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・・・・・・(18)バレンタインは大騒ぎ

 事務所を覗くと、ウィズは事務机の前の椅子に腰掛けていた。

 正面に女子事務員がひとり座って、熱心に話しかけている。

 顔を赤くして、既に仕事の話じゃないことは一目瞭然。

 いつものことながら、罪作りなヤツ。


 ウィズがもてるのは、この外見だから無理もないけど、いつもちょっと戸惑う。

 女の子達は案外秘密主義なので、マンガのシーンみたいにキャーキャー騒いで取り囲む、なんてことは、実際にはない。

 たいてい、一人二人が勇気を出してにじり寄ってきて、あとの人たちは耳ダンボになって聞いている。

 お互いにけん制しあうので、モロに観察しないように視線をはずし、チラチラ見る。

 事務所は異様な雰囲気だった。


 ベレッタ刑事も、なんとなくわかったのだろう。

 ため息混じりにあたしの肩をたたき、

 「男の趣味が悪いと苦労するぞ。

  お前さんの連れてくる男は問題児ばっかりだ。

  まあ、3人の中じゃ、こないだのマグナムくんが一番ましか」

 3人って、ウィズと、キョウと、まどか?

 いや、そのまどかは女だし。

 おまけに、あんまりマシじゃないよ。

 あと数十秒で犯罪者になるし。

 あと14秒。‥‥13‥‥12‥‥11‥‥。


 10!9!8!7!

 「ああっ!?これなに!」

 「わわわわデータがきえるっ」

 デスクのあちこちから叫び声が起こった。

 起動中のパソコンが、一斉に映画フィルムにあるようなカウントダウン数字を出し始めたのだ。

 中にはなんともないパソコンもある。

 時間差で起動するように、あたしが頼んだからだ。


 3!2!1!0!

 「ハーッピー・バレンタイン!

  きみはもう意中の彼に思いのたけを告白したかな?

  これからきみのパソコンを、5分間だけ貸してくれ!

  まずはご機嫌なラブソングから言ってみよーう!」


 イコライザーをかけたようなへんてこな声がDJ風に響き渡る。

 画面に一瞬、ミヤハシ父のアップが映った。

 画像をいじって、こっちにウィンクしているように見せている。

 たった1秒たらずの画像だ。分かるひとにしかわかるまい。

 あとは、花火やチョコレートケーキなどの映像、景色も映る。

 1分に一度だけ、ミヤハシ父の顔。

 それを5回繰り返して、パソコンは元通り動き始める。


 実は、写真と同時に、たくさんの文字が映っているのだ。

 点滅する文字。

 普通では目にとまらない速さだが、写真でも撮れば一部は写ってしまうに違いない。

 「この顔を見かけたら、よい子のみんなは逃げましょう!」

 「幼女・児童が大好きなイタズラおじさんです!」

 「おじさんはとてもエッチです!」

 「いままでたくさんの女の子がいやな思いをしてきました。」

 「トラウマになって生活が変わった子もいます」

 「今もきみのうしろにいるぞ!振り向いて石を投げよう!」


 「やったあ!」

 あたしは、周りに聞こえないように小声で歓声をあげた。

 この映像は5分間繰り返されて、そのあと永遠に消滅する。

 ただし、ウィルスに感染した時間によって、発動に時間差がある。

 今日一日、この映像がぽつぽつとオフィスのどこかで発生することになる。

 マスコミにキャッチされるのも時間の問題だろう。

 今夜の10時になると、発動は止まるようにセットされているはずだ。


 大騒ぎしていた事務員も、そのうち面白がって画面に見入るようになった。

 「バレンタインの粋な冗談のつもりかね?」

 ベレッタ刑事は首をかしげながら上着を着込んだ。

 あたし達が帰るのを見送ってくれるのだ。

 警察でこういう反応なんだから、まあ逮捕されることはないだろう。

 今頃まどかは、パソコンの前でタップダンスを踊ってる!


 あたしとウィズと母を送って出口まで来ると、ベレッタ刑事は母に挨拶した。

 それからウィズの肩を叩いた。

 「女を泣かすなよ、トカレフ」

 か、勘弁して!

 さすがのあたしもウィズの前で下ネタは恥ずかしい。


 ウィズはきょとんとしていた。

 が、勘のよさを発揮して、しばらくしてから笑い出し、

 「リボルバーにしてください」

 くすくす笑って言った。


 その笑顔をふっと収めて、ウィズは真顔で呟いた。

 「ガンさんと蝶子さんに謝らなきゃ。

  偉そうな事言って、ふたりとも救えなかったんだ。僕もまだまだだ」

 あっさり口に出した分、魔術師は滅入ってるんだろうと思った。

 「こうなること、わかってたの?」

 「西へ行かずにここに残ったら、まずいとは思ってたしそう言ったんだけどね」

 「じゃあ、ウィズのせいじゃないわ」

 「そうじゃないよ。きっと何か方法があったはずなんだ。

  もっと見えてれば、その何かも見えたかもしれないんだ」

 「でも、あたしもウィズも生きてるよ。それはスゴいことなんじゃない?」

 「記念すべき予見ハズレ第1号か」

 「回避1号って言ってよ」

 あたしが口を尖らせて抗議したので、ウィズはやっと笑った。


 街に出ると、デパートの壁でニュース・テロップが踊っていた。

 「ハッピーバレンタイン!きみのパソコンを5分間ジャック!

  バレンタインマンの正体はだれ?」

 大きな画面にミヤハシ父。

 「ねえ、この人、なんかミヤハシ先生に似てない?」

 と、母が無邪気に言った。


 「ああ、家具を買わなくちゃ」とウィズ。

 「その前にストーブでしょ?」とあたし。

 母はあたしをつっついて、

 「ずいぶんきれいな子よねえ。肌なんかすべすべじゃない、化粧してないのかしら?」

 と囁いた。

 あの、女の子じゃないんですけど。

 なんだか誤解してるらしい。おまけに、

 「母さんは、あの刑事さんが素敵だと思うわ」とのたまった。

 「母さん!離婚して性格変わったんじゃない?」

 「変わりもするわよお。これからひと花さかせるんだから!」


 すると、1歩先を歩いていたウィズが振り返って、

 「あの刑事さんも、奥さんともめてる最中だから、気長に待ったらどうですか」

 と言った。

 母が踊りあがって食いついた。

 「ほんと?いつまで?どうやってアタックしたらいいかしら?」

 こらこらこら!

 こんなとこで仕事に入らないで、ウィズ!


 あたし、もうひとつ夢ができた。

 ウィズの持ってる記憶の傷を、あたしが治してあげることだ。

 封印した秘密を、いつか聞いてあげる。

 そして、回避2号にあの予言を外すのだ。あたしがウィズを嫌いになるという予言を。

 絶対、絶対、その話を聞いたあとで、ウィズが好きって言ってやるんだから。

 

 自分を好きになって、ウィズ。

 そのあと、あたしを愛してね!



 (第1話  終わり)



ここまでお読み頂いてありがとうございます。

これで第1話が完結しました。

のっけから重めの設定だったので読みづらい部分もあったかと思います。第2話からはトラウマ、ロマンス、超能力、殺人等入り乱れて賑やかな展開になります。台詞がきわどい物が多いので、15禁指定にさせていただきました。

どうぞ引き続きお楽しみください。

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