表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/199

「なんなのよあのモラハラ男は‼」

 三澤は壁を思いっきり蹴る。

「あのゴミ宮、彼氏候補の一人だったけど正直幻滅したわー。かわいい女の子に向かって「ゲロ吐きたくなるくらいキモい」って変態以外何物でもないぢゃん」

 石井は般若の形相で悪態吐く。

「私も旦那候補の一人にしていたけれど、あんなDV男こっちから願い下げよ。よく見れば、背が高いだけで顔もパッとしないし」

 菊竹は春介に掴まれた手首を、万引きしてきたばかりの高そうなハンカチで拭いて、窓の外に捨てた。

「って言うか、数の多い方の意見を信じないであんな不細工なビッチの方を信じるってあいつの方が頭おかしいじゃん! しかも、私の事を陽キャのふりした陰湿性格ブスって、目ぇ腐ってんじゃないの⁉ あのゴミ宮の方が脳外科と眼科行った方がいいレベル!」

 関がヒステリックに喚き散らす。

「あのサイコ野郎、絶っっっ対に泣かす……‼ 人前で無様に土下座させてやる‼」

 四人の、虐めのターゲットが増えた。


◆◇◆


「ただいまぁー」

「「「「おかえりー」」」」

 春介が部屋に戻ると、まだ四人がいた。この後、話し合いをする為である。

「んで? 話って何だよ」

 蓮が頬杖をついて訊く。あまりやる気なさそうに見えた。

「うん。愛梨、虐められているらしい。それで、助けたいんだ」

 春介が言った瞬間、蓮は眉根を寄せた。


 蓮は、弱い者虐めが大嫌いである。生前は、それで何人もの虐められっ子を助けてきた。虐めっ子の兄姉が集団で報復にきた時は、逆に相手を泣かして返り討ちした。そのあまりの喧嘩の強さから『血みどろ女帝』というあだ名がついたほどである。

 春介も、蓮に救われた元虐められっ子の一人だ。だからこそ、こういう時は蓮に頼る。


「誰に虐められてるんすか?」

 灼も友達を虐めている加害者への恨みか、睨むような目付きになる。

 実際に自殺未遂を目の当たりにしたのだ。怒りは大きい。

「……ごめん。名前は一人しか分からなかった。石井芽愛っていう二十代くらいのぶりっ子。他にも三人いるんだけど」

 春介は、その三人の特徴も伝えた。しかし、知っている者はいないようだった。

「その四人の情報を集めた方がよさそうだね。あと、愛梨と同じ第三討伐隊士の可能性が高い。もし違っても、別の隊だから、加害者側からの逆恨みが心配」

「じゃあ、雪音さんと朧さんにバックについてもらおうぜ」

 蓮が提案する。

「そうだね。明日の朝礼後に相談しよう」

 蓮や春介、千絃あたりが嫌がらせされても反撃できるが、最悪の場合、濡れ衣を着せられる危険がある。花耶は、直接何かされそうになっても逃げられるだろうが、もし悪い噂を流されたりしたら、口下手すぎて弁明できない。灼に目をつけられたら最悪だ。反撃しても返り討ちにあう、ちょうど悪い噂のネタになりそうな妖怪差別をしている。

