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追放ソロ探索者俺、塔、登ります  作者: つくたん
それでも俺はやってない
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他人の不幸は蜜の味

「いらっしゃーい!」

「いらっしゃーい!」


双子の揃った声がコウヤを出迎えた。双子の名前はジョーヤ・マリーニャ。男の方がジョーヤ、女の方がマリーニャだ。

まるではしゃぐ子供のような口調の2人は背格好も子供のようだ。だがこれでもれっきとした成人である。


彼らはヒトではなく、スルタン族という亜人だ。知識を尊ぶ種族である彼らは様々なものに精通している。その知識でもって物品の鑑定と買取をしているのがこの双子だ。ちなみにジョーヤ・マリーニャというのは偽名であるという。

この知識もこの世界に召喚された時に刷り込まれた後付けの知識だ。この世界にはヒト以外に何種類かの亜人と呼ばれるヒトならざるヒトがいる。


「ジョーヤ・マリーニャのお店にようこそ!」

「何を鑑定するのかな? 何を売るのかな?」


おもちゃをねだる子供のようにカウンターから身を乗り出してくる。

これでコウヤの倍ほど生きているのだから、まったく信じられない。他のスルタン族はこれほど騒がしくないというのに。

苦笑しつつ、先程の迷宮探索で得たエレメンタルの破片を鑑定皿に載せていく。


「純結晶が4つ、あとは普通の破片が……20くらいか?」

「はいはーい! 鑑定するね!」

「純結晶だ! 品質のチェックをかけるぞぅ!」


濃い魔力が物質化した結晶から生まれたものがエレメンタルだ。

そのエレメンタルを倒して得る結晶片は物質化した魔力の塊である。純度が高いほど透き通り、属性の力が強くなる。

エレメンタルが残した結晶のうち、ひときわ強く輝くものを純結晶と呼ぶ。純度が高ければ高いほど高額で売れる。


「えーと純度が40%……属性が風…………」

「雷の純結晶は今品薄だからね、そこでおまけして……っと……」


双子が算盤をはじく。結晶片1つずつの値段を伝票に書き記し、最後の行に合計金額を書き込む。

ジョーヤ・マリーニャが鑑定したことを示す印章を捺印してからコウヤに返す。

伝票を受け取り、買取額を順に見ていく。合計金額を見、疑問を口にする。


「……やたら高くないか?」


これほどの値段とは。

コウヤだって探索者生活は長い。その過程で多少の目利きはできるようになった。

得た結晶片の質と量からいって、この値段はあまりにも高すぎる。品薄による需要増で買取額が上がっているということを鑑みてもだ。


「商人のちょっとした事情さ。詐欺でも何でもなく、この買取額だよ!」

「探索者には関係のないことさ! さ、売るのかい、それともやめておくかい?」

「売る! 売るよ!」


これが詐欺でも何でもなく正規の買取額だというなら売る。

向こう1ヶ月は遊んで暮らせる額なんて、売らない理由がない。

商人の事情というのはよくわからないが、品物の流通調整や買い占めや転売の対策によるものだろう。


「はぁい、ありがとう!」

「まいどあり~!」


***


さて、とんでもない買取額となったわけだが。

ずっしりと重い財布を武具の鞄の中に放り、これからの予定について思考をめぐらせる。


サイハとの約束では、報酬のみ半分ずつ分け合い、魔物から取得した素材類はすべてコウヤが取るという内容だった。

しかしこれだけ高く買い取ってもらったとなると、この金額をまるっと自分のものにするには気が引ける。

あれだけ助けてもらったのだから、この財布の中身も半分ずつ分け合わなくては公平に欠ける。

そもそも、サイハには満足な礼を言えてもいないのだ。彼女は半金を受け取るなりさっさとどこかへ行ってしまった。


「……よし」


しばらくの目標はサイハを探して礼を言うことにしよう。

もちろん自分の無罪の証明も大事だが、大目標の前の小目標ということで。


そうと決まればサイハを探そう。

コウヤにそうしたように、これまでにも誰かと行動を共にしたことがあるはずだ。

そうでなくとも、あれだけ腕が立つ探索者だ。きっと誰かしら知っているだろう。

下層は有象無象が過ぎるし、上層の探索者なら何かしら情報を知っているかもしれない。


そう思い立ち、町の中央にある転移装置へと足を向ける。

この転移装置は、触れた者が行ったことのある町へと転送してくれる機能を持つ。

迷宮内に転送することは不可能だが、1階、2階、11階、31階のそれぞれの町へと自由に行き来することができる。


その転移装置を用いて31階へ。転移魔法特有の足元の消失感がして、着地の感覚がすれば31階だ。

新米からベテランまで行き来する1階と比べ、上層の31階の町は物々しい雰囲気だ。ここまでたどり着いた歴戦の勇士のみが滞在しているのだから当然である。


さて、情報をどこで集めるかだ。

まずは一番の心当たりからいくとしよう。1階の町に比べて飾り気のない大通りを歩いて目的地へと歩いていく。

上層は気が楽だ。コウヤのあらぬ噂について、それを口にする者はほとんどいない。

信じていないというより、どうだっていいのだ。今までとは比較にならない困難が待ち受ける上層の探索に挑むのに、そんな噂話などノイズにすぎない。

自分たちの攻略の邪魔になって初めてその噂を検証するだろう。悪く言えば、『自分たちに関係ないから勝手にやっていろ』だ。


むしろ彼らが注目しているのは、コウヤが単独で中層を踏破したということだ。

その知識と実力への素直な称賛ゆえにコウヤを見る。それはそこそこ心地良いものではあるのだが、やはり注目されることには慣れない。足早に目的地までの道を歩く。



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