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魅惑のエンゲージバニー

作者: しいたけ

  ──ガシャーン!!!!


「!?」


 アパートの前にある大通りから凄まじい衝突音が聞こえた。歯磨き中の俺は慌てて口をゆすぎ、外へと駆け出す。すると嫁の車が別の車の脇腹にぶつかっていた……。



「だ、大丈夫か!?」



 車から降りた嫁に声を掛ける。嫁は悲しそうな顔で俺を見て「ゴメン……」と一言謝った。


 相手の車へと駆け寄り同じく「大丈夫ですか!?」と声を掛ける。幸い相手は無傷で、車も少し凹んだくらいで済んでいた。この際車種には目を瞑ろう。車のことは良く分からないけど、修理費はかなり掛かるだろう。




「概算で50万円くらいですね」


「―――!?」



 その驚きの修理費に俺は絶句した。二台合わせてかなりの値段を要する修理。それまでコツコツと貯めてきた貯金は一瞬で消え失せた…………。



「ただいまー……」


「……おかえりなさい」


 元気の無い嫁。凄まじい落ち込みようで、今にも泣き出さないか心配だ。嫁も相手も一応病院で診て貰ったが問題は無かったらしい。不幸中の幸いだ。修理も保険を使うことになり、一先ずは一件落着と言った感じだ。


「なに、貯金ならまたすればいい。無事だっただけ儲けものさ」


「……ゴメン」


「と、言う訳で今から貯金モードへと入る」


 俺はそれまで貯金と言う名目で不当に我慢させられていた飲酒をしようと、秘策を繰り出した。嫁の不幸に付け込む感じがして心がチクリとするが、こういう時でないと出せない秘策だ。





「ただいまー♪」


「……いらっしゃいませ」


 次の日、俺はウキウキしながら帰宅すると、部屋の壁にズラリと居酒屋のお品書きが並んでいる。まぁ、昨日俺が手書きしたんだけど。


「ご注文は?」


「おいおい、その前におしぼりだろう?」


「くっ……」


「へへ、しっかり稼ぐんだぞ?」


 嫁はぶつくさ文句を垂れながらキッチンへ向かいタオルを濡らしチンを始める。


「おしぼりです」


「サンキュー」


 俺は手渡されたおしぼりで顔を拭いた。やっぱり居酒屋へ来たらこれだろう。


「ビールと枝豆と冷や奴!」


「……かしこまりました」


 ジョッキに注がれたいつもの安ビール。一口目が最高に最高だ。このために生きていると行っても過言では無い。



「…………」


「へへ、悪いね」


 口では悪いと言いながらも、最早楽しんでいる俺。普段10円20円でガミガミ怒る妻が大金を失う損失を起こしたのだ。これぐらい多めに見て欲しいものだ。


「ビールおかわり。それと焼き鳥あるかな?」


「焼き鳥は安くなかったから明日です……」


「……じゃあ適当に何か貰おうかな」


「かしこまりました……」


 嫁がキッチンへ向かい、冷蔵庫から昨日の野菜炒めとビールを取り出した。


「お待たせ致しました……」


 座椅子に座りながらお気に入りのDVDを堂々と見ながら飲む酒は格別。俺はその日至福の時を過ごした。



「これ……いつまでやるの?」


「いつまでって……保険等級の差額20万貯まるまでだよ。今日はビール三杯、やっこ、枝豆、野菜炒めで2200円。明日も頼むよ?」


「……くっ」


 嫁は苦虫をかみつぶしたような顔をしている。しかし俺は酒が飲めて最高の気分だ!



