表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
振られて始まるモブの迷宮奇譚  作者: 田原さん
1/2

1話目

 正直、自分でもどうかしてると思う。手に持ったただの片手剣を見つめて、俺は自分のこれまでの行動を振り返る。


 冒険者。それは今全世界で脚光を浴びている新しい職業の形。15年前に突如として現れた迷宮ーーーダンジョンに挑み、その謎を解き明かし攻略する者の名前だ。


 ダンジョンにはあらゆる物が眠っているとされる。名誉、勝利、宝、オーパーツ、知恵…有りとあらゆる未知が。人は手を伸ばさずにはいられない。たとえ、危険も同じほど、いやそれ以上に眠っていたとしても。


 それらを求め、危険を物ともせず魔境の坩堝に足を踏み入れ、無事に帰ってくる。そんなヤバイ奴らがいる。そのヤバイ奴らはいつしか冒険者と呼ばれるようになった。危険を冒す者、これほど名は体を表すという言葉が似合う名前もないだろう。


 時間が経ち、冒険者を支援する冒険者ギルドが発足したり、子供たちの夢の職業ナンバーワンに冒険者が輝くようになり、世界が大きく変化した今。


 俺、境 柊一は、冒険者になってしまっていた。


 始まりは幼なじみに振られたことからだった。


 小さい頃からずっと付き合いのあった女の子で、俺の長年の片思いの相手でもあった。高校に上がり、周りでどんどんと付き合い始める男女が現れるのを見て焦った俺は、勢いのまま告白。が。


『ごめん、私もう天野君と…』


 天野君とは、俺と同じクラスメートで校内一のイケメンと噂され、しかも高校生ながらにプロの冒険者をしているという、俺とは月と鼈ほどの差がある男だった。


 そうして俺の片思いは、そのまま終わった。


 だが、意気消沈した俺に対して、運命は追撃を放ってきた。


 家の庭に、小さなダンジョンが現れたのだ。


 俺は激怒した。必ずかの邪智暴虐なる運命に抗ってやると決めた。


 そんなに冒険者が良いのか。そんなにイケメンが良いのか。だったら俺も冒険者になって、自分磨いて最強になってやるよ!


 ーーーーあと、俺の家に何生えてきてんだクソダンジョン!


 衝動のまま、俺は動き出した。高校で2度目の夏休みが始まる直前のことだった。


 勢いがあった所為かは知らないが、俺は一発で冒険者免許を取得。バイトをしてちょくちょく貯めていたなけなしの貯金を崩して剣を購入して、今、俺はダンジョンの前に立っている。


 ぼこりと頭を出す洞窟。中がどんな風になっているのかは、入ってみないとわからない。


 足が竦む。俺はここに来てやっと思い出した。冒険者になったばかりのルーキーの死亡率の高さを。


 中に入って、そのまま帰ってこれないのではないか?この家には今は俺しかいない。もしそうなったら、助けを呼んでくれる人なんて誰もいないのだ。


 やっぱり一度戻ろうか?そんな言葉がふっと頭の中に浮かんだ。その瞬間、俺はやはり衝動のままに動き、自分の頬をぶん殴っていた。


 あと一歩で足踏みし続けてきた。幼なじみのことも、勉強や趣味のことも。どうせ自分なんかじゃ、と立ち止まり、あと一歩を踏み出せずにいた。


 そうして出来上がったのは何も持たない、なんの特徴もない俺だ。そりゃ幼なじみも愛想を尽かすというものだ。そもそも、そう言う対象に見てくれてさえいなかったかもしれないが。


 ここでも足踏みするのか?ーーーーいいや、しない。絶対に。


 それに、死んだって…悲しむ奴もいないしな。自嘲の笑みを浮かべて、俺は腰に差した剣の柄を握り、歩き出す。


 ゆっくりと、ダンジョンの闇が俺を飲み込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