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追放ソロ探索者俺、塔、登ります  作者: つくたん
終われ、世界
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絡むほどに息を忘れる

霜のような殺意が降りた。

剣呑な声の主など振り返らずともわかる。真鉄だ。


「真鉄さん?」


きょとんとした顔でニルスがその名を呼ぶ。

頂上候補としての期待を一身に浴びる優秀な探索者が何の用だろう。しかもそんな、殺意をたぎらせた剣呑な声音で。


「……待て、世界を壊すとは?」


真鉄の棘のような視線にシスが刺々しく問い返す。

世界を壊すとは。コウヤとその連れのことを言っているのだろうが、それはどういうことだ。


「重罪人なんだよ、彼らは」


知らないのなら教えよう。

彼は、完全帰還者でさえ仲間に引き入れ、世界の破壊をもくろむ重罪人であると。

思い込みや何かの間違い、冤罪ではない。はっきりとした道理があっての糾弾だ。


「何の証拠が……」

「証拠? あるとも。『巫女が告げた』。それで十分だろう?」


巫女が告げた言葉に嘘はない。探索者を塔の頂上に導くための存在である巫女が、探索者に虚偽を吹き込むはずがない。それは巫女としてしてはならない行為だ。

だから正しい。コウヤは世界を壊そうとしている。しかも、完全帰還者まで連れて。


「間違いないことだ。……さぁ、わかったらそこをどいてくれるかい?」


その親しげな様子から察するに、それなりに親しい仲のようだが。

だがこちらは巫女が味方する頂上候補だ。どちらに正当性があるかはわかるだろう。それとも、一時の情で世界を裏切るつもりか。

剣呑に言い放ち、刀を手にする真鉄を見、怯えのような表情でニルスがコウヤを振り返る。彼の言い分は本当なのか、と問う。コウヤは沈黙で返した。


「おうおう、ついに本当にやらかしおったのかお前」


真鉄に動じることなく、からからと笑ったのはルイスだ。

『仲間殺し』の件は好き勝手噂された結果の冤罪だったが、ついに言い逃れできないことまでしてしまったのか。


「よいよい、男というのはそれくらいやんちゃでなければな。……さて」


からからと笑っていた笑顔を引っ込め、真剣な表情でルイスが真鉄を見据える。

巫女が言った。それならばそれは真実なのだろう。だが、真相ではない。

確かに巫女は虚偽を口にしない。だが、()()()()()()()()()。真実の一部だけを口にして、事実を歪めることはありえる。

そのせいでもしこちらが何らかの誤解をしたとしても、それは受け取る側のせいであり、巫女に咎めはない。


だからきっとこれも、いくつかの事実を伏せているだけなのだろう。

コウヤが罪を犯すはずがない。真鉄はきっと、断片的な真実で誤解をしているに違いない。


「ふぅん……それが君の判断なわけだ」


だったら結構。君も同罪として殺すだけだ。

なに、切り捨てる相手が2人から3人に増えただけ。手間ではない。大丈夫。自分は『世界に選ばれた優秀な探索者』なのだから。


「っ、話し合いは不可能か……」

「ふん、わかりきったこと」


この手の輩には何を言っても無駄なのだ。思い込みが激しい人間は、一度そうと決めたらなかなか曲がらない。シス自身よくわかっている。自嘲の話だ。

向かってくるというのなら身を守るために戦おう。切れ長の目を細め、シスは真鉄を見る。


「待て、目的は俺のはずだ、4人は関係ない!」

「……言っても無駄」


いまさらコウヤが口を出しても無駄だ。真鉄の中で、自分たちはもう敵と認定されてしまったのだ。

今まで黙って成り行きを見守っていたダルシーが口を開く。もはや決定的だ。覆せない。


「ダルシー、2人を別の場所へ。妾らは後で合流しよう」

「……わかった」


行こう、とコウヤとリーゼロッテを促す。

リーゼロッテはすでに退却を決め、先の道を確保しに走り始めている。


「でも……いや、わかった、ごめん、ありがとう!」


逡巡し、しかし覚悟を決めてコウヤも走り出す。

大丈夫だ。スカベンジャーズは町での戦闘を許さない。罪があるならそれを裁くのは自分たちだと私刑を許さない。だから殺されるようなことは絶対にない。そう信じたい。


だから、どうか、これ以上何も失いませんように。


***


「1人だけ離してよかったのかい?」

「構わんさ。あいつと我らの力は相性が悪いでな」


仲間ではあるが、そこだけはどうしても折り合いが悪いのだ。

専守防衛に徹し、私刑を咎めにスカベンジャーズが来るまで時間を稼ぐ。時間はそうかかららないはずだ。すぐにやってくるだろう。その数分を稼ぐためには、ダルシーの力はあってはならないのだ。


「――樹神よ、恩寵として眷属を遣わし給え」


シスの背中の入れ墨が淡く緑に光る。それに呼応して広場の石畳がぼこりと波打つ。

たった数分。死なず、進ませず。簡単な話だ。

自分たちアレイヴ族が信仰するのは樹の力。妨害ということにおいては何ものにも劣らない。


応え、応え。万象の蔦。万障の蔓。原初の契約に従い信徒に恩寵を与え給え。

我が祈り、我らが信仰を聞き届け給え。応じて来たれ、大樹の精霊ドリアード。


「生い茂る蔦に行き道を塞がれたことは?」


石畳が割れ、露出した土から一瞬で大樹が生える。

樹神の眷属ドリアード。神の直属の眷属だ。格でいえば、この塔を管理する樹の精霊に匹敵する。


呼び覚まされたドリアードは、召喚主の意向に沿って蔦を生え伸ばす。広場を覆うように石畳を埋め尽くし、真鉄の行く手を阻む。


「切り刻む? 結構。麦踏みの徒労を経験させてやろう」


切られれば切られるほどに強度を増す万障の枝葉は絶対に傷つけられはしないのだ。

その場に押し止め、拘束するという行為において、樹は万物に勝るのだ。


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