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愛梨は魂を十個ほど腕に抱えて、獄卒の元へ移動していた。
今は歩いているが、先程は走ったのだろう。若干、息が切れていた。
「だから! それは花耶が持ってろって!」
「……ん?」
灼の声が聞こえて、愛梨は振り向いた。
そこでは、灼と花耶が護符の押し付け合いをしていた。
「んん。灼、持ってて」
「いやいや、それ花耶のじゃんか! もし魔法飛んできたらどうするんだよ!」
「平気。避けられる」
「必中攻撃とか不意討ちくらうかもだろ! さすがにそれまでは避けられねーって!」
「不意討ち、避けられる。必中攻撃は、灼も、同じ。だから、持ってて」
「だからいらねーってば!」
筋力的に、灼の方が優勢のようだ。しかも、花耶はなぜか右腕しか使っていない。
「……えーと。二人とも、どうしたんですか?」
「「!」」
愛梨が駆け寄り、声をかける。
「んぉ! 愛梨、ちょうどいいとこに!」
「うわ⁉ 灼、その目どうしたの⁉ 監視眼にかかってるじゃん!」
「ちょっと色々あったんだよ! そんな事より、花耶の左肩治してくれ!」
肩を負傷していたから片腕しか使っていなかったんだなと思いつつ、愛梨は灼に魂を持っててもらい、花耶の肩に快癒をかけて治した。
「それで、二人ともどうしたんですか?」
治療し終えて魂を返してもらいながら灼に訊く。
「さっき、ちょっと祓い屋とトラブってな。呪いかけられたんだけど、その時に護符を使っちまって。それで、花耶が護符をオレに渡そうとしてきたんだよ」
「それで遠慮したと」
「そう。だって花耶、オレより脆いじゃん? 怨夢の任務も入るし。絶対、花耶が持ってた方がいいと思うんだけどな~」
そう言いながら、灼はジト目で花耶を睨む。しかし花耶は首を横に振った。
「術なら、大抵、避けられる。灼が、持ってる方が、いい」
花耶は治った方の手で灼を指差す。
二人の言い分は、分からなくはなかった。
確かに灼の言う通り、花耶は体が脆い上に危険な任務に就く事がある。
しかし、花耶は自分の欠点を補う為に回避力を強くした。速力特化な上に小回りの効く彼女に攻撃を当てるのは至難の技。どんなに重い攻撃でも、体が脆くても、当たらなければいいのだ。
攻撃が当たるとすぐに倒れてしまう花耶か、被弾率の高い灼か。
「……私の護符、使います?」
「んん」
「それは愛梨が持ってろ」
即答で拒否られた。
「ところで、魂、しまわないの?」
花耶が愛梨の抱えている魂を見て、こてんと小首をかしげる。
「集めすぎて影にも異空鞄にも入らなくなってしまって……」
本日、愛梨が担当する区域で妖怪と人間が交戦したらしく、えげつない数の魂が浮遊していた。
最初は影にしまっていたが入りきらず、異空鞄にも詰め込めるだけ詰め込んだがいっぱいになってしまい、最終的にはこうして抱えて運ぶ事にしたのだった。
「じゃあ、抱えてる分はオレらが持つか?」
「え、でも……」
「大変、そう」
確かに数が多くて持ち運ぶのは大変だが、申し訳なかった。
「オレらはまだ三分の一ぐらいは余裕あるから大丈夫!」
「結構いっぱいだよ⁉ さすがに申し訳ないから――」
ひょい。
「え?」
腕の負担が少し軽くなって、視線を落とした。
花耶が魂を半分ほど取り、影の中にしまっていた。
「あ、あの。花耶先輩? 本当に申し訳ないから、大丈夫ですよ?」
「んん。怪我、治してくれた、お礼」
どうしても手伝う気のようだ。
「んじゃ、そういうわけでっ」
「あっ!」
灼も、愛梨が抱えている残りの魂を取り上げ、影の中にしまった。
「あ、ありがとう、ございます……」
(いいのかな……? なんか、申し訳ない……)
もしこの二人が困っていたら、できる事は少ないかもしれないが率先して助けよう。愛梨は申し訳なさから思った。
「それで灼。その監視眼なんだけど、解けたら解こうか?」
「いや。解いたら色々まずいから、大丈夫」
灼の友人二人は、祓い屋と行動を共にしている。人間に不利な事をしないよう、監視をする為だ。灼の呪いも、同じ意味でかけられた物である。もし解呪してしまったら、友人達の身に何が起こるか分からない。
