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「《痺雷針》」


 千絃の詠唱が響き、四本の雷の矢が犯罪者四人に命中した。

「「「「ギャアア⁉」」」」

「⁉」

 驚く灼の目の前で、三澤達は電光を這わせながら倒れる。

 その横を通りすぎた千絃は、冷たくなった花耶の頭を両手で拾い上げた。

「な、なんで……⁉」

 菊竹が呟く。

「視界共有で見た。それに、花耶の友達が案内してくれた。……それより」

 振り返った千絃の顔を見て、四人は身の毛がよだつ。


「貴様らか。花耶を傷つけて、殺したのは」


 地獄からはい上がってくるような声音を持つ死神が、そこにいた。


「ち、違うの!」

「そこの小さな女の子が、二人を殺そうとしてたから、私達が止めようとしてただけなの!」

 と、でまかせで言い逃れをしようとする。

「違う‼」

 だが、灼が真っ向から否定した。

「こ、こいつは……! 花耶は、お、オレらを、助けようと……‼」

 悔しさで、声がひきつる。自らの、愚かな強情さが恨めしい。

「かわいそうに。混乱してるんだね……」

「灼きゅん、正気に戻――」

「《痺雷針》‼」

 千絃は四人の見苦しい三文茶番を遮るように詠唱した。

「「「「ギャアアアアアアアアア⁉」」」」

 四人の体が、電撃により痙攣する。

「訊きたいのは虚言ではない‼ それしか口にできないのであれば黙っておれ‼」

 雷鳴のようながなり声。

 灼の脳裏に、花耶を罵った時の事が思い浮かんだ。

 その時の千絃と同じ……いや、それ以上の怒気が溢れていた。

「煤竹」

「はひゃい⁉」

 名前を呼ばれただけで、灼の声が裏返る。

「泣く暇があるなら、愛梨と花耶を連れて逃げろ。近くに蓮がいる。春介もすぐに合流する」

「は、はい」

 灼は愛梨と花耶の体を抱えて、窓から逃げて行った。

 ある妖術の効果範囲を外れたのを確認して、千絃は這ってでも逃げようとする四人に詠唱した。


「《痺雷陣(ひらいじん)》」

 その瞬間、地面が強烈な光を放つ。

「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア⁉」」」」

 汚い絶叫が響き渡る。

 痺雷陣は、千絃の作り出した妖術だ。

 彼の行使できる術の中でも、最高火力、最広範囲を誇る。範囲内だと敵味方見境なく攻撃してしまう上に、妖力や霊力の消費量が膨大なのが玉に瑕で、滅多に行使できない。

「ア……。アァ……」

 通常なら一撃で感電死するような威力だが、四人は黒焦げで意識が朦朧としながらも生きていた。

 死ぬギリギリ手前で、妖術を解除したようだ。


 千絃は妖怪。持っている異能は『雷の化身』と呼ばれるもの。

 自身が受ける雷や電気によるダメージは完全に無効となり、雷属性の術の威力増大、消費する霊力や妖力も大幅に軽減される。

 さすがに痺雷陣は、この異能による補正があっても二、三発しか発動できないが。


「すぐに楽にして殺るわけがなかろう。《痺雷雨》」

 再び詠唱。響き渡る絶叫。

 痺雷雨は、威力の低い広範囲妖術だ。

 霊力や妖力を込めて、その威力を上げる事は可能。しかし、千絃は最低限の霊力しか込めていない。

 これは、拷問だ。


 詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。詠唱。絶叫。


 痛みに慣れないよう、短い休息を与える。死なないよう、気絶しないよう、低い威力の妖術を使う。

 より強い苦痛を与える為の、霊力の節約と工夫。

 それは、四人の心を折るどころか、粉々に砕いた。

「モォ……ヤベデ……」

「ドォヂデ……ゴンナゴドニ……」

「イダィ……イダィヨォ……」

「ダレガ……ダヅゲデ……」

 そう譫言を呟く四人の前で、千絃は霊棍を取り出し、弓に変えた。

「《纏霊刃》《帯電》」

 霊力の刃が形成され、弭槍になる。バチバチと、腕に電光が這っていた。帯電は、身体能力を強化する妖術だ。

 命乞いを受け入れるつもりは、ない。

「やめぬ。人を殺めるという事は、殺められる覚悟があっての事であろう? 人を痛めつけるという事は、痛めつけられる覚悟があっての事であろう?」

 まだ殺る気だった。

 弭槍を、振りかぶる


「待て‼」


 しかし、千絃の細い手首を掴む者がいた。

「蓮‼ 邪魔するなッ‼」

 吠える千絃に、蓮も負けじと声を張り上げ、反論する。

「邪魔するわ! これ以上殺らかしたら地獄堕ちになるぞ‼」

