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追放ソロ探索者俺、塔、登ります  作者: つくたん
それでも俺はやってない
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俺は名前を教えただろうかと彼は首を傾げた

この世界は塔のみが存在する。故に、人が住む場所も塔の中に作られる。

塔という建物の中だということを忘れるほどに天井と壁が遠い。石の壁という無粋なものを見ないようにという配慮からか、外周には目隠しのように樹木が配されている。

遠目でよく見えないが、建材用の木か果樹だろう。上を見て、石の天井でようやくここが室内だということを思い出す。


そこにぎっしりと家が積み重なっている。建材は塔そのものと同じ石でできている。ブロック状に切り出された石を積んで四角い家を作り、それを重ねて集合住宅にする。雨が降るわけでもないので窓は布のカーテンだけだ。


そして家々の隙間に網目のように石畳の道があり、殺風景な石を飾るために植木鉢や飾り布が提げられている。

広めの道と道が交差するところには井戸や湧き水があり、生活用水はそこから汲み出す。

生活排水や汚水は側溝に流され上水と混じることはない。


このように整備された町が下層の1階、2階、中層の11階。上層の31階、それぞれに存在する。

その町同士は転移装置でつながっている。途中階を往復せずとも、使用者が到達したことがあるなら自在に行き来ができるようになっているのだ。


その転移装置を用いて1階へ。

1階の町は人が多くて活気がある。異世界から召喚された者はまずここにたどり着く。新米探索者からベテランの探索者まで、そしてそれらが利用する施設と運営するための人員。彼らの生活を支える町人。

雑多に人が混じり合い、いつだって喧騒に満ちている。


「クエストの依頼主はここの探索者編成所の近くの……あぁ、あった!」


探索者編成所と書かれた施設の中には巨大な掲示板があり、依頼が書かれた張り紙が貼られている。

依頼内容と依頼主を覚えたら実際に依頼を達成して依頼主の元に行って報酬を受け取る。

誰が何を受けるという申請は必要ない。事前申請が必要なものもあるが、基本的には申請なしでいい。


その編成所から通りを挟んで5軒隣。古びた石組みの家に依頼主がいる。

渡すものがあるので、依頼を実行しに行く前に家に寄ってくれと張り紙に書かれていたのでやってきたのだ。

お邪魔します、とドアをノックしてから家に入る。埃のにおいがコウヤの鼻をくすぐって、思わずくしゃみが飛び出した。


「おう、お前らが依頼を受けてくれたやつらだな?」


家中に積み上げられた本の山の中央、机に座っていた飛行帽の青年が顔を上げた。

机の上に積まれた紙の束から一枚取って、そして席を立ってコウヤの前まで歩いてくる。


「この地図に情報を書き込んでくれ。ある程度書き込んだら戻ってきてくれ。それから報酬を払う」


青年が依頼し、コウヤが受注したのは迷宮内の植生調査だ。

迷宮は誰が管理しているものでもないので植物は自然のままに生えたり枯れたりして位置が変わる。そのため定期的な調査が必要なのだ。

迷宮内にどのような植物が生え、水が流れ、石壁ではない岩が露出しているか。それらを地図に書き込んでいくのが依頼の内容だ。


コウヤの担当は下層部分の調査だ。

上層に至ったコウヤが今更初心者向けの下層など行く必要がないのだが、依頼主の彼は金払いがいいのでこまめに引き受けている。

死ぬ危険も低く、楽で報酬がいい。しかもいつだって発注されている。収入に困った時のあてのひとつだ。


「んじゃ、4階を……うん?」


よろしく、と言いかけたところでふと彼の目がサイハに止まる。

サイハを見る彼は怪訝そうに眉を寄せた。


「どっかで会ったことがあるか? ……職業柄会ったヤツの顔は忘れないんだが……」


見たものは一瞬で完璧に記憶できるほど記憶力は良い方だ。それに加えて職業柄もある。

会った人間の顔と名前は絶対に覚えているし、いつ、どこでどのような会話をしたのかも一字一句記憶できる。

だが、彼女の顔は『見覚えがある』。本来なら絶対にありえないことだ。

どこかで会っただろうか。往来ですれ違った雑踏のすべての顔を覚えられる記憶力なのに、彼女のことはさっぱりだ。

いつか、どこかで会った気がするという曖昧な概念が頭の中にある。


「あら? ナンパ?」


どこかで会ったような、だなんて、ナンパにしてはずいぶんと下手な誘いだ。

青年の疑問を茶化してサイハは笑う。


「初対面よ。あなたのことなんて知らないわ、チェイニー」

「うん? ……まぁいいか……」


ともかくこれで依頼の下準備は終わりだ。あとはコウヤとサイハが実際に調査をするだけ。

話を切り上げ、青年は地図をコウヤに渡す。

最後に怪訝そうな視線をサイハに向けて、玄関扉を閉める。


「じゃ、行くか」

「えぇ」


1階の各所には2階の町に上がるための階段が据えられている。

そこから2階に上がれば、その最北端に上階への階段がある。

門番が立っている階段を上がれば3階。そこからは迷宮だ。11階の中層の町まで、全8階の迷宮が行く手を阻む。


それまでの道中を歩きつつ、そうだ、とコウヤがふと思い出す。


「サイハ、お前の役割って?」


パーティの基本は4人だ。盾役(ディフェンダー)攻撃役(アタッカー)補助役(バッファー)妨害役(デバッファー)の4人の構成を基本とする。

絶対というわけでもないので補助役を抜いてそのぶん攻撃役を増やしたりするが、一番無難な構成はそれだ。

そして人数は4人以下が絶対。1人でも2人でも3人でも4人でもいいが、5人以上は認められない。5人以上でパーティを組むと、必ず5人目が何らかの理由で死ぬ。


パーティを追放される前、コウヤはそのうちの攻撃役を担っていた。

追放されてからは自分で何でもできるように装備を工夫してオールラウンダーとなったのだが。


さて、サイハはいったいどの役割なのだろう。

問えば、妨害と補助を兼ねたサポーターだという答えが返ってきた。


「能力上、どっちでもいけるわ」

「じゃぁ背中は任せていいんだな?」

「えぇ。任せてくれるなら。……さて、3階への階段よ」



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