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すみません。

投稿が少し遅れてしまいました。

 死後の世界、常夜(とこよ)

 まだ寿命の残っている天国逝きが仮定された善良な亡者が、転生の時を待つ世界である。

 花耶と春介は、死徒や獄卒が重宝している大病院に入院した。

 骨折や斬られただけなら、快癒や各支部内にある医療施設での治療で事足りる。が、今回はさすがに重傷すぎた。より設備の整った病院での治療を受ける事にしたのだ。


「花耶、入ってもいい?」

「ん」

 返答すると、千絃が入ってきた。

「って、どうしたの? そんなうなだれて」

「怒られる、覚悟、してた……」

「あ、あー……」

 千絃は遠い目をした。

 片脚と片腕の欠損、残った方の手首から先を焼失。首を中心に軽度の火傷。おまけに消滅ほどではないものの、若干魂に負荷をかけすぎたようだ。

 それが今回、花耶の負った怪我である。

 肉体の方は治療を受ければ通常よりも早く回復、再生するとはいえ、それまでは安静にしたうえで回復後もリハビリが必要になる大怪我だ。

 過去にはもっとひどい怪我をした事があるが、どれも怒られた。

 当然といえば当然だろう。いつも「無茶しないで」と言われているのに無茶した結果、この大怪我を負うのだ。しかも、反省してもまたやらかす。見捨てられないのが不思議である。

「えーと……。今回だけ、特別に怒らないよ」

「……見捨てられ――」

「いや見捨てないから!」

 青ざめる花耶にツッコミを入れた千絃は、隅に寄せてある椅子をベッドの傍らに置き、座った。

「春介が言ってたんだよ。仲間を呼ぶ暇もない状況で、花耶は頑張ったから誉めてあげてって。帰りに叱りすぎて、泣き疲れて寝たとも」

 花耶はきょとんと目をしばたかせた。

 おそらく、叱ったというのは花耶を庇うための嘘だろう。


 千絃は知ってか知らずか、さらさらと花耶の頭を撫でた。

「頑張ったね。お疲れ様。すごいえらかったね」

「……えらくない」

 優しい言葉が、罪悪感に響いた。

「ほとんど、助けられなかった」

 魂の消滅を防ぎ、化穢を討伐したという意味ならば確かに仕事を全うした。しかし、ほとんどが亡者となった魂。花耶にとって『助けた』とは言い難かった。

「今回はみんなそうだったよ。でも、全員亡者だったわけじゃない。それに化穢を討伐して、化穢化寸前の穢憑きをこんな怪我負ってまで正気に戻した。すごい活躍だよ」

「……でも。春介、怪我した。もっと、うまく、立ち回れば……」

 花耶の脳裏に、盾からはみ出た春介の半身が焼かれる光景が思い浮かぶ。確かに春介は快癒を使えるが、得意な者と比べて回復量は決して多くない。普通の屍霊より頑丈だが、限界はある。

(急いで、いた。けど、無謀すぎ。他の、方法、あった、はず……)

 ただでさえ毛衣なしで戦っていたのだ。そんな負担をかけた上に余計な怪我まで負わせてしまったと、花耶は後悔していた。

「だけどね、怨霊を化穢化した後で討伐したり、魂が消滅すると怨夢は崩壊する。そうなったら取り残された魂や動けなくなった死徒は巻き添えで消滅する。花耶が怨霊を守ったから、その後の魂保護まで安全にできた。死徒も、死んだ奴はいるかもしれないけど、まだ蘇生できる。花耶は最悪の事態から仲間を守ったんだ」

 花耶は顔を少し上げた。

 やり方は誉められたものではない。しかし、ギリギリで化穢化という最悪な結末を回避できた。

 大量の犠牲者を出してしまったが、魂の消滅を防いだ。

 少しだけ、心が軽くなった。

「あり、がとう」

 ぽそぽそ呟くように言うと、千絃は心配そうな顔から一転、見惚れる程に優しい顔になった。


「あの、男の人は?」

「怨霊の事?」

 千絃が訊き返すと、花耶は頷いた。

「たぶん、地獄に堕ちると思うけど、よほど悪い事してなければ大丈夫だよ」

 怨霊は、大量に妖怪を殺した。

 しかしそれは、穢憑きとなっていた期間のみ。その場合は『化穢に操られており、犯罪を抵抗できない状態で強制された』と扱われ、罪には問われないのである。もちろん、それ以外で人殺しや窃盗、虐め等の大罪を犯していたら話は別だが。

「……あの人、人間の、格好、してた。学校、壊すの、嫌がってた」

「不思議だと思った?」

「ん。でも、悪い人には、見えない」

 花耶は頷き答えた。

「まぁ、妖怪にも色々いるからね。人間が嫌いだったり、無関心だったり、逆に興味があったり」


 千絃は、自分に指さして言う。

「僕みたいに、人間が好きな妖怪だっているよ」

「千絃、生前、人間と、暮らして、いたんだっけ……?」

「正確には、仕えてた。その人にすごくよくしてもらってね。秋になると、よく栗ご飯を炊いてもらったんだぁ」

 栗は千絃の大好物だ。かなり良好な関係だったらしい。

(……私は、どう、だった……?)

