表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放ソロ探索者俺、塔、登ります  作者: つくたん
神の領域に触れる
59/77

土の領域、精霊の織りなす台本

「そういうリーゼロッテは何だったんだ?」


今の願いではなく、昔の。探索者としてこの世界に召喚されてきた直後の願いだ。

リーゼロッテの言う『この世界は敗者復活戦だ』という言葉の意味はまだよくわからない。

だが、言っていることを噛み砕くに、それなりに強い願いがなければこの世界に召喚されはしないということだ。

だったら、それはどんなものだったのだろうか。


「あー、アタシ? 対象以外は変わりゃしねぇよ」

「変わらない?」

「世界を壊したい。……ま、物理的破壊じゃなかったけどさ」


リーゼロッテが元いた世界もまた、荒廃しきった世界だった。

新しいものを生み出すことなく今ある資源を消費し続け、そしてその在庫が尽き始めた時代だ。

残り少ない資源を奪い合う荒廃と退廃のるつぼだった。今更それを変革する体力も気力も、誰も持っていなかった。

誰かが声をあげねばならなかったのに、誰も声をあげぬままに行き止まりまできてしまった。


「だから壊したい。壊したかった」


退廃して発展のない世界をどうにかしたい。行き詰まってしまった世界を動かしたい。風穴を開けて風通しをよくしたい。そういう意味での破壊だ。


変革を望むなら、既存を壊すのが手っ取り早い。堰を壊せば水が流れるように。

流れた先が海だろうが滝壺だろうが、そんなことはリーゼロッテにはわからないし関知しない。

とにかく世界が動けばいい。転がった先が崖でも、転落することを受け入れよう。


それを願ってこの世界に召喚された。そして今は、この世界を破壊することを願っている。

対象が違うだけで、結局は変革のための破壊を望んでいる。


「対象が変わったのは……まぁ、この世界が敗者復活戦だから、だな」


元の世界に戻れないことを悟った。だから戻れない場所を振り返ることをやめて前を見ることにした。

この場所で、この世界で生きていく。そうすることを決め、そして願いが変わった。


「あの頃は夢も希望もあったんだがなぁ……アタシも皆も」

「パーティの仲間?」

「そ」


その中にはサイハも含まれる。あと2人いる仲間もだ。

あの時は若々しくも夢も希望にあふれ、探究心と好奇心で進んでいた。

顔も名前も知らないどころか元いた世界すら違う人間同士が行動することへの不安もあったが、そこで衝突することはなく、互いに互いを尊重していた。


「俺さぁ、そのあたり全然知らないんだよな」

「そのあたり?」

「リーゼロッテが探索者だった時のこと」


あぁ、と納得したように頷く。たしかにそのあたりの話はしていなかった。

コウヤが昔を懐古したことに引きずられて、リーゼロッテもまた昔日を想う。伝染した懐古の感情はいつかあった日のことを鮮明に思い出させてくれる。


「リーゼロッテとサイハと……あと2人、いたんだろ?」


聞けば、片方は前任の塔の巫女だという。いったいどういう人物だったのだろう。

言い換えれば、リーゼロッテたちはどういう旅路を進んできたのだろう。


「片方は前任の巫女で……もう片方は、今で言うファウンデーションだな」

「へぇ」

「アタシん時の箱庭のテーマが『巫女の浄罪』だったのさ」

「罪?」


罪、とは。殺人や強盗といった犯罪の話ではないだろう。そんなもので箱庭を構築するほど、精霊も暇ではない。

罪とは道徳的な罪だ。だとすれば、どのような違反を起こしたのだろう。


「アイツは……フォルは、役目を外れてシステムに逆らった」


巫女の役目は探索者を頂上に至るまでを導き、そして至った到達者を殺害することで魂を肉体から解放することだ。殺害というと悪く聞こえるが、到達者がその褒賞を得るために必要なプロセスである。肉体から解放されて初めて思うままに願いを叶えられる。

彼女は探索者に長く接触しているうちに感情移入してしまい、探索者がたどる運命を嘆いた。感情を殺して役目を果たさなければならなかったのに、彼女は感情を殺せずに役目を放棄した。それが必要なことであっても、殺すことはできないと叫び、世界に異を唱えた。

だから精霊によって彼女の浄罪のための箱庭が作られた。彼女は巫女としての権能と記憶を奪われ、ただの少女となった。


「感情を殺して役割に徹することをためらった、だから人間を殺すことで浄罪とした」


愛着がわいて殺せない。だったら、感情を殺して到達者を手にかけろ。それでもって浄罪とする。

だが殺すには相手が必要だ。殺される役の人間が。そのために用意された駒がリーゼロッテとサイハと、そしてもう1人の男だった。その男が今で言うファウンデーションだ。


「あなたありき。あの『週』では、ファウンデーションってのは殺される役のことだった」


自分たちの役割は最初から殺されるためだったのだ。頂上に到達できたのは、浄罪のシナリオのための副産物でしかない。

頂上に至った到達者を殺害しなければ、魂は肉体から解放されずにこの世界に留まり続ける。何でも願いが叶うという褒賞を受け取ることができない。それはこの世界の重要なエラーだ。

だからエラーを修正するために、完遂することが求められた。罪を自覚し、それでも従順に役割をこなせと。到達者の魂を肉体から解放し、褒賞を得させよと。

それができるまで、()()()()()()()()()()。行き詰まれば『全消去』し、完遂できるまで。何度も。ファウンデーション(殺される役)を変えて。


「ろくでもねぇだろ?」


精霊が望む結末になるまで、何度でも台本をやり直し続ける。

頂上に至ればどんな願いも叶えられるということは目的ではない。駒がシナリオをたどりやすくするための餌だ。

『今週』だってそう。『ひとりの探索者が頂上に至る』という台本のためのものだ。願いを叶えるというのも、苦難を乗り越え頂上に至ったということへの褒賞ではない。


「面白いシナリオを見せてくれてありがとう、とか……思い通りの結末になってくれてごくろうさま、とか、そういう意味なんだよ」


ちゃんと働いてくれたので、まぁ望みのひとつでも叶えてやるか。それくらいの気持ちだ。

真摯に願いを聞き届け、叶えるなんてつもりはない。


そうであったら、リーゼロッテだってサイハだってここにはいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