最も、何か起こったらクラスメート達に筆談で伝えてピクッターに晒してもらう気ではいるが。
「そう。なら、あまり霊力を使わない方がいいよ」
「え、何で?」
「呪いっていうのは、他の術とは違って、効果の維持に術者以外の霊力を使う。かけられた人の霊力とか、生け贄とかのね。つまりその監視眼は灼の霊力を使って維持されているの。纏霊刃くらいならあまり問題はないと思うんだけど、使い過ぎたら霊力切れ起こして動けなくなるよ」
ただでさえ妖怪の死徒にしては、灼の霊力はやや少ない。それなのに今は、呪いの維持に無駄な霊力を消費しているのである。
纏霊刃や異空鞄のように消費する霊力が少なければあまり問題はないだろうが、もしこれで炎の壁を作るなどの霊力の消費が激しい事をすれば、確実に霊力切れを起こすだろう。
「マジか……。分かった。あまり派手な事はしねーようにする」
と、灼は了承した。
「それじゃ、私はそろそろ行きますね。魂、ありがとうございます」
「ん」
「おう!」
と、別れようとした時だった。
ひゅーという、細い音がした。
「ん? 何だこの音」
と、灼が言う前に花耶が飛び出した。
流れ弾だろうか。炮烙玉と呼ばれる爆弾が飛んできた。
花耶は炮烙玉を飛んできた方向へ蹴り返し、着弾地点の近くにいた愛梨を突き飛ばした。
しかし、もう導火線が短くなっていた。
「きゃ⁉」
愛梨が転ぶと同時に、ドォンッと音がした。
灼は爆発範囲の外にいた。愛梨は花耶に突き飛ばされて、地面に伏せるような体勢だった為爆風をほとんど受けずにすんだ。多少の破片が当たりはしたが、羽織のおかげでほぼ無傷。足に多少の破片が当たったが、快癒で事足りる程度である。
しかし、炮烙玉の近くにいた花耶は、爆発に巻き込まれてしまった。
「「⁉」」
煙が晴れると、花耶が俯せで倒れていた。しかも、背中に火がついている。
鎧草は頑丈で燃えにくい繊維が取れるが、それはあくまで普通の繊維と比べて。火鼠の毛や皮と比べたら、普通に燃えるのである。
「うわぁあ⁉ ヤバいヤバいヤバい‼」
灼はあわてて火元を叩いて消火する。さすが火鬼というだけあって、多少熱いだけで火傷を負うことはなかった。
「っ⁉」
その時に羽織の膨らみで気がついた。花耶の脚が、片方ない事に。
「せ、先輩‼」
愛梨が悲鳴じみた声で呼びかける。
「…………」
花耶は首を動かし、後輩二人を見て、真っ青な虚ろの表情でこう呟いた。
「そせー……じゅつ……?」
「…………」
「ごめんなさい……!」
灼はかけてやれる言葉が見つからず、愛梨は顔を青ざめさせて謝罪した。
部位が原型を留めている上で切断等のきれいな傷口ならば話は別だが、先程までの花耶の脚だった肉塊のように木っ端微塵になると、快癒では治しきれない。
別の妖術で欠損まで治す物はあるのだが、時間がかかる上に霊力も大量に使う。愛梨は魂を回収している途中で快癒を使っており、その妖術を使えるだけの余力は残っていなかった。
◆◇◆
花耶は足の負担を度外視して第一匍匐前進で逃げようとした。地味に速かったが、あっさりと灼に捕まった。花耶よりやや遅いとはいえ、一般的にはかなり速い方だ。その上、灼は両足で走れる。当然の結果である。
その後、蘇生術による断末魔の不協和音コーラスが響く会場まで連行された。その間、花耶はなんとか灼の腕から逃れようとしていたが、鬼の怪力の前では無駄な抵抗だった。
護符を一時的に灼に預けて蘇生術を受けると、精神的にはとても無事とは言い難かったが、脚はちゃんと再生した。
「か、花耶先輩……?」
「連行したオレが訊ける事じゃねーかもだけど、大丈夫……?」
「……ん」
戦時中の仕事は、本当に何が起こるか分からない。それを身に染みて理解した三人だった。
ちなみに護符については、よく他人を庇うので花耶も被弾率はそこそこ高いと見なされ、彼女が持っている事になった。
花耶はそれでもごねていたが「千絃にチクるぞ」の一言で了承した。
プロットの作成の為、来週は投稿をお休みします。
八章1話は6月5日に投稿したいと思っております。




