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「ごめ……っ、ちょっと、休んでるから……」

「さき……帰っ……、くだしゃ……」

 訓練終わり。千絃と愛梨は、野外訓練場のベンチに座って、呼吸を整えつつ言った。

「んん。待ってる」

「二人とも、大丈夫か?」

「ゆっくり休んどけ」

 花耶と灼はそれぞれ、千絃と愛梨の髪をタオルで拭いていた。蓮は、両手で団扇を扇いでいる。

「二人ともー。お水、買ってきたよー」

 春介は水入りの瓶を二本持ってきて、愛梨と千絃に渡した。

「あぃがと、ごじゃいま……」

「ありがと……」

 二人はコルクを外し、水を呷る。一気に三分の二ほど飲み干していた。


 二人がここまで疲れているのは、体力強化の訓練に参加したからである。

 二人とも、基本的に妖術による攻撃や補助、回復が主。格闘訓練や、武器戦闘訓練にはあまり参加しない。護身程度にできれば充分だからである。

 しかし、怨夢内では魂や生者、怨霊に亡者を探すのは歩きが基本。怨夢によっては、持久力や俊敏性が攻略の鍵になる事もある。

 ある程度は、体力も必要になってくるのは、二人とも分かってはいるのだ。訓練についてこれるかどうかは別問題だが。


「あーっ! みーつっけたっ」

「「「「「!」」」」」

「‼」

 その声が聞こえた瞬間、花耶は顔を真っ青にさせて千絃の後ろに隠れた。

「どうかしたの? 花耶」

 千絃がしゃがんでいる花耶を見下ろし、心配する。

「あれ? あなたは……」

「あ! 嫌巻春太郎さんもいるのです!」

「咲宮春介です」

 獄卒少年の中で、春介はもう嫌巻春太郎という名で固定されたようだった。

 春介は、獄卒少年に会った事があった。蓮を殺した犯人が地獄に堕ちた時に、面会で見張りをしていた獄卒の一人である。

「春介さん。この人は?」

「ああ、この人は――」

 と、春介が答えようとしたところで、獄卒少年は遮り名乗った。

「どもども! ほとんどの人ははじめまして~。獄卒の、入上(いるうえ)暁生(あきお)なのです! 今日は、俺のかわいい弟子である花耶ちゃんに会いに来たのです!」

「「「「「‼‼」」」」」

 それを聞いた花耶以外の五人に緊張が走る。

「あの猟奇的殺人鬼かよ⁉」

「むー。失礼なのです! 俺、少なくとも生きている内は殺人と拷問を我慢してたのです!」

「「「「殺人と拷問を我慢⁉」」」」

 灼の指差し発言に獄卒少年――暁生は頬を膨らませて反論する。

 花耶は、黄泉軍に入る前に、ある獄卒に弟子入りしていた。

 もはや虐待に等しい特訓だったらしく、口下手な花耶から聞いただけでも、爆死、圧死、服毒死、溶解死、手足の欠損。その末に何回も蘇生術。


「あーそうなんですか。その節は、花耶が本当にお世話になり申した《痺雷針》」

「ふぉ゛ぅ⁉」

 千絃の不意討ち痺雷針を、奇声鳴げて避ける暁生。

「いきなり何をするんですかー!」

「黙れ‼ 己は花耶に何かする気であろう⁉」

 危機感から、人相、声音、口調がガチギレ時の千絃になっていた。

「誤解なのです! ただ花耶ちゃんを玩具……一緒に遊ぶだけなのです!」

「今、玩具言うたではないか白々しい‼」

「空耳なのです!」

 問答無用とばかりに、千絃は痺雷針を撃って撃って撃ちまくる。しっかりと狙いを定めているようだが……。

「よっ! のっ! ほっ! ひーらりんっ♪」

 暁生は楽しそうに避けていた。

「ねぇねぇ、どこ狙ーてるぅんですかー?」

 しまいには千絃を煽る始末。


 ブチィッ。


 千絃の中で、ついに理性が切れた。


「《痺雷じ――》」

「「痺雷陣はやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼」」

