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追放ソロ探索者俺、塔、登ります  作者: つくたん
終われ、世界
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そして君は裁かれる

真鉄という男が呼んでいる、と図書館の職員から呼び出しがあった。


「真鉄?」

「ほら、35階の」

「あー……」


誰だっけと首を傾げるリーゼロッテへ、コウヤが軽く説明する。35階、水の領域で会った彼らだ。

言われ、成程とリーゼロッテが彼らの存在を思い出す。あの時は言語崩壊を起こしていて、帰還者とばれないように隅っこにいたのであまり思い出せないが、そうか。そんなものもいた気がする。


「町まで降りてきたってことは、なんだ? 36階に行くの諦めたのか?」

「さぁ……なんだろう?」


探索続行を諦め、いったん町に戻ってくるなんて。それをしなければならないほど、自分たちに告げる用事があるのだろうか。

探索よりも優先しなければならないような用事があるとは思えないのだが。

とにかく話を聞いてみよう。これ以上図書館にいたところで話が進むわけでもない。


「リーゼロッテ、おとなしくしろよ」

「そりゃ向こうの出方次第だな」


敵意で向かってくるなら敵意で返し、好意で向かってくるなら好意で返す。

周囲の人間の感情に影響されやすい帰還者の特性でもあるが、リーゼロッテ個人の信条でもある。

真鉄とやらがどう出るかだ。対応はそれによる。


行こう、とコウヤを先頭にして応接室を出る。長い廊下を進み、図書館の受付カウンターが並ぶロビーへと出る。

あれが頂上候補だと尊敬と畏敬の目を向けられ、堂々と受けて立つ彼がコウヤたちの接近に気づいて顔を向けた。つられて周囲の目もコウヤへ向く。


「あれって……『仲間殺し』の人だっけ?」

「でもあれは冤罪なんだろ、本当は帰還者に殺されて、それで1人だけ生き残ったって」

「そいつに頂上候補が何の用事だ?」


ひそひそと囁き合うセリフが聞こえてきて、コウヤはじっと眉を寄せる。

あれは冤罪だというのに、まったく。いちいち噛み付いても無駄なので、聞こえなかったふりをして無視する。本当の下手人であるリーゼロッテは居心地悪そうに視線を逸らした。


「えぇと……それで、真鉄さん?」


何の用だろう。訊ねると、真鉄が群衆に向けていた温和な微笑みが消え、冷徹な視線がコウヤを射抜く。

許しがたい汚物を目の前にしたかのような、見下すような目だ。冷えた刃のように冷たい殺意を宿し、真鉄はゆっくりと口を開く。


「世界の破壊を目論む重罪人が。よくもとぼけられたものだね」

「っ……!?」

「……コウヤ」


吐き捨てるような口調を受け、コウヤの喉がひくりと震える。思わず硬直したコウヤをコウヤを庇うようにリーゼロッテが前に出る。

その行動で真鉄は確信に至る。やはり、()()()()()()()()()()()


「やっぱりか……何かの間違いだと信じたかったよ」

「ちょ……っ」


真鉄の発言に、コウヤたちを取り巻く周囲がざわりとどよめく。

まずい。真鉄からの敵意と害意を受けて、リーゼロッテがその影響を受けつつある。こんな人の多いところでリーゼロッテが理性を失ったら。その時何が起こるかは火を見るより明らかだ。絶対にそれは避けなければならない。


「コウヤ、話し合うだけ無駄だ」


体の奥から湧き上がるような殺意を理性で抑え、リーゼロッテが首を振る。

あちらはこちらを断罪するつもりだ。どんな事情があろうと関係なく、情状酌量の余地なく殺す気だ。

話し合い、真実をつまびらかにして誤解を解く余裕なんてない。そもそも行動だけでいえば世界を壊そうとしていることに関しては間違いない。

どうこちらが話そうとも、真実を告げようとも真鉄は絶対に聞き入れないだろう。話すだけ無駄。ならいったん逃げるべきだ。こんなところで理性を失うことはリーゼロッテだって避けたい。


「世界殺しの重罪人めが」


真鉄が手をひらめかせる。その右手に抜き身の刀が握られる。

こんなところで刃傷沙汰なんて、と図書館の職員が悲鳴とも非難ともつかない叫び声をあげた。ざわざわと周囲がどよめいていいく。


「殺戮者め、僕がこの手で断罪してくれる……!!」

「っ、逃げるぞ!」


鞘から抜いた。それを見、コウヤがリーゼロッテの手を掴んで引っ張って走り出す。

こんなところで戦闘なんて、絶対に避けなければならない。リーゼロッテはもうすでに影響を受けて臨戦態勢だ。絶対にまずい。

リーゼロッテを引っ張るようにして群衆の中に突っ込み、状況を掴みきれなくて困惑する人垣を掻き分けて人の輪から抜け出す。そのまま玄関を出て、図書館から出る。


「待て、重罪人め!!」


その背中に真鉄の鋭い叫び声がかかる。だが止まらない。止まっていられない。

下層なんて人が多いところで戦闘になってはいけない。せめて人が少ない上層、いや、リーゼロッテのことを考えたら迷宮に駆け込むべきか。


「くそ……っ!!」


迷っている時間はない。とりあえず下層よりもはるかに人が少ない上層に行って、リーゼロッテが影響される感情の数を減らす。すぐに追いついてくるだろうが、息を落ち着ける時間の猶予くらいあるはずだ。


「リーゼロッテ! 先行け!」


とにかくリーゼロッテをこの場から遠ざけること。真鉄に立ち向かってはいけない。

影から影へ渡る帰還者の能力で、先にリーゼロッテだけでも上層へと向かわせる。まずは不特定多数の有象無象の人間から引き離さないと、良くない方向に転がってしまう。


「31階、西の広場!」

「了解。追いつかれんじゃねぇぞ!」


片手を挙げ、リーゼロッテが暗い路地へと身を躍らせる。影が色濃く落ちるその闇の中へ飛び込んで、影から影へと渡っていく。

リーゼロッテの気配が遠ざかるのを感じつつ、真鉄がぴったりと追いかけているのを察知しつつ、コウヤもまた走る。行く先は1階中央広場にある転移装置だ。2階の町、11階の町、31階の町にそれぞれつながっている。交通の要所だ。


雑踏を縫い、走る。人が多い大通りを駆けていく。行き交う人が何だと振返る中を疾走する。

あれは以前『仲間殺し』と噂された男じゃないかと呟く言葉を無視してさらに前へ。

その後ろを真鉄が追う。頂上候補だ、探索者の憧れだと称賛する声を振り切って、コウヤの足取りを追って疾駆する。世界殺しの重罪人めと罵りながら。


雑踏の人々の口から出る言葉が『仲間殺し』が『世界殺し』に塗り替わっていく。あの頂上候補が言うのなら、と理由も根拠も知らないまま、知ろうともしないまま。


あぁ、あの男は仲間だけでなく世界も殺そうというのか。

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