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追放ソロ探索者俺、塔、登ります  作者: つくたん
それでも俺はやってない
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彼女が言っていた必要なものとは何だったのだろう

あっという間に依頼は終わった。

サイハの持つ"歩み始める者"には複数の能力がある。そのうちのひとつ"放浪者による騎行"は本体である銀のカードに地図を表示する力がある。目的地を定めれば、そこまでの道案内だってしてくれる。

それにより、必要な調査はあっという間に終わった。


どこに何があるかも、その地図はしっかりと記録して表示する。

だから依頼主から渡された地図への書き込みも調査というよりはただの確認作業になってしまった。

万が一違っていたら困るのでわざわざ現地に行ったが、地図に書かれたものがそこにあるだけだった。


「C-1地点にカロントベリー……と……よし、これで最後の地点の調査終わり!」


サンプルに黄色く変色して枯れた葉と赤く熟れた実を採取し、保存容器にしまう。

これも地図のついでに依頼主に渡すことにしている。サンプルの採取は依頼の内容には含まれないが、これをやると報酬をはずんでくれるのだ。


「ありがとう、助かったよ」

「どういたしまして」


本当に頼りになった。地図の表示だけの話ではない。戦闘面でもだ。

サイハの支援と妨害は的確で、コウヤは攻撃のみに集中することができた。

単独で中層を攻略していた時のような、相手の動きに気を払って攻撃を阻害して自分に自分で支援魔法をかけ、四方八方から飛んでくる攻撃を防御しつつ攻撃するだなんてことをしなくてもよかった。

久しぶりに攻撃役(アタッカー)という役割に専念できた。


「あの、もしよかったらさ」

「これからも一緒にパーティを組もう?」


コウヤが言い切るよりも前にサイハが言い当てる、

まさに言おうとしていたことをぴたりと当てられ、う、と呻く。図星だ。


「ごめんなさい、どこのパーティにも入らないって決めてるの」


こうして誰かと一時的に組むことはあるが、はっきりと所属を決めることはしない。

それはサイハが記憶喪失だからだ。記憶の手がかりを探すため、誰とも平等に接することをポリシーとしている。

どこかのパーティに入り、特定の誰かに肩入れすることになれば人間関係は限定化されてしまう。


「あいつのパーティに入ってるお前になんか情報は渡さない、なんて言われたら困っちゃうでしょう?」


だから一時的な協力を除き、誰かとパーティを組むことは絶対にしない。

コウヤの申し出は嬉しいが受け取れない。ゆるりとサイハは首を振った。


「さ、調査が終わったならさっさと帰りましょう。迷宮に長くいるものじゃないわ」


探索者による帰還。サイハが呟く。サイハの手の中のカードが輝き、不意にコウヤの足元に消失感。

落とし穴から落ちたような錯覚に思わず目を閉じ、目を開くと、目の前には依頼主の家。


どうやら転移魔法を発動させて4階から町まで転移させてくれたらしい。

まったく、どれだけ万能なんだか。舌を巻く思いだ。


「転移魔法まで持ってるのかよ」

「色々使いでがあるから」


支援と妨害に長ける代わりに攻撃能力は一切ない。そういうふうになるように能力を作り出した。

そう言い、サイハは依頼主の家の扉を叩く。いつまでも人様の家の前で突っ立っているものじゃない。

中から応じる声がして扉を開ける。


「おう、早かったなぁ」


迷宮内と町の時間の経過は違う。迷宮内で何日間過ごしていても、町に戻ればたった数時間しか経過していなかったということもありえるくらい時間の流れが違う。

その間隔は一定ではなく不定だ。迷宮内の1日が町の1時間である時もあれば、迷宮内の1日が町の半日になることもある。

そんな狂った時間経過を考慮しても早い。それともまた迷宮内と町の時間経過の差異が変わったのか。そんなことを呟きつつ、依頼主の青年はコウヤから地図を受け取る。


「ふんふん……期待より詳しいな、感謝する」

「ついでにほら、サンプル」

「お、ありがたい」


これは報酬をはずんでやらねば。青年は家の中に引き返し、机の引き出しから金貨袋を取り出す。

あの引き出しも単なる引き出しではなく武具で、持ち主である青年のみがアクセスできる金庫へとつながっている。


「基本報酬は30ルーギ……に、おまけで合計50ルーギでどうだ?」

「オーケー、それで」


報酬はサイハと半々だ。半分になることを考えても十分だ。

おおよそ1食ぶんの食事代で1ルーギ、宿代が飯なし1泊2ルーギ。5ルーギあれば1日が過ごせる。

そんな物価の中で50ルーギの報酬。サイハと分け合って25ルーギ。5日は働かず暮らせるし、節約しつつ質素に過ごせば7日はもつ。

報酬としては十分すぎるくらいだ。おまけに、エレメンタルの破片を売ればさらなる収入だ。


「ほら、半金」

「ありがとう。……じゃぁ、私はこれで。必要なものはもう十分だし」

「え……? あ! ちょっと!?」


25ルーギが入った布袋を受け取るなり、サイハが踵を返す。

コウヤが呼び止めるのも無視して雑踏の中へと消えていく。追いかけるのは不可能だ。


お疲れ様だとかありがとうとか、そういう解散の言葉を言う前に行ってしまった。

はぁ、と息を吐く。縁があればまたどこかで会えるだろう。その時に礼を言えばいい。


「じゃぁ、チェイニーさん、また」

「おう、植生調査の依頼はいつでも頼みたいくらいだからな。また来てくれ」


手を振り、コウヤもまた雑踏に踏み込む。次の目的地は魔物の素材を買い取ってくれる店だ。

植生調査の報酬でずいぶん懐が温まったが、売れるものは売って金を手にしておきたい。


「あれって仲間殺しの男じゃない?」

「やめなよ、指差したら今度はアタシらが殺されちゃうかもよ」


そんなあらぬ噂から逃げるように、大通りを曲がって路地に入った。


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