鶴の恩返し2
今回ほとんど話が進みませんがご了承ください。
適当にぶらぶら歩きながら泊まれそうな場所を探す。だがどこも開いてそうにない。それもそうだ。今は大体……四時ごろといったところだ。普通の人はまだ寝ている時間。
「というかあんた、なんで私の棺桶持ってないわけ! 私のベッドはあれだなんだから持ってくるのが普通でしょ!」
「お嬢様が急かしたからでしょう……僕ではお嬢様の思い通りに行動できないので自分でどうにかして下さい」
「はぁ! そこを何とかするのがあんたの仕事でしょ! あぁー、まったく使えない眷属を持つと頭が痛くなってくるわ」
何か言い返してやろうかと思ったけど眠いのとどうせ言い返しても意味がないからやめた。
「……あそこ開いてそうじゃないですか?」
一人真面目に探してくれていたクックが前方を指さしながら(実際には指ではなく翼だが)そんなことを言った。
見ればINNの文字が書いてあり、三階建ての一階部分の電気が付いていた。
「! さっさと行くわよ!」
てってこ走っていく。そんなことしたら…………あ、見事にこけた。この人さてはバカだな。
そして起き上がるとこちらに向かってくる。その眼にうっすらと涙が浮かんでいて頬が赤い。恥ずかしがるくらいなら気を付けて歩けよ。
「……………………っこして」
「なんか言いました?」
「……だから抱っこして!」
「…………え?」
転んだ時よりも頬を紅潮させ上目遣いで懇願してくる。その姿は紛れもなく少女少女していた。
ひょっとしていやそんなことは万が一もないかもしれないけどもしかしてこの人って可愛かったりする?
突然の出来事にそんなことを思うルイスだった。
宿屋の一階は酒場になっていて飲んだくれが酔いつぶれて寝ていた。
チェックインのため受付に向かう。
「すみません、子供と大人、あとペット一匹で一泊お願いします」
そういうと、受付のおばちゃんが作業の手を止めこちらをジロジロ見てくる。
「……あの、一泊お願いします」
小さく「……ッチ」と舌打ちしてから不機嫌そうな顔で、
「子供一人銅貨五十枚、大人一人銀貨一枚、ペット一匹銅貨二十五枚。階段上ってすぐ左の部屋。食事は無し、日が沈み切るまでには出ていきな」
言い終わるや部屋の鍵を投げつけて、それからうんともすんとも言わなくなった。
前にいた村じゃ銀貨なんて使う機会がなかったし、村の宿屋は大人一人銅貨十枚だった。さすがに高すぎると思ったが、なぜか今フッと沸いたようにポケットに入ってたお金を置いて部屋に向かった。
「完全にぼったくられましたね。まさかわたくしの分まで取られるとは思いませんでしたよ」
「まぁいかにもお金持ちそうな身なりをしてるからね。そんなことよりなんでポケットにお金があったんですかね? そんなの用意した覚えないけど」
「私が作ったのよ」
さっきまで寝たふりをしていた幼女が、いつも通りの感じに戻って言った。
「……それって偽のお金ってことですよね、犯罪ですよ! ただでさえ虚偽おばさんに捕まってるのにそのうえ衛兵隊に捕まって牢屋行きなんて嫌ですよ!!」
「それもしかしなくても私? いいでしょ別に、あっちだってぼったくったわけだしお互い様でしょ」
「さすがサイケデリックマッドガイ。やることがサイコパスだ」
「私そんなおかしくないから! 大丈夫、安心しなさい。あれは私が錬金術で作ったものだから本物と同じものよ」
「さすが我らがお嬢様一生ついていきます! お嬢様バンザーイ! 吸血鬼バンザーイ!」
「…………あなたも相当頭がおかしいわ」
部屋の扉を開け抱えたまんまだったお嬢様をその辺に投げ捨てベッドに倒れこむ。
「自分眠いんんで寝ますお休み」
「あなた最近私の扱いひどくない? これでも私は美少女吸血鬼なのよ」
その言動に眠気が飛ぶほど笑いが込み上げてきて、ついには声を出して笑ってしまった。
「ちょっと! どこにも笑う部分なんてなかったでしょ!!」
「美少女って! お嬢様の場合微妙に少女の間違いでしょ!」
「……あんた、乙女に向かって失礼ね。私だって泣くわよ」
それにまた笑ってしまった。
「マジで泣くわよ!!」
「それって乙した女、終わった女で乙女って意味ですよねさすがに」
お腹を抱え涙を手で拭いながらそう答える。まずい、腹筋が釣りそうだ。
「……………………っぐす」
え?
