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追放ソロ探索者俺、塔、登ります  作者: つくたん
走り出す、世界
33/77

帰ってきたよ、完全に

落脚亭。その一角でコウヤはセレット一行に囲まれていた。


コウヤへかけられた『仲間殺し』のあらぬ噂は、決定的な証拠の登場により打ち止めになった。

そもそも話題に飢えた野次馬たちが好き勝手に噂していただけで、新たな話題が登場すれば塗り替えられる。

昨日まで白い目で見ていたことなど忘れて、次の話題に移っていく。世間とはそういうものだ。


そして今、世間は新しい話題に移っている。

『町に現れない』という原則を破って出現した帰還者と、それを難なくいなした謎の女の存在。

世間はその話題でもちきりだ。あれは何だ、これは何だと憶測が憶測を呼んでいる。


そんな憶測だらけの噂話などよそに置いて、コウヤはジョラスたちにだけ事実を伝えることにした。

ネキアの秘密を教えてくれた礼だ。こうしなければフェアじゃない。

仲間殺しの犯人は破壊者と呼ばれる帰還者であり、そして探し人の女は塔の巫女だったと。

それ以外の話は省いて、それだけを教える。


「コウヤの探し人が巫女とはなぁ」


破壊者と名付けられた帰還者の存在も恐ろしいが、そちらの方の驚きが勝つ。

巫女とは驚きだ。にやにやとジョラスは肘でコウヤをつつく。


「惚れた女がそんなものとは難儀だなぁ」

「惚れてないって!」


そういうのではないのだ。断じて。

すぐに男女の関係を疑ってくるのだから困る。

ただ色々と助けられたからその礼をしなければと思っていただけで、性別は関係ない。

コウヤがそう主張すればするほど、ジョラスのしたり顔は深くなっていく。


「我が父ながらなぁ」

「枯れたおっさんにはそれくらいしか楽しみがないんだろ」

「あれよね、やたら見合いをセッティングしてくる近所のおばさんと同じ匂いを感じるわ」


ネキア、セレット、エメットが顔を見合わせて苦笑を交わす。

年頃が同じということもあって、一時期はセレットとエメットもその被害にあったものだ。元の世界で異母兄妹であったとわかってからはとんと消えた話だが。


「まぁでも、ブレシックからスペンシーベルトへ、とはならなくてよかったじゃないか」


ジョラスたちがいた世界の恋歌だ。

世界中どこを探してもお前以上のいい女はいないという内容の歌詞である。

その歌のように、この世界を探し回ることがなくてよかったではないか。

セレットの横槍に、そうだな、と頷く。


運良くあそこでばったり出会えることができたからよかった。

そうでなければ、まさに恋歌の通りに世界中を探し回っていたかもしれない。


そう、運が良かった。思えばあの時もだ。

あの時もコウヤだけが破壊者に殺されなかった。破壊者はコウヤを一瞥しただけで、何もしなかった。

そのせいで変な噂が生まれてしまったわけだが、死ぬよりはマシだ。


いや、違う。『運良く』死ななかったのではない。

あれはまるで、コウヤを殺すことを避けていたかのようではなかったか。


「おーっと、いたいた。探したさぁ。探してもねぇけど」

「どっちだよ。……何の用だよ」


一言のうちに矛盾した台詞にツッコミを入れつつ顔を上げれば、そこには黒衣が立っていた。

探したとは、おそらくスカベンジャーズの権能でだろう。地道に歩き回って探したわけではない。


「……スカベンジャーズがなんでコウヤに話しかけんだよ」

「まさかなんか犯罪でも犯した?」

「してねぇよ!」


スカベンジャーズは塔の掃除屋だ。迷宮内で出た死体の処理から遺品整理といった死に関わることだけでなく、町で出た廃棄物の処理もするし犯罪も取り締まる。色んな意味で『掃除』をするのだ。

