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 国道近くのある住宅街。

 ある男女の集団が、急いで別の避難場所に向かっていた。

 最初に逃げ込んだ避難所は、妖怪によって壊された為である。運よく逃げ出す事ができたのだ。

 先頭にいる女教師が、曲がり角から顔を覗かせる。生徒からさっちゃん先生と親しまれている、白鳥幸恵(しらとりさちえ)である。

 人がいないか、地響きのような足音はないか、他に気配や聞きなれない音はないか。神経を研ぎ澄ませ、安全な道だと判断する。

「大丈夫そうです」

 幸恵が言うと、念のためにまず、生徒の父親が何人か曲がり角を進む。何もなかったので、女と生徒達が後を追い、その後に残りの父親。


 最後に、幸恵が進むのだが、一度後ろを振り返る。

「⁉」

 屋根の上に、黒い影が見えた。

「ヒヒヒ、人間共‼ 待ちやがれ‼」

 大猿は巨体に似合わぬ身軽さで降りてくる。

 完全に、こちらを狙っていた。

「皆! 走って‼」

 幸恵の悲鳴じみた言葉に、彼らは駆け出す。幸恵も、彼らを追い越さないようにしながらもスピードを出した。

「何なんだよあれ‼ 猿⁉」

「喋る猿なんて見たことないわよ‼」

 追ってくるのは、黒い体毛に覆われた猿だ。しかし、明らかにただの猿ではない。

 人語を話すのもそうだが、普通の猿より明らかにデカイ。人間など、二、三人は軽く持ち運べそうなほどである。

 あれは、狒狒(ひひ)という大猿の妖怪だ。肉、特に女の柔らかい肉が、食べ物として大好物である。


「お針! やれ!」

 狒狒が言うと、背中から鉤針のついた黒髪が伸びてきた。

 狒狒の巨体で見えなかったが、背中には女がいたのだ。

「うわぁ⁉」

 殿を走っていた幸恵が、髪に捕まってしまった。

「放しなさい! 放せ‼」

 髪から逃れようとするが、もがくほど鉤針が肌に刺さる。

「ひっ!」

 一気に引き寄せられる。

 狒狒の牙が、迫る。

「い、いやぁ‼ やめて‼ 死にたくない‼」

 鋭い牙が、幸恵の腕と肩に食らいつく――。


 バキッ。


「ブヘッ⁉」

「⁉」


 その寸前、青いパーカーを着た男の飛び蹴りが、狒狒の頬に叩き込まれた。

「きゃあ⁉」

 狒狒の背中から、女が転げ落ちる。針女(はりおんな)という妖怪だ。

「ふん!」

 青パーカー男は、幸恵に絡みつく髪を掴むと、力任せに引きちぎった。

「先生! こっち!」

「!」

 別のパーカー男が、幸恵の腕を引いて走る。その後ろを、青パーカー男がついていく。


「逃がすか‼」

「待ちなさい‼」

 頬を腫らした狒狒と、針女が追おうとする。しかし。

「てい!」

 ばさぁっと、粉……いや、砂が狒狒と針女に降り注ぐ。

「ぐぁ……⁉」

「な、に……? 体、が……⁉」

 地面に倒れ込む二人の前に、パーカー姿の少女がぴょこっと降り立つ。


「どうにゃっ! 砂子おばあちゃん特製の痺れ砂はっ!」

「シャノ自慢してる暇ねーよ! 行くぞ!」

「にゃー!」

 青パーカー男が戻って来て、パーカー少女を回収して去っていった。


◆◇◆


 妖怪達を撒き、先に逃げていた生徒達に追いついた。

「とりあえず、この薬あげるのにゃ! その程度の傷にゃら、一瞬にゃ!」

「あ、ありがとう」

(なんか違和感あるけど、名古屋から来た子かしら?)

 幸恵はそう思いつつ、シャノから軟膏をもらった。

「あなた達も、ありがとうございます」

 パーカー男達に礼を言い、さらに気になっている事を訊いた。

「……もしかして、桐原(きりはら)城崎(しろさき)?」

「はい」

「さっちゃん先生、久しぶり!」

 桐原蒼大と、城崎創は角が見えない程度にフードを上げる。


 瞬間、生徒達が取り囲んだ。

「「久しぶり!」じゃねーよ!」

「あんた達、今までどこに行ってたの⁉」

「心配したんだからな!」

「親御さん達なんて、すごく辛そうだったのよ!」

「あと晃もな!」

 クラスメートが無事だった事の喜びより、今までの心配が爆発したようだ。さらに、逃げ延びる事のできた友人――晃の様子も、日常的に見ていたからだろう。

 そんな彼らを、保護者達が宥める。あまり厳しい事を言わなかったのは、気持ちが分からなくはなかったからだろう。

「……あんた達……っ! 無事で、よがっだ……!」

 ようやく目の前の光景を理解できたのか、幸恵は泣きながら言った。

 他の二人の事もその後に続けて訊いたのだが、嗚咽とひどすぎる涙声で聞き取り不能なほどだった。

「ごめん。心配かけて……」

「ちょっと、色々あって。まだ話せねーけど、戦争が終わったらちゃんと言うから」

 そう言って全員に納得してもらう。


「とりあえず、皆で神社に行くのにゃ!」

「え、神社?」

「そこ、避難場所じゃないよ」

「何で神社?」

 シャノが言うと、幸恵達は訊いてきた。

「あの人達、神様を信じてるのにゃ。だから、天罰を怖がって、神様や仏様の領域である神社や寺は手出しできにゃいのにゃ」

「でも、本当に大丈夫なんですか?」

 開戦前と比べたら、神に関する事は信じる事ができた。しかし、不安のせいで慎重になる。

「妖怪相手だと、避難所よりは安全ですよ」

「鬼みたいな怪力の妖怪だと、普通に鉄筋コンクリートの壁も壊してくるんで」

 蒼大と創は実際に、拳一発で岩を粉砕した事がある。

 鉄筋コンクリートでも、一発は耐えられたとしても二発三発を全力で叩き込まれたら、耐えられるかどうか分からない。

 一方で彼らも、実際に避難所内で妖怪を見たのだ。その瞬間を見てはいないが、壁を破壊して入ってきたと聞いた。逃げる時に、粉々に砕き割られた壁も見た。

 次の避難所が絶対に壊れないなんて言い切れない。むしろ、壊される可能性の方が高い。今回のように、運よく逃げられるとは限らない。

 ならば、なぜか妖怪を撃退できた彼らの言うとおり、神社に逃げ込んだ方がいいのではないだろうか。

 念の為、安全だと分かるまで一緒に行動する事を約束して、神社に避難する事にした。

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