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『番組の途中ですが全国のダムで事件が起こったので緊急のニュースをここでお伝えします。○○情報センターからお伝えします。全国のダムで、今夜十一時三十二分頃、人型の未確認生物がダムを決壊させました。警戒区域の方は――。⁉ な、何⁉』

 ニュースキャスターが話している途中。

 画面の端で、所々の影から人が出現した。

 その妖怪達は、持っていた忍び刀で周囲の人間達を斬り殺す。

『ギャアアアアアアアアア‼』

 阿鼻叫喚の殺戮劇が繰り広げられる。

 逃げようとしても、ドアの近くを占拠されていた。

 画面の向こうが静かになった時には、壁やいくつものモニター、パソコンに血がこびりつき、死体が転がっていた。


 しばらくすると、部屋に老人が入ってきた。

 その老人は、誰が見ても人間でないのは明らかだった。

 大きく膨れ上がった後頭部を持つ妖怪、ぬらりひょんである。


『宣戦布告に参った』

 静かに、しかし重々しい声音で言う。

『我々妖怪は人間に棲みかを追われ、虐げられてきた。我々の故郷を奪還し、数多の奪われた命の仇を返す』

 ぬらりひょんは画面越しに人間を睥睨する。

『逃がしはせぬぞ、人間共。これは、天誅だ』


◆◇◆


 鳴り響くJアラートと共に、平和だった日常は脆くも崩れ去った。

 町中を、異形の者達や、一見すると人間にしか見えない妖怪達が蹂躙していく。


 車で逃げようとすればすぐに道路は渋滞し、そこを鬼が叩き潰しにかかる。

 車を捨てて走って逃げれば、他の妖怪達に殺される。

 夜行の異能や、土蜘蛛などの糸を使える妖怪達が死体を操り、別の犠牲者を出す。

 隠れて逃げる者は、上空から天狗や野衾(のぶすま)風狸(ふうり)や一反木綿などの空を飛ぶ妖怪に追跡され、襲われた。中には塗壁に道を塞がれて、追い詰められる者もいた。

 建物の中に潜んでいても、妖狐や火鬼の炎で焼き殺された。


 飛行機や船で海外へ逃げようとする者もいた。

 しかし龍が嵐を発生させたり、大天狗が巨大な竜巻を作ったり、海坊主によって海が大荒れになったり、イクチにのし掛かられたりして墜落、沈没した。


◆◇◆


 関東のどこか。

(物音がしたな)

 青い角を生やした鬼が、住宅街で人間を探していた。

「こっちか?」

 と、青鬼が角を曲がる。


「うわっ!」

 ほぼ同時に駆け込んできた千絃がぶつかった。青鬼は微動だにしなかったが、千絃が反動で尻餅をついた。

「いたた……! すみません」

「お前、死徒か? 気をつけろ! 人間狩りの邪魔をするな」

「はい。本当にすみません」

 千絃は立ち上がり、ペコリと頭を下げる。


「そうだ。お詫びと言ってはあれですが、少し前に男性が二、三人ほど、あちらへ駆けて行きましたよ」

 千絃は、曲がり角を指差して言う。

「本当か? 黄泉軍は中立組織だろ。なぜ教える?」

「確かに組織としては中立ですけど、個人の感情は違いますから。僕も生前は、人間にひどい目に遭わされましたし」

「そうか。恩に着る」

 と、青鬼は言いながら千絃の指差した方向へ駆けていった。


 足音も聞こえないくらい静かになると、千絃が指さした方向とは全く別のところから、若い男が顔を出した。

「もう大丈夫そうだ」

 男が声をかけると、赤ちゃんを抱えた女が出てきた。周囲や上空を気にしながら逃げていく。千絃にも気がついていないようだ。

(ふう。うまくいった)

 千絃は胸を撫で下ろした。


 実は先程、青鬼に教えた事は、全くの嘘である。千絃の言った方向には、すでに生きている人間はいなかった。

 あるのは、人間の惨殺死体だけである。

(……それにしても、本当に人間を滅ぼす気でいるんだな)

 先程の虐殺現場を思い出す。

 中には、子供に覆い被さる母親と思しきの死体もあった。おそらく、守ろうとしたのだろう。

 しかし子供は、母親ごと上半身と下半身に両断されていた。

 妖怪達は、男も女も子供も老人も病人も障害者も健常者も見境なく殺している。


 人間を憎む気持ちは、分からなくはない。

 千絃自身も、生きている時に随分、人間にひどい目に遭わされた。もし、今は亡き彼の主がいなければ、人間を殺してやりたいほど憎んでいただろう。

 今でも、土地開発や道路等の建設、埋め立ての為に棲みかを追われる妖怪もいる。抵抗すれば、祓い屋に殺される。

 そういった妖怪達の忍耐が爆発した末の戦争……。いや、天誅のつもりなのだろう。

 だが、全ての人間が悪人なわけはない。そんな事をする悪い祓い屋も、ごく一部だ。

 妖怪の中にも、身勝手な理由で人間を拐ったり、殺したり、希少価値の高い物を盗む者もいる。ほとんどの祓い屋は、人間に悪さする妖怪をたしなめているだけだ。

 ただ、そんな一部の妖怪のせいで、祓い屋の間で『妖怪=悪』とする風潮があるのも事実。


(でも、今はすごく少なくなっちゃったけど、妖怪と仲良くしたい人間もちゃんといる)

 千絃は、かつて仕えていた人間の事を思い出した。

 彼女は祓い屋でありながら、人間と妖怪が共に生きる世界を夢見ていた。


 本当は、こんな戦争などやめて欲しい。

 今は亡き主の夢が、遠ざかるような気がする。

 しかし、千絃はもうこの世の者ではない。死人に口無し。すでに生前の世界に対する発言権は、ない。

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