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愛梨はある市内の駅前通りにいた。今朝、灼から連絡があり、ボイスレコーダーの受け渡しをするために待ち合わせしているのである。
(確か、合図はカラスが地面を三回突く事。そしたら、五秒間異空鞄を開ける)
正直、なぜカラスなのかとは思った。しかし、虐めの証拠を得る為の道具だ。金銭的にレコーダーを買えなかったので、渡りに船であった。
「「「ガァッ‼ ガァッ‼」」」
「!」
どこからか、カラスの強い鳴き声が聞こえた。
「いやぁっ⁉」
「何なのよこの糞鳥は‼」
その方向に目を向けると、関と菊竹が三羽のカラスに襲われているところだった。どうやら、愛梨が妙な真似をしないように見張っていたようだ。
彼女らが追い払おうと腕を振り回すものの、カラス達は嘲笑うように躱し、追撃する。
「えっ……」
「カアッ!」
「!」
突然の事に固まっていると、足元で別のカラスが鳴いた。
コツ、コツ、コツ。
目が合うと、カラスは地面を三回、軽く突く。
「い、《異空鞄》!」
愛梨はとっさに異空鞄を開く。
そして、五秒という短い間に花耶が走りすぎた。
異空鞄の中をちらりと見ると、電気屋の袋が入っていた。膨らみから、小さな箱が入っているようだった。
(な、なんて早業……!)
愛梨は驚きつつも、関と菊竹にバレないように異空鞄を閉じた。
それと同時に、三羽のカラスが「もう用はない」と言わんばかりに路地裏へ飛び去った。
◆◇◆
「ありがとう」
花耶は昨日作ったクッキーを四羽のカラスに与えながら礼を言った。
「「「「グワァー、グワァー」」」」
カラス達は「いただきます」と挨拶するかのように間延びした鳴き声を発し、クッキーを食べ始める。
実はこのカラス達、花耶の友達の内の四羽だ。意志疎通も可能なようである。
「カアァ」
一羽が花耶に鳴き声をかける。
「ん?」
花耶が小首をかしげると、カラスはカァカァと鳴く。
「東、四車線道路、トラックに、中学生、轢かれた。分かった。すぐ、行く」
花耶はクッキーを四枚、追加で葉の上にのせて地面に置く。
「またね」
路地裏の奥に去っていった。
◆◇◆
「じゃ! また明日なー!」
仕事終わり、灼と花耶が三寮棟の自室まで送った。
灼は大きく手を振り、花耶はぺこんと頭を下げる。
「ま、また明日」
愛梨は、久しぶりに口にする言葉にほっこりしながらドアを閉めた。
(友達と一緒に帰るなんて、本当に久しぶりだなぁ)
なんて感慨にふけっていると、外から声が聞こえてきた。
「で、何でお前はそっちから帰んの?」
「……煤竹さん、私と、帰るの、や、かなって……」
ものすごく淋しそうな花耶の声に、愛梨は勢いよくドアを開いた。
「「!」」
目を見開く灼と花耶。
「え、え?」
出口まで遠回りになる方の階段側にいる花耶に詰め寄った愛梨は、細い手首を握り、灼の前まで連行した。
「は? え?」
そして、灼の手首を掴み、強制的に花耶の手と繋ぎあわせた。
「これは私のわがままです」
愛梨はそう言うと花耶と灼の顔を交互に見た。
「二人とも仲良くしてください。何があったのかは分かりませんが、仲直りしてください。お願いします」
愛梨は頭を下げる。
花耶は、少し期待を込めて灼を見た。
一瞬目が合ったが、灼はすぐに反らした。
「考えとく」
その返答に、花耶と愛梨はしょんぼりと項垂れた。
「ほら! 行くぞ!」
「!」
しかしせめてもの歩みよりか、灼は花耶の手を引っ張って帰っていった。
「ん。愛梨、ありがとう」
花耶が礼を言う。
愛梨はそんな二人に安堵しつつ、見送った。
◆◇◆
愛梨は自室に戻ると、異空鞄から今日受け取ったばかりのボイスレコーダーを取り出した。取り扱い説明書を読むためである。
「あれ?」
ビニール袋の中には、ボイスレコーダーの箱といくつかのSDカードの他にも小さな紙袋が入っていた。
「わっ」
紙袋の中を見ると、白いの花のヘアピンが入っていた。天然石で作られたのだろうか。花弁が艶やかに輝いている。
(この花、スズランかな? すごく綺麗……)
手紙も入っていたので読む。
『御守り。あげる』
非常に短い文面だった。
(あげるって、さすがにこれは申し訳ないよ! いや、ヘアピンはすごくかわいいけど!)
使われている天然石の量が少ないので高級とまではいかないだろうが、少なくともワンコインで買えるようには見えないくらいにはデザインも造りもよくできている。誕生日でもないのに貰うのは気が引けた。
(明日、返そう……。いや、それは気を悪くさせちゃうかな? じゃあせめて何か、お礼を……)
と、考えたが特にできる事が思いつかなかった。
怪我の治療はできるが、使う場面が限られる。知恵を貸すのは、千絃の方が得意。力仕事は、補助妖術を使えばできるが灼や春介、蓮の方が得意そうだ。何かプレゼントしようにも、金がない。
(……お礼、来月になりそう……)
来月の給料は、なるべく三澤達から死守しなければ。
そう思う愛梨だった。