真っ当に生きていればまず関わることのない相手だ。スカベンジャーズが声をかけてくることなど、迷宮内で身内が亡くなったことの連絡と遺品譲渡だとか、それこそ犯罪人の逮捕くらいだ。


警戒するセレットとエメットにコウヤは首を振る。

黒衣とはスカベンジャーズの『掃除』外での関わりがあるのだ。コウヤが悪いことをしたわけではない。


「そーゆーコト。ちょいっと借りてくさぁ」

「は?」

「人前じゃできねぇハナシなんさぁ。悪いけど、連れてくさ」


ちょいちょいと指で手招きされる。ついてこいと促され、コウヤは素直にそれに従う。

スカベンジャーズが一般人に声をかけるということは滅多にない。『掃除』の対象でもない限り関わらない。それを破って声をかけてきたのだからそれなりの用事なのだろう。しかもそれがセレットたちの前ではできない話ならなおさら。


***


「で、用事って?」

「結論から言うさぁ。……破壊者が完全帰還者になった」

「は?」


突拍子もないことに思わず聞き返してしまう。

だが答えは変わらない。破壊者が完全帰還者と成ったのだ。


「破壊者って大層な名前つけられてたが、アレはあくまで帰還者だ」


世界の終末装置とうたわれるほどに圧倒的な攻撃能力を持ってはいたが、あくまで帰還者の範疇だった。

たった1人分の強い思いだけで構成された感情の影。確固としているが、希薄で曖昧。矛盾しているがそんなものだった。


スカベンジャーズはその仕事内容ゆえに、帰還者に出会うことも少なくはない。

死体の埋葬と処理をしているのだ。死者の死に際の感情の影に出くわすのは当然。

だからこそ、自衛のために帰還者への対抗策を持っている。スカベンジャーズの権能のひとつだ。

言ってしまえば、どんなに強かろうとも帰還者であるならどうにかできる。


だが、完全帰還者と成ってしまったのなら。

その存在としての強度は帰還者とは比べ物にならない。

()()()()()()()()()()()()。だが、完全帰還者はどうにもできない。

だからこその完全。対処不可能。対策不能。()()()()()()()()()()()


「つまり、化け物がより化け物にランクアップしたってことさぁ」


気の抜けたゆるい口調だが、その声音には緊張がにじんでいる。

胡散臭さもどこかに引っ込んでいる気がする。

奔放で軽薄な性格の男でさえその不真面目さをおさえてしまうほど、それくらい危険なものが生まれてしまったのだ。


しかも厄介なのは、完全な自我を取り戻したからといって目的が変わるわけではないだろうということだ。

より強固になった破壊者は変わらず世界の終焉を望み、破壊を撒き散らすだろう。

早速どこかで探索者を殺していても不思議ではない。


「町まで出てくる可能性もあるかもな。前みたいに」

「あぁ……あれはサイハが呼び出したやつだけど……」


あれは破壊者が自分から出てきたわけではない。サイハが巫女の権能で強制的にその場に呼び出したのだ。

世間では誤解されているが、あの出現は破壊者の意志ではない。

あくまで帰還者だ。『帰還者は町に現れない』という原則に基づいて、町に出没することはない。


だが。完全帰還者となったのなら。今度は自分の意志で町に現れるかもしれない。

精霊が定めた世界のルールがどうなっているかは知らないが、完全帰還者であるネツァーラグが町に堂々現れているのだ。同じく完全帰還者となった破壊者もまた町に現れる可能性はありえる。

そして町に現れてしまったら。その時は破壊者の力であっという間に町は壊滅状態になるだろう。


「何かとアンタはアレと縁があるし。気ぃつけとくさぁ」

「おう、ありがと」


警告のためにわざわざやってきてくれたのか。

それはありがたい。破壊者のことを知っているセレットたちやルイスたちにも伝えておく必要があるかもしれない。

そう考え、刹那。


「――探したぞテメェ」

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