「知らんわ‼ この醜女共は花耶を虐殺したのだ‼ それ以上の辛苦を味わわせねば腹の虫がおさまらん‼」

「その花耶が蘇生した時に、お前いなかったら泣くぞ‼」

「‼」

 一瞬、千絃の抵抗が弱まった。蓮は千絃の手から弭槍を外し、放り捨てる。

「こいつらは確かにどうしようもねぇドクズだけどな、こんなクソ共のせいでお前が地獄に堕ちる事ぁねぇ。それで花耶に余計な罪悪感持たせんの、嫌だろ?」

 千絃はゆっくりと振り上げた腕を下ろし、こくりと頷いた。その目にはいっぱいの涙が浮かび、刺そうとしていた三澤を怨みがましく睨んでいた。

「煤竹から聞いたけど、こいつら生者依り代事件の犯人だ。あとは地獄のほうで可愛がられるだろうよ」

 そう言いながら、蓮は通信鏡で通報をした。


 獄卒が来るまでの間、蓮は、花耶の頭部を抱えて泣く千絃に寄り添い、あやすように背中を撫でていた。

(また、やられちまった)

 その視線は、斬り落とされた頭部に向いている。

 蓮の脳裏に思い浮かぶのは、自分が死んだ直後の光景だった。


◆◇◆


 自分は、駅のホームから線路に突き落とされて死んだ。犯人は、自分がかつて懲らしめた虐めっ子だった。

 犯行動機は、虐めを暴いた事への逆恨みだった。

 いつもなら、なんとか踏みとどまって取り押さえるくらいは余裕。しかし、その日は違った。

 数日ほど前に見知らぬ不良に喧嘩を吹っ掛けられ、足を捻挫していたのだ。今思えば、あいつらは犯人の刺客だったのだろう。

 ただ、そんな事はどうでもいい。

 目前に電車が迫る中、春介がホームから飛び降りてきたのだ。自分を助けるために。

 しかも、当時春介は大学卒業して就職後に結婚するのを前提に交際している彼女がいた。彼らは一緒に大学へ通学、自分は通勤中の出来事だったのだ。

 春介は、恋人の前で電車に轢かれて死んだ。

 自分が、巻き添えにしてしまった。


◆◇◆


 蓮には、花耶と千絃が、当時の春介とその恋人と重なって見えた。

(もし、あたしがつまらねぇ正義感を振りかざしてなかったら、死ななかったんかな?)

 そんな考えが、常に頭の片隅にあった。

 しかし、それでもつまらない正義感や身勝手な不快感を無視できない自分が腹立たしかった。


 しゃくりあげる千絃が落ち着いたところで、獄卒が到着。

 千絃は厳重注意と三日間の謹慎、始末書を書く事になったが、人質の保護と犯罪者の逮捕に大きく貢献したとしてそれ以外のお咎めはなかった。


◆◇◆


 三澤、菊竹、関、石井の四人は獄卒の監視つきで病院で治療を受けた。裁判は、治療直後にする事になった。

 彼女らのしでかした内容なだけに、根の国の統治者、素盞嗚が担当する事になった。

 有罪は言わずもがな。愛梨が証拠として提出したボイスレコーダーから反省の様子も見られないと判断され、ついでに愛梨に対する虐めも取り上げられた。ただでさえ重罪なのにさらに罪は重くなり、刑期は数百年ほどにまでなった。


 虐めた理由は、ガキのくせして人形みたいにかわいいと噂されたのが生意気だと思ったからだそうだ。


 給料を脅し盗っただけではなく、空き巣に入って貯金まで盗んでいた事も、彼女らの自白で分かった。

 彼女らに盗まれた物は持ち主に返し、返せない物は残っている財産で賠償。それでも足りない物は地獄の方で立替となった。

 つまり、彼女らは地獄に借金をしたという事になる。その借金は、責め苦とは別に無償で働いて返済するよう命じられた。


 地獄は、黄泉軍と比べて魂の危険は低いものの、労働環境が非常に苛酷。

 極寒の地や灼熱の地、毒性の強い棘を持つ植物の群生地帯へ罪人の連行と管理。

 他にも常夜の治安維持や、寿命が尽きて死んだ悪人の連行など、比較的楽な仕事はあるが、獄卒の仕事の大半が前者だった。

 彼女らは、その中でも特に獄卒達から不人気な、別名不潔地獄と呼ばれる場所の清掃を強制された。

 ちなみに、彼女らは罪人の悲鳴や怒鳴り声、大きな物音がする度に泣き喚きながら謝罪しており、獄卒からは「転生しない限りは再起不能だな」と言われている。


 さらに、黄泉軍からは追放。もし転生できるようになる前に、責め苦や借金の返済が終わっても、もう彼女らの居場所はない。

 もっとも、治療の際行われた魂の検査の結果、彼女らはあと十年ほどで魂が治りそうだったので、余程の事がない限りは全てが終わったら、そのまま劣悪な条件下で転生を受ける事になりそうだった。


 これが、他者を虐め、私欲の為に罪を犯した極悪人の末路である。

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