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追放ソロ探索者俺、塔、登ります  作者: つくたん
それでも俺はやってない
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前略。俺、追放されました。

気付けば異世界に召喚されていた。

ここはどんな世界なのか、文化や社会構造。市街地のつくり。自分はどうすればいいのか、何をすればいいのか。

必要な知識はすでに頭の中にあった。それは、自分の中に刷り込まれた後付けの知識だった。


この世界にはひとつの塔がある。塔以外のものはない。

塔の外にはわずかな大地があり、湖と川と森があり、その向こうは対岸も底も見えない谷に囲まれていた。

端から端まで、地平線に壁があるとなんとか視認できるほどの大きな直径の塔の中に町を作り、そしてその上は未知の迷宮が広がっていた。


この塔の頂上には『扉』があり、『鍵』でもって『扉』を開ける。そうすれば神によりどんな願いも叶う。

後付けの知識の情報を頼りにパーティを組み、そして塔へと登る者を探索者と呼ぶ。


そんな知識を脳内で反復し、コウヤは酒場のカウンターに突っ伏した。

これからどうしよう。あぁぅぅ、と情けない呻きが思わず口から漏れた。

こうなってしまうのも仕方ない。


遡ること336日前。およそ12ヶ月前だ。

異世界から召喚されたコウヤは同じく異世界から召喚された3人と一緒にパーティを組み、探索者となった。

ミュスカデ、ノルバート、リリム。人種どころか世界が違う3人とどうにかこうにか探索を続けていた。


そうして178日前。おおよそ半年前だ。

クビ、という一言でコウヤはパーティを追放された。

探索がまったく進まない原因はパーティの攻撃役であるコウヤが弱いせいだという理由だった。

攻撃役がもっと強ければ立ちふさがる魔物も一瞬で倒してしまえるのだからもっと進めるはずだ。

コウヤが1匹の魔物相手に何打も必要なほど弱いせいだ。一太刀で切り伏せられない攻撃役など不要だ。


このようにしてコウヤはパーティを追放された。

彼らの言い分はもっともだったし、事実、コウヤも自分の力量不足を強く自覚していた。


だから何にも負けない力が欲しかった。そのために修行を繰り返した。

ひたすら修練を積んだコウヤはついに、単独での中層踏破を成し遂げた。


中層から上層へ。前代未聞のソロ踏破。

話はまたたく間に世界中へと広まった。

3人もきっと話を聞いただろう。どうだ、どうしてもというならパーティに復帰してやってもいいと自慢するために、3人がいるだろう階層へと踏み込んだ。

3人は猫なで声でコウヤを褒め、そして卑しいほどにへりくだってコウヤに非礼を詫びた。


その時だった。


突如乱入してきた何者かによって、3人は死んだ。

それは一瞬だった。青い残像が見えたと思ったら、彼らの首から上は消失していた。

あったはずのものはなく、ただ血溜まりだけがそこに残った。

血溜まりの中央に立つ『それ』はコウヤを一瞥し、そして迷宮の暗闇へと消えていった。


以来、コウヤはあらぬ疑いをかけられることとなった。


――あいつは腹いせに元パーティメンバーを殺したのだ。


3人が死に、不名誉な噂が立ったのが1週間前。

行き交う人々の視線がつらい。喧騒に向かって無実と主張するのももう何度目だろうか。

迷宮の中。目撃者なし。トラブルあり。状況証拠ですっかり犯人扱いだ。


「はぁ……」

「おや。まだいたのか」


突っ伏すコウヤの背中に声がかかる。

起き上がって振り返ってみれば、銀髪褐色の美女が4人。女4人でパーティを組む彼女らもまた探索者である。

探索者歴としては、コウヤよりもほんの少し先輩にあたる。


「早く裁かれればいいものを。懲罰の日はまだか?」


茨のような言葉を投げかけてくるのは4人組のリーダーであるシスだ。

彼女はすっかり噂を信じ、コウヤを悪辣な男と信じて疑わない。

自らの無能を棚に上げて逆恨み、あげくには殺害などと、と吐き捨てる。


「『仲間殺し』め」

「シスさま、言葉が過ぎます! コウヤさんはそんなことする人ではありません!」


シスを咎めたのは4人組の中で最年少のニルスだ。

クエストの都合で一度だけ組んだことがあるが、その時感じ取ったコウヤの人となりからはそのような悪辣な行為はありえない。そう主張し、コウヤの無実を信じてくれている数少ない1人である。


「さぁなぁ? 証拠がなければどちらとも言えぬだろうよ。なぁダルシー?」

「……どうでもいい」


決定的な証拠がない限り善も悪もどちらもありえる。

理知的な切れ長の目が細められる。中立をうたうのはルイスで、その議論は興味ないとばかりに顔を逸らしたのはダルシー。


「俺はやってないって!」

「だがお前の言う人物が町のどこにもいないのは事実。そうだろう?」


あの時、なんとか視認できた背格好。

青い髪の女。だったように思う。結ぶこともまとめることもせず、雑におろしたままの長髪。

翻る髪の隙間から見えた、世界を呪いきった憎悪の目。


それに当てはまる人物はこの町のどこにもいない。探索者にも、町の住民たちにもだ。

町は下層だけでなく中層や上層にも存在する。だがその3つすべての町を洗いざらい探してもそれらしい容姿の人物はいない。

そのせいで、コウヤは糾弾を逃れるために犯人をでっちあげたのではないかという疑われてしまっている。


「存在を証明できない限りはお前が犯人だ」

「シス、それはこやつの無罪にも言えるぞ?」


『やった』という証拠がなければコウヤは無罪だ。疑わしきは罰せず。

コウヤが無罪を主張するなら、仲間を殺したというその犯人を見つけて引きずり出さなければならない。

そしてコウヤを有罪と断ずるのなら、それに足る決定的な証拠が必要だ。

状況証拠がそうだからといって、頭ごなしに決めつけるのはよくない。


さらりと銀の長い髪を揺らし、ルイスはシスをたしなめる。

そしてその口で、コウヤへと挑発的に笑いかける。


「せいぜい犯人探しを頑張りたまえ、容疑者」

「だから……!!」

「話は証拠を持ってきてからにしてもらおうか?」


以上、この話はおしまい。ちょっかいをかけるのもここまでにしておこう。

ルイスは不機嫌そうなシスを引っ張るようにして酒場を出ていく。その後ろをダルシーが辟易した顔でついていき、遅れてニルスがコウヤに一礼してから駆け出す。


「…………やってねぇのになぁ……」


話しかけてくる人間はだいたいあんな調子だ。

溜息を吐く。まったくどうしてくれようか。



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