 もし、悪い噂や濡れ衣などで加害者側の隊長や副長が出てきてしまったら春介達は太刀打ちできない。

 ならば、こちらも後ろ楯が必要だ。


「たぶん、明日とかも虐められそうだから後で具体的に何されたか思い出せるように記録とかとってもらえるといいんだけど……」

「それについてはおれが話を訊きながら記録するよ。本人からも、了承はもらってるから」

「分かった。じゃあ、愛梨さんの精神的なフォローも含めてお願い」

「んじゃ、後は証拠だな。他人の前じゃ猫被るかもしれねぇし、愛梨にボイレコ持たせておきてぇけど……」

 蓮に言われて、春介は提案した。

「おれが前に使っていたボイスレコーダーは?」

「……それ、小学生ん時に使ったやつだろ?」

「……うん」

「時期的に、壊れてるか遺品整理されてそうだね」

 千絃からもっともな事を言われて、春介はしょんぼりした。


「明日、外勤……」

 花耶が言う。基本的に休日の次の日は外勤、現世見廻だ。愛梨も、ほぼ確実に現世見廻である。

「じゃあレコーダーをこっちで買って、こっそり待ち合わせして渡すってのはどうすか?」

 灼が言う。

 内容からして、花耶の意見を聞いたような感じだ。花耶は、少しだけ嬉しそうだった。

「それが無難だな」

「一緒に買いに行って、それがあいつらにバレたらまずいもんなぁ」

 蓮と春介も、賛成のようだ。

 花耶もこくこく頷いている。千絃は、何も言わないので賛成と捉えていいだろう。

「渡すのは、春介以外がいいと思う。向こうに顔が知られてるなら、警戒される可能性もあるし」

「花耶あたりはどうだ? スリみてぇに愛梨の異空鞄に入れるとか」

「たぶん、できる。友達にも、手伝って、もらえば、確実」

「じゃあ頼むわ」

 レコーダーを準備して渡す係は決まった。


「春介と千絃は情報収集、灼は愛梨の護衛頼むわ。花耶も、レコーダー以外は情報収集頼む。あたしが護衛するから」

「……ん」

 花耶は頷くが、少し不安そうだ。

「花耶は愛梨の護衛の方がいいんじゃないかい?」

 春介が提案した。

「いや、危ねぇだろ?」

「僕も、できれば花耶は情報の方にいってほしいんだけど……」

 蓮と千絃は苦い顔をするが、春介はこう言った。

「花耶はそこまで弱くないよ。人質さえとられなければ大丈夫だと思う」

 春介は、花耶とよく手合わせをする。それゆえ、強さや弱点を知っているのだろう。その上で、護衛の方がいいと言った。

「それに人に話しかけるの、花耶は苦手だろ?」

「ん」

 花耶は大きく頷いた。

 情報収集となると、人から話を訊く事もあるかもしれない。任せられたらできる限り尽力するが、情報収集には不安があった。


「それも、そっかぁ……っ」

 千絃は葛藤しているようだった。

 危険な目に遭うかもしれないが、本人の得意分野をさせるか。

 安全だが、本人の苦手分野をさせるか。

 内心、後者の方をやってほしい。

 千絃にとって花耶は、妹のように大事な存在である。危険からできる限り遠ざけたいし、万が一にでも怪我を負わせたくない。

 しかし、今回は仕事ではなく、愛梨が虐めから解放されるか否かがかかっている。それに私情を挟んでいいのか。

「……花耶。危ない目に遭ったら、全力で逃げた上で僕に報告してね? あと、仕事終わりに一日何があったかの報告も」

「ん! 分かった」

 葛藤の末、本人の得意分野を優先させた。花耶は、今度は力強く頷いた。

「いや、でも……」

 蓮はまだ渋い顔をしている。

「蓮」

 花耶は声をかけ、こう説得した。

「情報、お願い。私じゃ、足、引っ張る。足手まとい、や」

「ぐ……」

 蓮は顔をしかめていたが、やがてため息混じりで折れた。


「分かった。んじゃ、灼と護衛頼むわ」

「ん」

 花耶は素直に頷いた。

「こいつとっすか?」

 灼は苦い顔をしている。

「春介ぇ。あたしが説得するわ。千絃止めてろ」

「はいよー。花耶、ちょっと失礼」

 春介は千絃の膝に、ぽすっと花耶を置いた。さらに、彼の口も塞ぐ。

「んーん! んーん‼」

「花耶~。どけられないようにね~」

「ん」


 そんなやり取りを聞きながら、蓮は灼の肩に腕をまわして玄関に連れていった。

「お前、あの二人が来る前ちょっと後悔してたじゃねぇか。謝るチャンスだぜ?」

「でも……。やっぱ妖怪っすから……」

「春介から聞いたけど、確かに妖怪嫌いになるのは分かる。でも千絃と花耶がお前になんかしたか?」

「いや、してねーっすよ」

「だろ? それでひでぇ事言ったんだぜ? あれはさすがにお前が悪ぃ。とっとと謝っちまえよ。花耶なら絶対許してくれるから」

 しょんぼりと、灼は俯く。

 自分が悪いという自覚はあった。

「でも、そんな簡単に許してくれるんすか? オレ、だいぶひどい事言いましたし……」

「おう。だって花耶、お前の事嫌ってねぇもん」

「えっ?」

 初めて会った時、本当に聞くに耐えない罵詈雑言をぶちかました。ドブみたいな性格ブスだの、キモいだの、妖怪差別的な発言に煽りまで……。さらに、意見を否定されれば胸ぐらを掴みかかった。あのままだったら、確実に殴っていただろう。それでも嫌わないとは。


「え、花耶ってドMなんすか?」


 スパン。


「よかったな、聞かれたのがあたしで。千絃だったら痺雷針だぜ」

 灼は蓮に頭をひっぱたかれた。加減はしていただろうが、地味に痛かった。


「それに、あたしは渋ったけど花耶と灼を愛梨の護衛役にしたのも、悪くねぇ組み合わせなんだよ」

「組み合わせ?」

 ひっぱたかれた頭を軽く押さえながら、小首をかしげる。

 灼は、四ヶ月の訓練で多少は強くなった。しかし、他の死徒と比べるとまだ足が速くて怪力なだけのクソ雑魚ナメクジである。

 もちろん愛梨を助けたい気持ちはあるが、自分にできる事が思いつかなかった。

「もしも石井達がつっかかって来たら、灼は愛梨を連れて逃げる係だ。最悪、抱えて走る事になるかもしれねぇ。花耶じゃあ筋力がなさすぎて無理。だからあいつの役割は、お前と愛梨を逃がす事だ」


「でも、それじゃあいつが危なくないっすか?」

「確かに心配はあるけど、春介のいう通り花耶は意外と強えし、引き際も分かってるから大丈夫だよ。足も速ぇし、身軽だから多少出遅れても余裕で逃げきれるぜ」

 蓮はそう言いながら、こう思っていた。

(そうやって心配するあたり、こいつも本気で嫌ってはいねぇんだよなぁ。ただ面倒くせぇ意地張ってるだけで)