 しかし、次の日…………



「ただいまー♪」


「お帰りなさいご主人様」


「ふぁっ……?」


 何故か嫁はフリフリのエプロン姿で俺を出迎えた。しかも何故かメッチャ笑顔だ。


「此方の御席へどうぞにゃん♡」


 いつもの座椅子に座り部屋を見渡すと、何やら可愛らしい飾り付けに変わっており、お品書きが嫁の手書きに変わっていた。


 オムライス1000円。ジュース500円。焼きそば1000円。タコ焼き800円。等々、何やら価格設定が上がっていた。



「あのさ、コレ……なに?」


「ご主人様、ココはメイード喫茶にゃん♡ 何でも好きな物を頼めるにゃん♡」


 よく見たら嫁はカラコンをしており、メイクも何だかいつもと違い可愛い系である。


「メイド喫茶なんて初めてなんだが、こんなに高いのか?」


「私達の愛がこもってるにゃん♡」


「……昔バイトしてたの?」


「……にゃん♡」


 手でハートマークを作りニコリと笑う嫁。嫁の知られざる過去に戸惑いながらも、俺はオムライスを注文した。



「ご主人様お待たせしましたにゃん♡ 熱々なので気を付けて欲しいにゃん♡」


「その『にゃん♡』っての何とかならないのか? 何だか歯痒いんだが……」


「おぷしょんで変えられるにゃん♡」


「普通の口調にしてくれ」


「30000モエモエポイントで変更出来るにゃん♡」


「……は?」


「30000モエモエポイントで変更出来るにゃん♡」


「……はい?」


「30000モエモエポイントで変更出来るって言ってるだろクソボケ」


「お、おぉ……」


 メイドがキレた。そこに愛はあるのか!?


「モエモエポイントは100円で1ポイント貯まるポイントで、現金でもチャージ出来るにゃん♡ その場合1ポイント2円にゃん♡」


「と、言う事は……ろ、6万円だと!?」


「……にゃん♡」


「お好きな語尾に変更出来るにゃん♡」


「……マジか…………なら『ゴワス』もいけるのか?」


「30000モエモエポイントにゃん♡」


「『それと便座カバー』もか!?」


「何の事だか分からないけど30000モエモエポイントにゃん♡」


「やだ、メイド喫茶怖い……」



 俺はちょっとした現実のホラーを感じながらもオムライスを食べようとスプーンを手にした。


「ご主人様、ラブケチャップは如何致しますかにゃん?」


「え、ナニソレ……」


「ケチャップでお好きな文字を書いて私達の愛を注入口するにゃん♡」


「……でもお高いんでしょう?」


「……にゃん♡」


 ケチャップ文字すら金取るのかよ! 世紀末なのかメイド喫茶とやらは!?


「分かったよ、頼むよ」


「何て書くにゃん?」


「『支店を板に吊るしてギリギリ太るカレーセット』」


「……にゃん?」


「『支店を板に吊るしてギリギリ太るカレーセット』」


「そんなに書いたらオムライスが真っ赤になっちゃうにゃん♡」


「良いからそれで宜しく」


「……お待ちするにゃん♡」


 嫁はオムライスとケチャップを持ってキッチンへ向かった。爪楊枝で細かく文字を書いている姿を見て、俺は少しだけしてやったりな顔をした。



「お待たせしましたにゃん♡」


「うむ、いただきます」


 オムライスはいつもの味だった。愛は何処へ行ったんだ?



「ご主人様、お会計にゃん♡」



 スッと出された紙を見て、俺は我が目を疑った。オムライス食べただけで3500円だとぉぉぉぉ!?



「な、何だこのボッタクリ級な値段は!?」


「ラブケチャップ特注は1000円にゃん♡ それと御席代で1500円にゃん♡」


「かぁーっ……メイド喫茶なんか二度と行かないからな。明日は居酒屋に戻してくれよ!?」


「……にゃん♡」


 その日、俺はもやもやっとした気持ちのまま眠りについた。





  さらに次の日…………



「ただいまー♪」


「いらっしゃいませ~♡」


「ふぇぇっ……!?」


 何故か嫁はバニーガールの姿で俺を出迎えた。メイクもバッチリ決めて完璧な出で立ちだ。


「今度は何だ!? なにその姿!? また昔のバイトシリーズか!?」


「1名様ごあんなーい♡」


 いつもの座椅子に座らされ、手書きのメニューを渡された。俺の頭上でミラーボールが回っているのは気にしないでおこう。聞くのが怖い。


「……ビールで」


 メニュー自体は割と良心的な値段。嫁のバニーガール姿なんて想像もしたことなかったが、よく見るとちょっとパツパツしている。


「……昔より太―――」


「それ以上は殺す……」


「あ、はい……すみません」



 ビールが運ばれ、嫁が隣に座る。女の子座りで体をクネクネと動かす度に俺はドギマギしてしまい、ビールの進みが遅くなる。


「……何の店なんだコレ?」


「コスプレ喫茶」


「……ハハ、初めて聞いたぞそんな店」


「好きな格好で一緒に飲むだけよ。如何わしい事はナシの健全な お み せ ♡」


「これで健全なのか……?」


「コス変更は5000円よ?」


「変更出来るのか!?」


 俺は思わず食いついてしまった。ちょっとココで一言だけ言いたい。嫁がその手のお店で働いていた事に抵抗を持つ旦那は、まあ居るだろう。だが、俺は逆に興奮するタイプだ。沢山の男の相手(変ないいまわしだが)をしてきた女性が俺の嫁になると言う事は、俺は選ばれたのだ。その事に冠しては実に誇らしく思う。「どうだ、羨ましいだろ!?」とかつての客に自慢したい。