 そんな千絃の様子を見て、化穢に言われた事を思い出し、質問した。

「千絃。私、妖怪なの?」

 瞬間、千絃の端正な顔が強ばった。

「ナ、ナンデ、ソウ、オモッタノ?」

「化穢、言ってた」

 ぎこちない片言が気になったが、千絃の質問に答える。

 花耶は、千絃から『人間だ』と教えられた。もし化穢の言っていた事が本当なら、千絃は嘘をついたという事になる。

「あぁ、覚目持ってたんだっけ?」

 春介からも異能について聞いていたのか、千絃は一瞬、遠くを見つめるような目になった。


 そして、真剣な眼差しになる。

「実は、花耶を拾ったのが人間界だったんだ。だから、勘違いしてた。混乱させたよね。ごめん」

「んん。平気」

 千絃の謝罪混じりの説明に、花耶は頷いた。

「これ、記憶の、手がかり。ありがとう」

 妖怪は文明開化以降、人外界に移り住むようになった。現代、多少の行き来はあるものの、人間界で暮らす人外の数は少ない。

 その中で関東地方内に居を構える妖怪となると、だいぶ数は絞れる。まだ多い事は多いが、探せない人数ではない。

 もしかしたら、自分の家族がいるかもしれない。家族でなくとも、知り合いは見つかるかもしれない。相手が人間だったら、たとえ見つけても向こうは視えない可能性があるが、妖怪ならばそんな心配はいらない。

 そう考えると、むしろ妖怪でよかった気がするのだ。

 そんな花耶の気持ちとは裏腹に、千絃はどこか不安そうな顔をしていた。


◆◇◆


 蓮もまた、春介の病室にいた。

「それにしても、お前ほんと嘘が下手くそだよな」

「え?」

 春介は、きょとんとする。

「あたしと千絃が体育館に来た時、叱りすぎて花耶を泣かしたって言ってたろ?」

「あぁ、あれかぁ」

 春介は「やっぱりバレたかぁ」と苦笑いをする。

「お前が花耶を泣くまで怒るなんて想像できねぇもん」

 春介は、地雷さえ踏まなければ、蓮以外に怒る事は滅多にない。


 過去に、ある老舗洋菓子店の閉店セールで、未明から数時間も並んだ末に手に入れた一日五十個限定の釜焼プリン(最後の一個)を、いざ食べようとした時に、ある諜報隊士が躓いて熱々の超激辛ラーメンをぶちまけた事件があった。

 その時ですら、春介は一瞬だけ絶望顔になった後、涙目にながら許した。

 春介はそれくらい人に対して、怒りという感情が沸かないのだ。

 ただし、もし熱々超激辛ラーメンをぶちまけたのが蓮だったら、殴り倒した上で関節技で締め上げるくらいにはブチギレていただろうが。


「だって、めちゃくちゃ頑張ったのに千絃に怒られたら可哀想じゃないか」

「まぁ、あいつちょっと過保護なとこあるもんな。花耶が黄泉軍に入るって言ってた時も大反対してたらしいし」

 前に花耶から聞いた事だ。

 そんな彼を説き伏せるために、こっそりとある人物に弟子入りして修行もしていたらしい。元々反対していたのに、内緒で修行していた事も、千絃の過保護に拍車をかけたのだろう。


「そういや、お前も今回は花耶に負けず劣らずの大怪我だよな」

「ははは。さすがに、毛衣無しで炎が掠めたのはまずかったなぁ」

「……は?」

 蓮は目が点になった。

 春介は化穢との戦いの事を話す。

「じゃあお前、毛衣無しで穢憑きと戦ってたのか」

「そだよー」

 話を聞いた蓮は呆れた。

 確かに、化穢を先に倒す為に炎の壁を突破するならそれしかない。自分でもその場にいたならそうしただろう。

 しかし、相棒と言っても過言ではないほどの大親友がそれをやらかしたとあれば、反応は変わる。

「お前、馬鹿だろ」

「蓮にだけは言われたくないなぁ」

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