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 人間界の山の麓。川の流れる遊び場。

「じゃ! また明日ー!」

「「「ばいばーい」」」

「うん! また明日ー」

 子供達は、さくさくと雪を踏みしめて家路についた。

 子供達の内、一人は川沿いを遡るように山の中へと帰っていった。


◆◇◆


 人気のない獣道、子供は変化の妖術を解除した。

 茶色の尖った耳に、太い尻尾。

 その子供は、化狐の子供だった。

「今日も楽しかったぁ」

 子狐は、家路を急ぐ。しかし、その途中でピタリと止まった。

「そうだ! 忘れるところだった!」

 雪の上にころんと転がった。人間のにおいを取るためだ。

 本当は、川に浸かった方がにおいが取れる。しかし、今の時期は寒すぎる。

 明日も人間の友達と遊ぶ約束をしているのだ。風邪なんかひきたくない。

 ある程度人間のにおいを弱め、近くの葉をちぎってくしゃくしゃにする。葉を自分の体に擦り付け、わずかに残った人間のにおいに上書きした。

「これでよし!」

 人間のにおいを隠し終わった子狐は、鼻歌混じりで獣道を帰った。

 今日の夕飯や、明日の日常に胸を踊らせながら。


◆◇◆


「たっだいまぁー!」

 元気よく古い家屋の引き戸を開くと、何やら家の中は慌ただしかった。

「坊や、やっと帰ってきた!」

「おっかあ、どうしたの?」

 母狐は子狐の顔を拭いながら言う。

「これから、人外界に逃げるのよ!」

「逃げる⁉ 何で?」

「もうすぐ、戦がおこる。だから人外界に避難するんだ」

 父狐が答える。

「さ、坊やも準備しましょう? おべべはもうまとめてあるから、大事な物を持って」

 母狐に促されるままに、子狐は団栗独楽や木の実で作られた人形、友達と一緒に拾い集めたビービー弾を、落とさないようにお気に入りの布袋に入れる。

「いつ帰ってこれるの?」

「分からない。もう帰ってこれないかもしれない」


「やだ‼」


 父狐の言葉に、子狐は声を張り上げる。

「明日、友達と遊ぶ約束してるの! 帰ってこれないなら、ぼく、ここにいる!」

「駄目だ! 人間に殺されるぞ!」

「友達も、きっと人外界に逃げてるわ。だから大丈夫よ!」

 おそらく、両親は子狐の友達が人間の子供だとは思っていないだろう。母狐は、続けてこう言った。

「妖怪が悪い人間に勝てば、また戻ってこれるわ。だからそれまで、いい子にして。ね?」

「人間は悪い奴じゃない‼」

 子狐は思わず叫んだ。

 その言葉で、両親は何かを悟ったのだろう。

「……坊や。もしかして、その友達って、人間なの?」

「!」

 子狐は怒られると思い、俯いた。


「人間は、おじいちゃんおばあちゃんが昔から住んでいた場所を奪った泥棒なの。泥棒は、悪い人でしょう?」

「でも、約束を破るのも悪い事だよ?」

 諭す母狐に、泣きそうな声で反論する子狐。

 何も言えなくなった母狐の代わりに、父狐が口を開いた。

「その友達は、死んだ者として忘れなさい」

「やだ!」

「我が儘言うな‼」

 父狐の恫喝に、子狐は言葉が喉につっかえ、遂に泣き出してしまう。

「さ、もう行きましょう? ここも明日の夜には危なくなるわ」

 準備をあらかたすませた親子狐は、家を出ていった。

(……戦なんか、大嫌いだ……)


◆◇◆


 次の日、子供達はいつもの公園で子狐を待っていた。すでに集合時間は大幅に過ぎている。

「まーだっかなー」

「おーそーいなー」

「お母さんがクッキー焼いたから、五人で一緒に食べたかったのにぃ」

「もう先に遊んじゃお。そのうち来るよ」

 子供達は、遊びながら子狐を待った。

 しかし、子狐が公園に来る事はなかった。

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