 まぁ、俺の癖は置いといて…………変更するか(笑)



「原始人とか……いける?」


「なにその注文。普通最初はナースとかCAとかOLとかじゃないの? まあ、あるけどね……」


「あるんかーい!」


 嫁が寝室で着替えて戻ってくる。肩から掛かる1枚の布を腰で縛る見事な原始人スタイルだ。スカート?もメッチャ短い。


「おいおい、それ座ったらオパンティーノが丸見えじゃないか!?」


「お店の時は見せパンだからセーフよ」


「……今は?」


「…………にゃん♡」


 俺の〇ャートルズが氷河期を跳ね返す位に厚く噴火しそうな衝動が沸き上がる。


「健全は何処行った?」


「我が家だけの裏メニューでーす♡」


「オマンティーノか!? オマンティーノなのか!?」


「タッチは無しでお願いしまーす」


「おふっ!!」


 俺は抱き付こうとした手を払われ、仕方なくビールを飲んだ。



「ビールおかわり。それとコスチェンジ!」


「はーい♡ 何になさいますか?」


「……家庭教師で」


「はーい♡」


「あるんかーい!」



 寝室から戻ってきた嫁は赤の太縁の眼鏡に胸元が大きく開いたブラウス。下はピチピチのスカート。勿論タイツも装着済みだ!


「ぜってー如何わしいわこの店」


「おつまみ……食べるぅ?」


「お、おお……」


 普段は見ない嫁の眼鏡姿に、俺のガリ勉君が夜の一夜漬けをしそうになる。


「はい、あーん……」


 柿ピーを口に運ばれるが、俺の視線は胸元をガン見だ。男ってアホな生き物ですみませんねぇ……。


「100点取ったんだからご褒美くれよ先生!!」


「お触りはナシでーす」


「ひどびっ……!?」


 頬を叩かれしょんぼりな俺。このままでは欲望のままに我が侭にコスチェンしまくってしまうぞ!? ……あ、それが目的か!? この店は料理でもなくて健全だからこそ、消化不良だからこそ次々とコスチェンジをしてしまう仕組みになってるのか!!


「くそぉ、もう一声的なエロサイト巡りの様な罠を仕掛けよってからに……」


「ふふ、頭の良い子は好きよ?」


「コスチェンジ!!」



 結局その日、4回チェンジした。2000円で写真撮影も出来たからいっぱい撮っちゃった(笑)




 まあ、こんな事毎日やってたら20万なんかあっという間な訳で…………


「これでチャラね。これからは禁酒禁煙禁プリで宜しく!」


「はぁ!? 禁酒はまぁ分かるとして、そもそも俺タバコ吸わないし、何よりプリ〇ュア禁止って何ぞ!?」


「……にゃん♡」


「『にゃん♡』じゃない!! 禁プリだけは断固反対ストライキボイコットサボタージュ運動するぞ!!」


「ウチさぁ、プリコスあるんだけど……寄っていかない?」


「禁プリしまーす」



 禁プリ問題が解決した所で俺は買い物へと出掛ける。これからは質素な生活に逆戻りだが、まあ嫁が居るだけ幸せだ。天上のミラーボールが未だに出しっ放しなんだがコレはこのままなのか?


「じゃ、行ってくるよ」


「帰りにアイス忘れないでねー。面倒だからって最初に買って溶かしたら死刑ね?」


「お、おう……」


 俺は心の内を見透かされ不思議な気分になった。





  ──ガシャン!




「大丈夫!?」


「(´・ω・`)すまん」


 前身とバックを間違え、俺の車は塀にぶつかり見事に凹んだ。


「(#^ω^)ほぅ……」


 そして俺は役立つバイト歴が無かったため、普通に一年ほどこき使われまくった…………。

読んで頂きましてありがとうございました!

(*´д`*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白かったです☆彡 [気になる点] 焼き鳥無いの?(;'∀') [一言] >……にゃん♡ あははww(((o(*゜▽゜*)o)))
[良い点] この奥さん家の中系だけでこれなら家の外系バイトもいろいろしてそう( ̄▽ ̄)
[良い点] 奥様の魅惑のバイトスキルがすげえです。 ミラーボールのはかいりょく。 そして『にゃん♡』で幸せになっている私がいる……。
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