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 霊力操作訓練を受けてからしばらく。灼、千絃、蓮は術訓練室に来ていた。

「じゃあ一度、成果を見せてもらってもいい?」

「はい!」

 千絃に促され、灼は自分の手の平に霊力を集中させた。

 ボンッと、野球ボールよりひとまわり大きいサイズの火球が生じる。熱も、少し熱い程度で火傷とはほど遠い。

 今まで、仕事終わりに春介や愛梨、そして同じ隊の先輩に付き合ってもらって練習した結果だ。

「うん! 前と比べると、だいぶ上手くなったね」

「へへっ。頑張った!」

「もうやたらめったらに投げねぇよな?」

 蓮が意地の悪そうな笑みを浮かべて言うと、灼は反論した。

「たぶん投げないっすよ!」

「『たぶん』ってつけてるあたり、潔いな」

 意地の悪そうな笑みが、苦笑いに変わった。


「ところで、纏霊刃ってどんな効果あるんすか?」

「殺傷性と攻撃力の上昇だな」

 攻撃力ならば、人によっては打撃でも充分である。しかし穢憑きや化穢のように、見つけたら即討伐しなくてはならない時、打撃では息の根を止めるのに時間がかかる。

 元から刃物の霊棍使っていても攻撃力が上がるので、死徒、特に討伐隊に所属している限りは必修の術だろう。


「とりあえず、手本見せるわ」

 蓮はまず、霊棍を鉄パイプに変える。

 霊力を手からにじみ出させ、鉄パイプ本体に伝わせ、先端を膜のように薄く包み込んだ。

「《纏霊刃》」

 詠唱すると、先端に集まった霊力が質量と鋭さを帯び、鋭利な刃が形成された。

「その、膜みたいなものも、前に言ってた術式みたいなものなんすか?」

 灼は以前に千絃が軽めに言っていた術や術式について思い出しながら、質問する。


「いや、違ぇよ」

「霊棍や、鉄パイプの先端に模様みたいな彫刻があるでしょ。それが術式だよ」

「え、この模様、デザインじゃないんすか?」

 灼は自分の霊棍をまじまじと見た。

 確かに一部に模様はあったのだが、アニメや漫画、ゲームで見るような装飾と思っていて特に気にしていなかったのだ。

「でも、鉄パイプと霊棍の模様、全然違うっすよ」

「ちょっとデザインも混ざってるんだろ」

「違うからね?」

 ツッコミを入れつつ、千絃は説明を始める。

「元々、霊棍には武器化の術式に紛れるように纏霊刃の術式が散りばめられてるんだよ。この加工は安全装置みたいなもので、武器化する事で纏霊刃用の術式になる。ポケットとかにしまった状態でうっかり纏霊刃を発動させたら危ないからね。蓮が膜状に霊力を込めたのは、満遍なく術式に霊力が行き渡るようにするため」


 ついでとばかりに、術式そのものについての補足説明もする。

「術式は妖術や魔術の骨組みや設計図みたいなもので、霊力で作る事もできるんだけど、少量とはいえ余分に霊力を使う上に基本は使い捨て。こういう風に物に術式を刻んでいたり描いていたりすると必要最低限の霊力を扱う事ができれば誰でも使えるんだよ」

「じゃあ、あたしや灼みてぇに霊力があまりねぇ奴はこういった道具を使った方がいいんだな」

「そう。霊力で術式を作る場合は、威力を調節したり射程を伸ばしたりと色々応用がきくけど、その分霊力をたくさん消費するし慣れない内は術式を作るのにも時間がかかるからね」

 それぞれ、メリットとデメリットがあるようだ。


「確か、灼の霊棍はでけぇ斧だったよな?」

「はい! そうです」

 そう言いながら、灼は霊棍に霊力を込めた。

 灼の身長を越すほどの大きな斧に変形した。

「マジででけぇな」

「よくそんなの、片手で持てるね」

「怪力なんで。もしかしたら戦闘になるかもしれないじゃないすか。これなら怪力を生かせそうですし、さすがに槍ほどじゃないすけど、振り回す分範囲も広そうだし」

 間合いは、蓮の槍の方が広いかもしれない。しかし、基本的に振り回す分範囲は斧の方が広そうだ。質量は灼の斧の方が圧倒的なのは見てとれた。


「それなら術式は斧腹にあるこれだ。霊力操作ができりゃ、そこまで難しくねぇ」

「はい!」

 霊力操作ならば、今まで何回も練習して、ある程度は自信がある。

 さっそく灼は斧を構えた。


「コツは、自分がブチ殺したい奴の顔を思い浮かべながら刃を薄い霊力の膜で包む事。やってみろ」

「はい!」

「……え」

 蓮の教え方に反応したのは、千絃だった。

「どした?」

「いや、いくらなんでも物騒すぎない?」

「朧さんからそう教わったんだよ」

「え、朧さんが?」

「おう。『お前は理路整然としたやり方より、感覚の方が分かりやすいであろ』って」

「あぁ……」

 千絃は納得した。

 相手の分かりやすい教え方をする。非常に朧らしいと思った。


「…………」

 そんな話をしている横で、灼は目を瞑り、自分が最も憎らしく思う相手の顔――自分を火鬼にした、隻腕の老人を思い浮かべる。

(あのクソジジイ……! 今度会ったら……)