 ガチ目の危険を感じ、蓮と春介が取り押さえた。

 ちなみに灼は、花耶と愛梨を小脇に抱えて、いつでも逃げられるように構えている。

「頼むから痺雷陣はやめぇ! あれ、敵味方無差別だろう⁉ 撃ったらみんな黒焦げになる‼」

 春介は自分の腕を咬ませて、詠唱を封じる。

「痛てて! 蹴るな蹴るな! さすがに任務でもねぇのに死にたかねぇんだよ‼」

 春介のサポートとして、腕を押さえる蓮。

「ねぇ今どんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ち? 手も足もでないのはどんな気持ち? NIDK! NNIDK!」

「お前は頼むからこいつを煽るな‼」

「君は頼むからこいつを煽らないでぇ‼」

「グルルルルルル‼‼」

 花耶、灼、愛梨の三人には、暁生の注目はこちらから逸れているように見えた。


「灼。今の内に逃げよう」

「んぇ、でも蓮達が……」

 灼は、千絃と彼を止めている蓮、春介を気にして躊躇う。

「入上さんの本来の目的は花耶先輩だよ。今なら注意が逸れてる。言葉を失うほど怯えている先輩を渡す訳にはいかないでしょ」

 愛梨の説得に、灼の決心はついた。

「分かった!」

 灼はそう言って駆け出す。しかし。

「あっれれ~? どこ行くーんでーすかぁ~?」

 回り込まれた。

「へぁあ⁉」

「はっや⁉」

「嘘だろ⁉」

 狼狽える灼の隙をついて、暁生は花耶の腕を掴んだ。

「やべ!」

「へぶっ!」

 灼は愛梨から手を離し、花耶を取られないように抱き締めた。愛梨は着地に失敗したが、花耶はなんとか間に合った。

 ただ、その時に腕をまわした場所が悪かった。

「手、離した方がいいんじゃないですかぁ~?」

「絶対ぇーやだ!」

 体重をかけて花耶を引っ張り寄せようとする暁生。

 花耶を守ろうと、しっかり抱き締める灼。


「ぎゅ……っ! ぐぇ……!」

 そして、首に腕をまわされたおかげで、気管と食道が潰れかける花耶。


「灼! 私が掴んでるから、一度片腕離して!」

「花耶、死にかけてんぞ!」

 蓮も助っ人に入り、愛梨と一緒に腕を掴む。

「うぁあ⁉ ごめ――」

 灼が腕を緩めた時、二つの事が同時に起こった。


 バチィッ。

「ギャア⁉」

 千絃は全身から霊力を放電。

 春介はたまらず、解放してしまった。


「邪魔なのです!」

 暁生は蓮と愛梨の脇腹に向けて、素早く蹴りを繰り出す。

「ぐっ⁉」

 蓮はなんとか耐えたが、怯んで腕から一瞬、力が抜ける。

「ぐはぁ⁉」

「愛梨!」

 そして、愛梨は吹っ飛ばされた。花耶は思わず悲鳴を鳴げる。


「貴様ら、花耶から、手を離さんかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ‼‼」

 首を締められている花耶を見た千絃は、完全に怒髪天を衝いていた。

 駆け寄りながら手の平に霊力を殺意込めて圧縮し、人の頭部ほどの大きさで雷の爆弾を作り上げていた。


「ほいっ。花耶ちゃんガード」

「っ⁉」

 だが暁生は、逃げ出そうとじたばたしている花耶を肉壁に突き出す事で難を逃れた。

 千絃の手から、霊力が散る。


「でわっ! 花耶ちゃんはお借りするのです!」

 隙をついた暁生は、花耶を小脇に抱えたまま逃げ出した。

「待たぬか‼」

「待て‼」

 千絃と灼が即座に追いかける。

「春介! 愛梨を頼んだ!」

「分かった!」

 蓮もその後を追う。

「《韋駄天走》っ!」

 愛梨は咳き込む合間に、なんとか灼に補助妖術をかけた。

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