「ぶびゃぁぁぁぁぁぁぁっぁぁあああん!! ルイズがいじめだあああっぁぁぁぁぁ!」
顔をくしゃくしゃにして、大声で子供のように泣きじゃくる。
「…………えぇ、クック助けて」
呆れた様子で見ているクックに助けを求める。
「……仕方ないですね……ヴィ様。ルイス殿はあなたのわがままで寝てないのですから、話を終えてから泣いてください」
ピタッと泣き声が止んだ。どうやらウソ泣きだったようだ。
「…………クック、あなた意外と辛辣ね」
「まったく世話の焼ける人たちです」
「で、何について話すの」
先ほどとは打って変わっていつも通りのお嬢様だった。
「森で見かけここまで一緒に来た人たちのことです。ヴィ様も気づかれていましたよね」
「ま、あんなあからさまなら気づかない方がおかしいわ」
確かに怪しさ満点だったが、別に証拠があったわけじゃないしなんのことを言ってるかさっぱりだ。
「おそらくこの辺を統括している裏組織の人間でしょう。屋敷を建てた場所から百キロほど離れているのでしばらくは大丈夫そうですが、わたくしたちの国の大きさによっては気を付けるべきでしょうね」
「別に建国しなければ無視できるんじゃないですか?」
「何言ってるの、私の国は建てるわ。……それにどっちにしろあいつらとは今後敵対するでしょうね」
「そうですね、ここで見逃すことはできません」
僕は認めてないが、お嬢様曰く眷属らしいのに置いてけぼりになっている。こういう適当なところがお嬢様をお嬢様たらしめる理由の一つだが、今はやめてほしい。
「…………クックはともかくお嬢様ってそんな人柄よかったでしたっけ?」
「あなた今日ちょっと私のこと馬鹿にし過ぎじゃない? そうじゃなくてあいつら、ハクのこと狙ってるわ」
「ハクさんってそんな狙われるほどすごい方なんですか?」
もしくは容姿端麗だったり? いい人だったらその人の下に就くのもありだ。……そんなこと言ったらお嬢様に監禁されるかもしれないが。
「ハク様の作る服はそれはもう素晴らしいものです。本人曰く素材さえあれば着たものに不死属性を付与する服も作れるそうです。まぁ、素材がないので理論上ですが。でも、ハク様が作り売っているものも十分素晴らしいです。簡単には破れず並大抵の傷は簡単に直し、さらに所有者の魔力を増大させる効果があるのです」
「あれってそんな効果あったの!? ……あれでもこの服簡単に破けたけど」
お嬢様が着ている服はロリータ服。正確にはゴスロリに分類されるもので、黒を基調とし全体を飾るレースは白。スカートは膝上で白のフリル付き。白のニーソックス。腰まであり雪のように純白の髪は大きな黒のリボンで飾られている。
全体的な露出度が低いこの服は、今は膝辺りが少しだが誰が見てもわかるくらいには破けてしまっている。
「それはたぶんハク様が遊び心でですよ。破ければ会う口実ができるわけですし」
「……あいつのやりそうなことだわ。ほんと、余計なことにも頭が回るやつだわ」
その人はとても頭が回るそうだが、僕の頭はほとんど回っていなかった。さっきはお嬢様が面白いことを言ったから目が覚めたが真面目な話は眠くなる。ほとんど会話に混ざれてないのではなおさらだ。
「……すいません、僕もうねま、す」
最後の方は少し消えかけていた。
会話中の二人、もとい一人と一匹は会話を止める。
「……そうね、私も眠くなってきたわ。クック後のことは任せていいかしら?」
右翼を頭らへんに持っていき敬礼のようなポーズをとりながら、
「了解です。ゆっくりお休み下さい」
そう言い残し静かな早朝の町に繰り出しって行った。
「さて、私たちは寝ましょうか」
遠くの方でお嬢様の声が聞こえた。が、既に返事をする余裕はなかった。
「…………お休み、ルイス」
沈みゆく意識の中で、静かな懐かしさを感じた。
昔を思いだすお日様の匂いが鼻孔をくすぐった。
全てを包んでくれそうな子守歌が聞こえた。
温かくて安心できる、誰かの手を頭に感じた。
昔の記憶を思い出した。なにかある度膝枕をしてもらい頭をなでてもらったものだ。たまに子守歌を歌ってもらったときは寝てしまったこともあった。
情景は今でもはっきりと思い浮かぶのに、あれが誰だってか思い出せない。
ふと、体が引っ張られるような感覚に襲われた。直後、真っ白だった視界に色が付き始める。
「…………!」
まぶたを開けると、至近距離にお嬢様の顔があった。軽やかな寝息を立てて眠っている。
目だけで辺りを見渡すと、どうやら仰向けで膝枕されいる状態だった。それにいつものゴスロリの服じゃなく、薄手で白色のワンピースを着ている。初めて見る格好だが特に驚かなかった。窓から差す朝日が神秘的な様子を演出していた。
起き上がろうと頭を上げようとすると、妙な重みがあった。よく見ればお嬢様の左手が頭に添えられていた。
まるで母のような包容力に、起き上がることができない。
――――ふと、記憶の深層が刺激された。だが、もやがかかっているような、止められているような、とにかくそれが何かわからないが、重要なことを知っているという感覚に襲われた。
そのあとも何かの正体を探ろうと悩んだが、結局何もわからなかった。
なんとなく悲しそうに見えたのは、二度寝から目覚めた時だった。お嬢様の目にはうっすらと涙が浮かんでいたが、まだ寝ている。
ちいさな頬に手を当てる。無意識にそんなことをしていた。透き通った肌は確かな温かさを持っていた。
「………………ん」
親指で優しく撫でていたら、そんな声が微かに開いた口の隙間から漏れた。
ゆっくりと開かれるまぶたから覗く真紅の瞳には、妙な魅力があって目が離せなかった。
「…………起きていたのね。おはよう」
既に日は沈みかけているのだから「おはよう」は違う気もしたが、とりあえず「おはようございます」と返しておいた。
一瞬、とても柔らかい笑みを浮かべてからいつもの調子で、
「さぁ、私に食事をよこしなさい」
どうせ断ったところで拘束され無理やり吸われるのがオチなので素直に従う。
「さて、そろそろ出ないと追い出されそうだしハクを探しに行くわよ」
口元をペロッとしてからそう言う。すでに薄手のワンピースからいつものゴスロリ服に着替えていた。
「そうですね。夜になって寝ちゃっては意味がないですし」
「その点は心配ないわ」
理由を聞く前に部屋から出て行ってしまったので後を追う。出るとき、ぼったくりのおばちゃんがチラッとこっちを見たが何も言わずに睨んでくるだけだった。
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