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日本のとあるダム。
「な、なんだ⁉ あれは‼」
監視カメラを見ていた監視員達は驚愕した。
水叩きに人影が複数あった。それも、明らかに人間ではない。
身長は二メートルは軽く越えているだろう。下手をすると、三メートルはあるかもしれない。
そして、頭部が牛だった。ギリシャ神話に登場する、ミノタウロスを彷彿とさせた。
牛頭の化け物は、一人一人が四本の脚を取り付けられた大きな木箱を担いでいた。
一人が通報しようとする。
その時には、化け物はダムの近くに木箱を置いて山の中に逃げていった。
嫌な予感がした監視員の一人が、警報を鳴らした。
もし何もなければ、何かしらの処分を受けるかもしれない。しかし、その予感は当たってしまった。
「!」
監視カメラの端から、火矢が飛んできて、木箱に命中した。
ドオオオオオオオオン。
木箱が爆発。
カメラの画面は強い光を放った後、何も映らなくなった。
「爆発した⁉」
「テロか⁉」
「水が、あり得ないくらい減ってる⁉」
「巡回は何をしてるんだ‼」
一人がダムの様子を見に観測所から出る。
絶望的な光景が、広がっていた。
ダムが、決壊していたのだ。
爆発の炎は、ダムの水によって消火されている。しかし、あの水の勢いはどうやっても止められない。
追い討ちをかけるように、観測所から悲鳴が聞こえた。
「‼」
観測所の中に目を移すと、美しい和装姿の女がいた。
ただ、その女も人間でないのは見てとれた。
「「――‼」」
女の長すぎる黒髪が、同僚達の頭部を毛糸玉のように包み込んでいた。
「死ね……。死ね……。お前らが殺した夫と子供と同じくらいに苦しんで、死ね。……お前もな」
女と、目が合った。
「ひいぃ!」
監視員は腰を抜かしながらも、観測所から逃げる。
「逃がしはせぬ」
今度は頭上から男の声が聞こえた。
同時に、空から石が降ってきた。拳大の石や、大きい物だと人の頭と同じ大きさの石もある。
それらは監視員の骨を砕き、肉を潰した。頭が凹み、監視員はただの肉塊と化した。
一方、他の同僚達も女の髪を外そうともがいていたが、やがてその手がだらりと重力に従って垂れた。
女が髪を解き、監視員達を冷たい床に横たわらせる。
ふと窓の外を見ると、ダムの水が溜まっていた所の一部に朽ちた家々が建っていた。
(やっと、二人を……。いや、みんなを冷たい水から出してあげられる)
女の目に、涙が浮かんだ。
「そちらも終わったようだな」
男が観測所に入ってきた。
朱を塗ったような赤い顔に、異様なほど高い鼻。背中には猛禽類の翼が生えた、山伏の格好。天狗、それも妖力の強い大天狗だ。
女は目元を押さえて涙を拭き、振り返る。
「はい。終わりました。水の中に、水妖の方々も紛れていますし、きっと下流は大惨事でしょう」
女は笑みを浮かべて言う。
美しい笑みだが、内容と凄惨な現場の中では気味の悪く感じられた。
「……すまぬ」
大天狗は、水に沈んでいた家々を見ながら謝罪する。
女は、小首を傾げた。
「本来ならば、山長の息子である我も守る立場にいなければならなかった」
「いいえ! 貴方様は当時、幼い子供でした。お辛いかもしれませんが、里を取り返した後の為にも、貴方様は生きねばなりません」
この山は昔、妖怪が暮らしていた。
数十年前、この地にダムを建設する事が決まった。だが、妖怪達を邪魔に思った当時の人間達が祓い屋に依頼して、妖怪達の里を滅ぼしたのだ。
この二人は、命からがら人外界に逃げ込んだ数少ない生き残りである。
「お前は、ここに残って民達の亡骸を集めてくれ。我は下流に行く」
「私も――」
「駄目だ」
大天狗はきっぱりと言う。
「泥の上も、不快であろうからな。早く、居心地のいい場所で眠らしてやってくれ」
「……御意。御武運を、お祈りします」
こうして、大天狗は下流に、女は幾人かの妖怪と共に変わり果ててしまった故郷に降りて行った。
朽ち果てた村の中から、明らかに異形の者だと分かる白骨死体が大量に見つかった。
◆◇◆
この日、全国でダムが壊された。
監視カメラによると、ダムを壊していたのは人間じゃない化け物だった。
このダムの下流にある町は、洪水によって壊滅的な被害が出た。
しかし、警報を聞いて高台に避難した者もおり、洪水による被害を免れた者も多くいた。
ダムについて調べて書きましたが、間違っている所があるかもしれません。
間違いがあった際は、あまり気にせずに読んでください。
申し訳ありません。




