けたろ」

 そう言いながら化狐の口から腕を外し、ナイフを引っこ抜いた。

「おい、灼。起きろ」

 ぺちぺちと頬を叩くが、全く起きる気配がない。

(やべ。これ加減間違えたか? そこの化狐が起きるかもしんねぇし、移動しておいた方がいいか)

 もう愛梨が作った護符はない。次に幻術を使われたら、ほぼ確実に捕まるだろう。この辺りの建物はほとんど壊れており、身を隠してやり過ごすには不適切。

 灼を起こすなら、安全な場所の方がいいだろうと判断した。

「よっと。……重っ」

 背負って歩き出した。

(それにしても、さっきの幻術は完全に俺達を狙って来てたよな?)

 運びながら考えた。

(流れ弾ならまだ故意じゃないし、人間を助けようとしたなら完全にこっちが邪魔をしたから分かるけど、なんで妖怪が死徒を狙ったんだ?)

 死徒や獄卒は天使と同じく、神の下で働く使いだ。死徒は他二つと比べると、生者は身近な存在なので、あまり実感がわかないが。

 さすがに、死徒は神直属ではないので言語道断というほどではないが、理由もなしに向こうから襲ってくるのはあまり多くない。

(とりあえず、こいつを安全なとこに運んだら雪音さんに報告しておかねぇと)

 と思い、なるべく損傷の少ない建物を探した。


「いたぞ!」

「死徒だ!」

 その途中、今度は妖怪の集団に見つかった。

「げ! 嘘だろ⁉」

 姿を現したのは鬼が四体。

 相手がどれくらいの強さかにもよるが、普通ならば戦えなくはない戦力差である。しかし灼を守りながら相手にするのはかなり厳しい。ましてや、生者を殺したり後遺症が残るような怪我を負わせるのはご法度。

 これは、とても勝てない。

 しかし逃げても、灼を背負ったままではスピードが出ない。

「おい灼! 起きろ‼ マジで起きろ‼」

 一度灼を下ろし、バシバシと頬を叩くが、その間にも鬼が迫る。

 灼を置き去りにするか、負けると分かっていても庇いながら戦うか。

(雪音さんに報告しねぇとならねぇ。灼を置いていけば、俺は逃げられる。二人とも捕まるわけにはいかねぇ。でも)

 与一郎は霊棍を出し、霊力を込め、刀に変えた。

(後輩は、置いていけねぇ)

 たとえ最悪な結果になろうとも、前者は選べなかった。

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