 しかし、花耶は確実に「自分は灼に嫌われている」と思い込んでいることだろう。本当はもっと仲良くしたいだろうが、気を使って近寄れないのだ。

「隊と階級が違ぇから四六時中は無理かもしんねぇけど、とにかくお前は花耶と一緒に愛梨のとこにいろ。それと、つまらねぇ意地も捨てろ。いいな」

「……」

 灼は無言でしぶしぶ頷いた。

(いやいやでも、ちゃんと返事するあたりだいぶ素直になったな)

 蓮はそう思いながら、三人のいる部屋に戻った。


「説得してきたぜ」

「おつかれ~」

 春介は労いの言葉をかけながら千絃の口から手を離す。

「もし花耶を泣かしたら、魂はないと思え」

「ひ、ひゃい……」

 ドスの利いた千絃の脅しに、灼は腹の底が冷えながらも答えた。


◆◇◆


「おはようございます。本日の朝礼を始めます」

 雪音と朧が集会室に入ってきて、朝礼が始まった。

「すでにご存知の方はいるかと思いますが、一昨日からある捜査の為に獄卒の方々がお見えになっています。何か訊かれた際は、ご協力をお願いします。尚、この事は他の隊に話さないように」

 雪音の話に、隊士の間に緊張が走った。

 獄卒は、地獄に落ちた罪人の拷問と、寿命の尽きた悪人の連行、死後の世界で罪を犯した者を捕らえる仕事をしている屍霊だ。海外では、悪魔とも呼ばれている。

 彼らが捜査で黄泉軍に来ているという事は、死徒の中に何か犯罪をしている者がいるのである。

 しかし、少なくとも、この第一討伐隊は大丈夫だろう。

 このように朝礼で知らせてくるならば、その隊には犯罪者もしくはその協力者が確実にいないと分かったからである。


 その後、仕事の割り振りを軽く済ませ、他に話す事や質問はないかと、雪音から訊かれた。

「はい」

「蓮さん、何でしょうか?」

「少し話したい事があるんで、朝礼の後、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。朝礼が終わったら、執務室に来てください」

 約束を取りつけた後、雪音はまわりを見まわす。

「他には、ありませんか?」

「はい」

 他の隊士が手を上げた。

「どんな事件が起こったんですか?」

「生者を依り代として、亡者を憑かせる者がいたそうです」

 一瞬、隊士達がざわついた。「うわ」「誰がやらかしたんだよ」「犯人、地獄堕ちは確定ね」という声が聞こえる。


 普通、何らかの理由で亡者が生前の世界に滞在する場合、依り代が必要になる。依り代は人形や装飾品等の物品を用いる。稀に動物を依り代に使う場合もあるが、特別な許可が必要な上に制限時間は一日。依り代に人間や人外を使う事は基本的に論外である。

 理由は、生物に亡者が取り憑くと生気を奪うからである。それが長期間に及べば、その肉体は衰弱死してしまうからだ。


 犯人がしている事は、ゆるやかな殺人と同義だ。


◆◇◆


「失礼します」

 朝礼後、蓮は雪音の執務室に入った。他の四人は、現世見廻の範囲を割り振っている。

「蓮さん。話とは何でしょうか?」

「はい。第三討伐隊にいる友達が虐められているらしいんです。それで少し調べようと思ってるんですが、加害者共の逆恨みが厄介だなって思ったんで、後ろ楯になってくれませんか?」

 蓮が頼む。

(第三討伐隊、ですか……)

 雪音は、何か引っ掛かる物があるようだ。

「その、虐められている子の名前は何でしょうか?」

「? 雅楽代愛梨っていう、ゆるふわな薄茶ボブの美少女です」

 蓮は疑問に思いながらも答えた。


(犯人ではないですね)

 雪音は胸を撫で下ろした。朝礼で話した、生者依り代事件の犯人は第三討伐隊にいるのだ。しかし、蓮の話から犯人と直接的な関係はないようだ。

 犯人がいないと確定された各隊の隊長と副長には、犯人の名前と顔写真を見せられる。まだ証拠が集まっていないので逮捕はできないらしいが、すでに容疑者は特定していた。

 犯人達の中に美女が二人いたのだが、名前も髪型も違う。さらに、少女という享年でもない。同じ隊の無関係者だろう。


「分かりました。では、第三討伐隊からの圧力等は私が止めますね」

「ありがとうございます」

 雪音は事件の事を考えながら了承した。

「ただ、気をつけてくださいね。近頃、物騒なので」

「いやぁ、あたしは喧嘩だけは強いので、何かあったら返り討ちにしてやりますよ」

 雪音が気づかいの言葉をかけると、蓮は頼もしい言葉を返した。

四章に続きます。

また、プロットの見直しと修正の為、来週は投稿をお休みします。

四章1話は11月21日に投稿したいと思っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