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追放ソロ探索者俺、塔、登ります  作者: つくたん
神の領域に触れる
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樹の領域、『あなたありき』の植え替え

邪魔者はここで殺さなければならない。その敵愾心は誰のものか。


リーゼロッテではない。あれは破壊衝動に苛烈さが伝染しただけで、伝染元は別にいる。

もちろんコウヤでもない。道を阻む精霊に対し邪魔だとは思うし障害を除去したいとは思うが、相手を殺すほどの過激な殺意は抱いていない。

今来たばかりのネツァーラグでもない。では誰か。


そもそも、何に対しての邪魔者か。誰にとっての不都合だ。

誰が何を不都合だと判じているのか。どういう理由でだ。


絶対に滅ぼされることのない者同士の、過激さを増していくだけの戦い。

それこそが狙いとネツァーラグは言っていた。誰の狙いだ。


ひとつひとつ解いていけば、おのずと答えがわかる。


「……まさか」

「そう。本当の目的は、君さ」


ここでコウヤを殺す。それこそが樹の精霊の目的だ。

だが精霊という世界を維持するシステムの一部として、ファウンデーションに手を出すことはルールに抵触する。自分たちが書いた筋書きをこなすために選んだ主人公(ファウンデーション)なのに、自分の手で摘み取っては本末転倒だ。

それをしてしまったら、樹の精霊は他の精霊たちに責められてしまうだろう。咎がある者の浄罪がどんなものであるかは精霊自身知っているだろう。

だから誰かに殺させる。仕方のない事故だったと言い訳できるように。戦いがヒートアップしてしまったはずみでつい、と事故を主張できるように。


どさくさに紛れてリーゼロッテにコウヤを殺させる。

そのためにリーゼロッテを煽り、殺意に薪をくべている。それはなぜか。コウヤの存在が不都合だからだ。


リーゼロッテにより、コウヤはこの世界が『ろくでもない』と吹き込まれている。世界に対して不信感を持ってしまっている。

放っておけばいずれ思い通りにならなくなるかもしれない。世界の真実を知った結果、世界を否定するかもしれない。その可能性はとても高いだろう。

扱いづらいことこの上ない。だから排除する。レールを外れるかもしれないのなら、レールを外れる前に交換する。67代目ファウンデーションを切り捨て、68代目に移行する。

まだ68代目となる真鉄という男は自らの役割も知らなければ世界の真実もそう知らない。巫女を使い、世界に選ばれた者と選民意識を開花させれば簡単に手のひらで転がってくれるだろう。


邪魔な枝が生えれば剪定する。しかし根っこからだめになってしまっているのならどうするか。簡単だ。植え替えるのだ。

それと同じ話だ。剪定しても矯正できないのなら、排除しかない。


おそらくこれは樹の精霊たちだけの独断だろう。

他の精霊たちとしては、コウヤがどうするかについては真実を知った後で扱いを決めようとしていたはず。

役割を自覚して筋書きに沿ってくれるならそれでよし。破壊者とは手を切るか、適当に手綱を取ってくれればいい。それで世界と対立するというのなら、その時は68代目にファウンデーション(主人公)を交代する。

樹の精霊はそれが待てなかったのだ。不穏な芽を先に摘もうとした。少しでも可能性があるなら刈り取るべきだと先走ったのだろう。


「そんな……」


それなら、戦っている場合ではない。リーゼロッテを止めなければ。

だがあれにどうやって割り込もう。声をかけたところで聞き届きそうもないし、実力行使に出ようにも相手は理性が飛んだ破壊者だ。


「止められるのは君次第さ。どうするんだい?」

「そうだ。えぇと、ネツァーラグの……」


ネージュという名前の氷の精霊がいたはずだ。

助けを求めるようにネツァーラグを振り返れば、彼の肩に腰掛けるようにして青白い肌の精霊が微笑む。


「ザンネン。ワタシジャドウニモナラナイワ」


ここは樹の領域。樹の力が強すぎる。そこでたかが氷の精霊ひとりが振るえる力など、ただの冷風くらいだろう。精霊郷でそうしたように、万物を凍結させる力はない。

ごめんなさい。ゆるりと首を振った。


「早くするといい。僕も引っ張られないとは限らないよ?」


自分と同質のものがあれほど苛烈に過激に殺意に染まっている。長く居続ければ、誘われてこんなところに出てきてしまっただけでは済まなくなる。

なにせ塔の守護者の地位と権能を与えられている。使いようによっては、精霊も破壊者も上回る強権だ。エラーと判じたものすべてを無条件に消去する力で、この場を一方的に断罪することだって可能なのだ。


「さぁどうする? 主人公(ファウンデーション)?」


***


僕は、ルッカだ。

頂上に至る可能性のある者。世界の有力者。


だというのに、どうしてこんなところで足止めさせられているのだろう。

水面に問うても答えはなく、ただ、立ち止まるように囁いてくるだけだ。


僕には何が足りないんだ。火の神の眷属は僕に何を要求しているのだ。

不足はないはずだ。力も知恵も兼ね備えている。この世界に住む人間すべてと順番に戦ったとして、最後に残る自信がある。


僕に与えられた武具は"徒桜"。何の変哲もない、切れ味が劣化しないだけの刀。

だがそのシンプルさゆえに、それを突き詰めれば何にも負けない。もっとも単純だからこそ、もっとも強い。

余計な機能などない。余分な特殊能力もない。一点だけを研ぎ澄ました撃滅の刃。


僕には何が足りないのだろう。


「……あぁ」


発想を逆転させてみたら答えはすぐに出た。なんだ、答えはすぐそこにあったじゃないか。最初から"徒桜"が示してくれていた。

()()()()()()


「トトラ、シシリー」

「うん?」

「なに?」


火の神の眷属が提示した答えを理解したよ。そう微笑んだ。

答えはいたってシンプルだった。僕たちは難しく考えすぎていたのだ。


「本当か? さすが冴えてるな」

「それで、答えって?」

「それはね」


君たちの犠牲の上に僕が願いを掴もう。


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