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魔法と建国と吸血鬼  作者: タニシ
5/8

鶴の恩返し3

遅くなってごめん!

ここに来たときは早朝だったが、今は夕暮れ。時間でいえば十二時間ほど寝ていたことになる。


「そういえばお嬢様ってハクさんがこの町にいるってわかったんですか? やっぱ勘ですか?」


ふと気になって聞いてみた。


「そんなわけないでしょ、あなたバカなの? 私はあいつの魔力を追ってたの。だから今すぐにでもあいつのもとまで行けるわ」


「はいはい、どーせ僕は冗談も見抜けない無能な眷属ですよ」


「そうね。食料という点以外あなたは無能だわ」


「……ッチ。…………自分お腹空いたんでなんか買ってきまーす」


そそくさと売店に走ったがお金を持ってないことに気づき元の場所に戻った。


「少しお金もらえませんか、無一文なんで何も買えないんですけど」


「……昨日の今日であなたも普通にやろうとするのね」


「へっへっへ。親父さんほどじゃありやせんがね」


「せめておばさんでしょ! これでも私真面目に女の子なのよ!」


「女の子はいきなり人に魔法打ったり股間蹴ってきたり気まぐれで人殺したりしないんです~! 悔しかったらちゃんと女の子すればいいんじゃないですか?」


「気まぐれで人殺してないから! 人聞きの悪いこと言わないで頂戴! そんなこと言ってると、あなたの童貞奪って私の体なしでは生きられない体にするわよ?」


「うわっ! ぞわってなるからやめてくださいよ気持ち悪い。僕お嬢様みたいな幼児体系眼中にないんでせめて……あの人くらいスタイルよくなってから出直してください」


そう言って道を歩いてる女性を指さす。その人スタイルは抜群によく出るところは出て引っ込むところは引っ込んでる理想の女性を具現化したような体をしていた。ちなみにお嬢様は出るところがえぐれていて比べるのが失礼な体系だった。


「な…………! ふ、ふん! あなたなんか知らない! どこへでも勝手に行くといいわ!!」


そういって手にお金をたたきつけどこかへ消えていった。


「とりあえずなんか食べて合流するか」


こういうことはよくあるので、特に気にしなかった。


だが、これがのちに大きな火種を生むことになるとは、この時はまだ誰も知らない。




売店で売っていた焼き鳥を二本購入した。一本銅貨十五枚はさすがに高すぎると思ったが、そこ以外に大した店はなかったので買ってしまった。だが確実にぼったくりだ。うちの村売っていたパンは一つ銅貨一枚だったし、似たような焼き鳥は銅貨五枚だった。まぁ錬金術で無限に本物が生み出せる以上関係ないけど。

そんなことより冷める前に焼き鳥にかぶりつく。…………大して美味しくなかった。硬いし中まで火が通ってないし何より味がない。まるで噛み終わった後のガムを外にさらしたやつをまた食べているような感じだった。とはいえお腹空いてるしまずいわけじゃない。それに何より鳥に失礼だから買った分はちゃんと食べる。



焼き鳥を完食しお嬢様とクックを探している最中。夜になりつつある町の人通りは無人と言っていい。

どうせすぐに会えるだろうと思っていたが、案外町が広くて隅々まで探索することすら叶いそうもなかった。


「…………! ……げほっ。……だからっ、言わないって言ってるでしょ! 分かったら早く解放しなさい!」


どこかから女性のそんな声が聞こえ、心臓が飛び跳ね無意識に止まってしまった。


「だからてめえが言えば解放してやるって言ってるだろ!」


「誰があんたみたいなクズに教えるか!」


「クソガキが、調子に乗るんじゃ……ねぇ!」


下卑た声と共にドコッ! バキッ! という音が左前方の路地から響く。

明らかに今知らない女性が男に嬲られている。光景が目に浮かび頭が真っ白になる。


「……だれか…………助け、て……」


か細い悲痛な叫びが耳に届いた。


「動け……動けって!」


言葉ではそういっても、体は動かない。怖い、怖いに決まってる。人を殴ったこともなければ叩いたこともない。魔法も剣術もからっきしだ。今も嬲る音が聞こえてる。耳を閉じて今すぐ逃げ出したかった。


