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 関東のどこかにある公園。

 いつもは子供達が遊んでいる場所も、戦争により血塗られた場所に変えられてしまった。

「貴女はどこを狙って攻撃しているのですか? 私には掠り傷すらついてませんよ」

 と、目元を隠すようにサングラスをかけた祓い屋が笑う。

 祓い屋に相対するのは、一人の鬼女(きじょ)。すでに血だらけで疲労困憊していた。

「糞がッ‼」

 鬼女の周囲には、枯れ葉が舞っている。その一枚一枚が祓い屋に襲いかかる。

(落ち葉舞いは目眩まし。本命は)

 枯れ葉を躱すと、鬼女が飛び出して、金砕棒を振り下ろす。

 しかし祓い屋は飛び退いて躱す。

 鬼女はさらに金砕棒を横に薙ぐが、祓い屋はその下を潜るように避けた。

「ぐっ⁉」

 そして、がら空きになった鬼の脇腹に短刀を突き刺す。

 鬼女は蹴りをかますが、祓い屋は難なく避ける。


 まるで、鬼女の行動を全て分かっているかのような動きだった。


 この鬼女は感覚が鋭く、祓い屋からかすかに妖気を感じ取れた。

 しかし、人混じりと仮定しても彼から感じ取れる妖気が異常に薄い。比較的近い先祖に妖怪がいるのだろうか。


「刺してもそこまで動けるとは。さすが、鬼ですね。人間よりもタフです。さらに、先程金棒を振り抜いた際の風圧も中々。やはり雌でも力が強い」

 祓い屋は誉めながら、こう続けた。

「その圧倒的な力で、か弱い人間を嬲って遊ぶのはさぞかし楽しいでしょうね。妖怪は皆、弱者を虐め殺して遊ぶのがお好きなようですし」

「‼」

 鬼女は目をかっ開き、怒りを叩きつけるように金砕棒を振るう。しかし、祓い屋は挑発するように躱した。

「弱者を虐め殺すのが好きだと?」

 低い、怨嗟のこもった声で訊き返し、叫ぶ。

「ふざけるな‼ それは人間の方だろうがッ‼」

 金砕棒が鉄棒に当たり、鉄棒は大きくひしゃげる。

「先に我ら妖怪を迫害し、何百年も昔に拓いて住んでいた土地を追い出した‼」

 落ち葉を祓い屋に飛ばす。

「散々利用するだけ利用して、役にたたなくなれば殺した‼」

 落ち葉に紛れて金砕棒を袈裟懸けに振るう。

「我々は忘れはしない‼ 文明開化の人外狩りから続く、妖怪達の悲劇を‼」

 金砕棒は避けられ、地面が深く割れる。

「女も、子供も、老人も、病人も関係なく殺した‼ お前達のしている事こそが弱者殺しじゃないかッ‼」

 砂を巻き上げるように金砕棒を振り上げる。

「失礼。少々勘違いをさせてしまうもの言いでした」

 祓い屋は飛び退いて攻撃範囲外に逃れる。

「老人は、その長い人生経験から妖力や妖術の扱いに長けております。妖怪の雌は雄と比べて確かに腕力等は劣るかもしれませんが、代わりに豊富な妖力を得る傾向にあります。さらに動けなくなった病人でも、妖術は使用できます。祓い屋の中には、四肢を斬り落とした妖怪に対して油断をし、妖術で返り討ちにされた方もいらっしゃるようですしね」

 大振りな技を使った隙をついて、祓い屋は懐に飛び込み、鬼女の脇腹に刺さっている短刀の柄を握った。

「充分、人間より強いじゃないですか。ですから、私達の行いは弱い者虐めではありません。正当防衛です」

「ぐぁ⁉」

 足払いをかけ、転ばせる。短刀は、傷口を広げながら抜けた。

「さらに、妖怪の子供は確かにその時は弱いかもしれませんが、将来的には確実に人間にとって危険なほど強くなる」

 祓い屋は短刀を振りかぶる。


「危険な化け物を、弱い内に殺して、何が悪いんですか?」


 短刀を、振り下ろす。


 しかし鬼女は、祓い屋の目元目掛けて落ち葉を飛ばした。

「おっと!」

 祓い屋はとっさに飛び退く。

「危ない危ない。ある能力がなければ目を潰されてしまうところでした」

「チィッ」

 鬼女は舌打ちする。

「それに、人外狩りなんていつの話ですか? 人間からしてみれば、ご先祖さんの話ですよ? そんな昔の事なんてもう時効です」

 鬼女は金砕棒を握り直して、血と落ち葉を撒き散らしながら、祓い屋に襲いかかる。

「知ってますか? 殺人事件の時効は十五年ですよ。すでに廃止されてしまっていますが、廃止したのは人間ですからねぇ。妖怪が殺されたならば適用されないでしょう」

 祓い屋は楽しそうに紙一重で躱す。

「ここは確かに昔は妖怪の土地だったでしょうが、今は人間の町です。すでに人間が暮らしやすいように作り替えましたからねぇ。よく見てください。ここに、貴女方の故郷の面影がありますか?」

「っ‼」

 祓い屋の言葉に、鬼女は狼狽える。


 駆け回った野原も、魚を獲った川も、幼い頃に死んだ両親から受け継いだ家も、もう何もない。手伝いをした畑も、硬いアスファルトの下。

 まるで、異界に迷い込んだ気さえしてくる。

「『まるで、異界に迷い込んだ気さえしてくる』ですか。故郷や人外狩りの事なんて忘れて、長い余生を穏やかに暮らしていれば、そんな寂しい思いをしなくてすんだのに。妖怪って、本当に馬鹿ですねぇ」

 祓い屋は、クスクスと嗤いながら、ある物をポケットから出した。

「黙れぇ‼」

 その発言は、鬼女の逆鱗に触れた。

 渾身の力を込められた金砕棒が、祓い屋の頭目掛けて振り下ろされる。

 しかし、祓い屋は半身になって躱し、踏み込みながら手に忍ばせた呪符を鬼女の腹に貼り付けた。


 バチィッ。


「ギャッ⁉」


 呪符から電光が出て、鬼女の体に這いずる。


「痺雷針の術式を込めた呪符です。これでしばらくは動けなくなるはずですよ」

 説明する祓い屋を鬼女は睨む。

「き、貴様……!」

 しかし、体が痺れて動かない。立ち上がろうにも足が痙攣している。腕にも力が入らない。

「貴女はまだ必要な人材ですから、まだ殺しはしませんよ。そのお体を、最期まで人間の為に使わせてもらいます」

 サングラスの奥で、一瞬何かが虹色に光った気がした。

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