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任務終わり。一応蓮は、常夜の病院で魂の状態を診てもらう事になった。付き添いは千絃だけだった。
花耶、灼、愛梨も行きたいと行っていたが、蓮が正気に戻った事に安堵しすぎてガン泣き。どうにかこうにか泣き止ませる事には成功したが、どっちが診察を受ける患者なのか分からなくなるほどひどい顔になったので、帰らせたのだ。
春介は怨霊に心当たりがあったらしく、どうしても言いたい事があったので地獄に直接連れて行くとの事だった。その時、春介は笑顔だったが目が笑っていなかった。平和的な内容ではない事だけは確かだろう。
蓮が診察を受けている間、千絃は待合室で待っていた。しばらくすると戻ってきて、会計も済まし、病院を後にした。
「蓮、どうだった?」
「魂に傷がついてたってよ。ドクターストップかかるほどじゃねぇけど」
「そっか……」
仕事に支障をきたすほどではないという事は、傷自体は浅いものなのだろう。しかし、魂に傷がついたという事が重大なのだ。魂に傷など、余程の事が起こらない限りはつかない。たとえかすり傷程度だったとしても、治るのに数年、人によっては十年単位の時間がかかる。
さらに、魂の消滅は亡者にとって、死と同じ。最悪脳や心臓がなくなっても、時間がかかるだけで再生はできる。魂は、なくなったらもうどうしようもない。
「あのさ」
「ん?」
蓮は俯き、言った。
「今回、悪かったな。迷惑、かけちまった」
「大丈夫だよ。みんな、大きな怪我はしてないし」
実際は、花耶は頭を割られ、春介は腹を刺された。しかし、みんなで話し合ってこの事は蓮には告げない事にしたのである。
今回、蓮は悲惨な幻覚を見た。かなり精神的に辛い場面を見せられたはずだ。ただ、幻覚を見せられた状態で穢憑きにされたせいか、その時の記憶がなかった。
あえて、仲間を傷つけたなんて知らせる必要はない。知らぬが仏。世の中には、知らせない方がいい事もあるのだ。
「それと、記憶を一部だけ消す術って知らねぇか?」
「え゛」
千絃は一瞬、固まった。
「いや、不謹慎だとは分かってるんだよ。花耶とか、生前の事思い出したそうにしてるし。ただ、今回マジで情けねぇもん見せちまったなぁって思ったら、全員の記憶消したくなった」
「そ、そっか……」
千絃は引きながら、答えた。
「なくはないけど、コントロールがかなり難しいし、最悪全部消す可能性もあるから、精神病の治療以外では許可されてないよ。治療目的でも、もう記憶を消す以外で改善される見込みがない時の最終手段だし。記憶を奪う呪いもあるけど、そっちは凶悪な組織犯罪の調査でしか使用が許可されていない、半禁呪みたいなものだし。ちなみに、僕も使えないから教えられないよ。使えても、さすがに教えられない」
「そうか……」
さすがに、記憶喪失にさせるリスクや法律を犯す気はないようだ。早々に諦めた。
「でも、別に少しくらいは情けない所を見せてもいいんじゃない?」
と、千絃は言った。
「蓮はものすごく強いけど、神話に出てくるような超人じゃないんだから。そういう弱い所があっても失望したりしないよ」
続けて訊いた。
「あの時、蓮が泣いてたのって春介と穂花さんへの罪悪感からでしょ?」
「おう」
「春介と穂花さんの幸せを願っていたからこそ、『自分が二人の幸せを奪ってしまった』って考えてたからだよね?」
「……よく分かるな。エスパーか?」
「いやいや、誰でも分かるよ」
次に、千絃は自分の考えを話す。
「そんな、友達想いゆえの弱さは持っていてもいいと思うよ。……その、むしろ、そういうとこが蓮の魅力でもあると、思う……」
最後はぽそぽそ呟くような声音になっていた。
「…………」
にゅっ。
「‼⁉」
「うお。真っ赤」
目線が合わないように俯く千絃と、顔を覗き込んで無理矢理合わせてきた蓮。千絃は思わずのけ反り、逃げ出した。
「あー待て待て待て。お前、あたしの付き添いだろ。逃げんな」
しかし、あっさり捕まった。
「蓮。僕はさっき、結構真剣に言ったんだよ。茶化さないで」
「悪ぃな。あんな風にしおらしくしてると、ついからかいたくなるんだよ」
蓮は、すっかりいつもの様子だった。
魂こそ傷ついてしまったが、意外と平気そうな様子にむすっとしつつも安堵する千絃だった。