 ギリギリと、斧を握る手に力が入る。

 この時、灼は気がつかなかった。霊力の膜が、異常に分厚くなっている事に。

「《纏霊――」

「――って、灼! 待て待て待て‼」

「霊力! 霊力抑えて‼」

「刃》え?」

 詠唱と同時に聞こえた、蓮と千絃の慌てた制止に、灼は目をぱちっと開いた。


 巨大な炎の塊が、目と鼻の先にあった。


「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああ⁉」

 驚きすぎて、斧を投げた。

「この子また投げたよ!」

「まぁ、いきなり目の前にでっかい火の玉出たら、そりゃビビるわ」

 今度は方向的に、当たらないと踏んだのだろう。悠長にしていた。


 ガンッ。


「「「⁉」」」

 しかし壁に当たり、跳ね返った。

 斧は、吸い寄せられるように千絃に落ちてくる。

「‼」

 千絃は、思わず身を固めてしまった。

 障壁は、攻撃性の強い霊力のみ防ぐ。物理攻撃は防げない。

 纏霊刃は防ぐが、斧が降ってくる。

 斧が、千絃に命中する――。


「ッ‼」

 直前、蓮が引き寄せ、ギリギリで千絃は難を逃れた。

 ズドンッと、音をたてて床に激突。

「……‼」

 音から斧の重さを悟り、千絃は戦慄する。

 数秒で正気になり、蓮に礼を言おうと顔を上げた。

 しかし、一瞬早く蓮が口を開いた。

「こら灼! 危ねぇだろ! あたしならまだしも、千絃は見てて悲しくなるぐらいの体力ザコなんだから、避けられねぇんだよ!」

「本当にごめんなさい‼」

「……蓮。ひどくない? 体力ザコって……」

 礼の代わりに不満が出てきてしまう、否定できなくて悔しい千絃だった。


◆◇◆


「今度はどんだけ霊力使ってるか分かるように、絶対に目をつぶるな」

「……はい」

 灼はしょんぼりしながら、やり直し始めた。

 蓮のやり方では、一発で発動こそできたものの、殺意が強すぎて炎が大きくなりすぎてしまう。


 感覚を思い出しながら、刃に霊力の塊をのせ、薄く伸ばす。

「《纏霊刃》!」

 詠唱すると、斧の刃の上半分だけが赤く輝き、炎を纏った。

「あれ?」

「もう少し、霊力をしっかり伸ばすといいよ」

「はい!」


 一度、纏霊刃を解除する。今度は、先ほどより少し霊力を多めに使い、ゆっくりと、丁寧に伸ばす。

「……《纏霊刃》!」

 息を吸い、一気に吐くように詠唱する。

 ゴウッと、周囲の熱を上げながら刃が炎に包まれた。

「おお……!」

 先ほどとは全然違う。炎の塊でもなく、中途半端でもない。

「おっ! 今度はいい感じじゃねぇか?」

「マジっすか? よっしゃあ!」

 蓮に誉められて、灼は嬉しそうにガッツポーズした。


「……」

 しかし、千絃は微妙な表情だ。

「いや、もう少し霊力の量を少なくした方がいいんじゃない? これだと長期戦に持ち込まれたら、途中で霊力切れ起こすかも」

「霊力切れ?」

「そう。霊力が少なくなると疲れてくるんだけど、減りすぎるとまともに立っていられなくなる。ひどい時は気絶する。休めば治るんだけどね」

「それはまずいっすね」

 戦闘中に気絶しても、敵は休ませてくれるはずはない。むしろ、敵からすればチャンスでしかない。

 戦争が終わった後、灼は黄泉軍を続けるか否かはまだ決めてはいないが、技を精練させておいて損はないだろう。


「纏霊刃は、発動してる間は霊力を消費し続ける。三十分あたりの消費量は、痺雷針一発の五分の一くらいで、かなり少ないんだけど、塵も積もれば山となるっていうしね」

 纏霊刃はあまり霊力を消費しない。異空鞄の次に霊力の消費量が少ないのである。

 霊力切れは、そんな纏霊刃を維持させる事ができないほど残りの霊力がなくなる状態を基準にしている。無駄使いはしない方がいい。


「最初はこんなもんじゃね?」

「でも、もしかしたら終戦しても死徒を続ける可能性もある。霊力操作の応用にもなるし、今後の課題として」

 と、千絃は蓮に言った。

「それと、発動までかなり時間もかかってる。これは反復練習して慣れるしかないけど、一瞬で発動させられるのが理想的。もし無理そうなら、攻撃を避けながら発動させられるようにした方がいい」

「はい!」

 灼は元気よく返事をし、練習を続けた。

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