「……はぁ、喋んねぇならてめえはいらねぇ。使うだけ使って殺してやる!」


「――――――!」


殺すという言葉に体が過敏に反応した。瞬間身体が動くようになった。

すぐさま路地に走り出す。


「やめろっ……!」


着いた瞬間そう叫ぶ。敵は一人だと思っていたが三人いた。足元にはボロボロの女性が転がっている。一斉にこちらをにらみ、先頭の男が苛立った声で、


「だれだてめぇは! こっちは取り込み中なんだよ、邪魔すんなら殺すぞ!」


あまりの迫力に怖じ気付くが、自らを奮い立たせる。


「その人を離せ! でなければ容赦はしない!」


男たちはぽかん、とした後嘲笑する。


「てめえみてーな雑魚が俺たち三人の相手をするだって……? 粋がるのも大概にしろ!!」


先頭の男が叫び腰の剣を抜く。後ろの二人が魔法を唱えようとしたとき、


「――――テス!!」


後ろからそんな声が聞こえた。見ると長身長髪の見知らぬ女性がいた。


「…………お師匠様」


テスと呼ばれた少女が微かな声を漏らす。


「おい、おいおいおいおいおい! ありゃ俺たちの探してた鶴女じゃねぇか!」


「私は鶴のハク。あなた方が私になんの用か知りませんがその子を離しなさい!」


「ハク……さん!」


確かに彼女はそう言った。つまりこの人が僕たちが探していた人で、クックとお嬢様が言っていた通り狙われていたというわけだ。


「……? どなたか存じ上げませんがあの者たちを退治しましょう」


「いえ、あなたはお弟子さんを回収して逃げてください」


魔法の詠唱に入り無理やり会話を切る。


「アクティベートマジックサークル、ライトニング!」


基礎魔法1級、雷系魔法を繰り出す。自分の使える魔法ではこれが一番高威力だ。これで倒せなければ終わりだ。


「アクティベートマジックサークル、アンチマジックバリア」


一直線に飛んでいった雷は男に当たる寸前で魔法障壁に阻まれる。


「アクティベートマジックサークル、クリエイトファイアボール、クリエイトウィンドフロウ、コンバイン……バーニングウィンド!」


火の玉は生み出された風と溶け合い、燃える風と化す。だが、


「……そんなおこちゃまな風、俺達には効かねぇよ! 次はこっちの番だ」


「「アクティベートマジックサークル、レインフォースメント、オールステータス!」」


後ろの二人が男に魔法を掛けた。同時に男が前に走る。

――――速い!

五メートルの距離を一瞬で駆け抜ける。狙いは僕……ではなく背後にいるハクさん!

そう悟った刹那、二人の間に体を割り込ませつつ、ハクを突き飛ばす。その時には男は目の前で剣を振り下ろす直前だった。体を斬られないようかろうじて右手を前に出したがそれがまずかった。


「おらあぁぁ!!」


気合と共に上段から振り下ろされた剣は右手を肘の辺りで断ち切った。


「…………ッ!!」


電撃にも似た痛みが肘から脳に伝わり、目の前が真っ白になる。

直後、腹部にとてつもない衝撃が走り吹き飛ばされた。

お腹が熱を帯び口から血が出る。白みがかった視界は、星空を映し出す。


「きゃっ……!」


「たく、時間取らせやがって。お前ら、ずらかるぞ! 女二人は運べ!」


「そこの男はどうしますか!」


「ほっといていい、時期に死ぬ」


男たちの歩く音が遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。

薄れゆく意識の中でお嬢様の姿が浮かんだ。

次回、ヴィクトリア動きます!

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