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私はそれを愛とする方法を未だ知らない

作者: エスカルゴ

好きな人に、付きまとわれています。

……何て、少女漫画でもあまり無いんじゃなかろうか。まぁ、極彩色の薄い本しか読まない私が言えることでもないと思うけれど。


「真琴!何でオレの気持ちに答えてくれないんだ?」


「うざいからに他ならないと思うけれど」


顔をしかめて、日本人らしい黒髪黒目の野性的なイケメン君が私を追いかけてくる。

平凡な学校の平凡な廊下で、だ。

青を基調とした地面を上靴でイライラ混じりに踏みつけ、後ろから追いかけてくる奴を引き離す。


奴は、逃げられたことに傷付いた素振りもなく、寧ろこの追い掛け合いっこを楽しんでいるようにも見える。……声音で判断した限りだが。



はっきり言おう、私はこいつのことが好きだ。



当然恋愛感情においてだ。

良いところのお嬢様だった私は、昔からそれはそれはこいつの事が大好きで、放置の代わりに与えられる大金と権力を使い、こいつに群がる女を苛めて苛めて泣かせて追っ払っていた。

将来の夢は、こいつのお嫁さんだった。


「昔はあんなに可愛かったのに!」

「過去の栄光に縋るな泣き虫浩太!」


階段に差し掛かり、段々本気の追い掛け合いになってくる。

浩太の悔し紛れの言葉を一刀両断しながら、階段を駆け降りていく。

それはもう、男女の睦あいとか言う可愛らしいものではなくなり、全速力のレースとなる。


足を超スピードで動かし、階段の五段上から飛び下りてその勢いのまま次の階段へ!

近付いてくる此方も全力の足音、階段はあと二つ。

この前事故って見つけたおりかたを実践してみる。

靴の踵を使って滑り降りるのだ。

ガタガタ言いながら下にしたにと勢いよく落ちていく。

勢いよすぎて踊り場の壁に頭をしこたま打ち付けたがお嬢様らしくない一度の舌打ちで済まし、大分離せたと確認しながら……


後先を考えず、階段の天辺から飛び降りた。


ッダアン!!


下駄箱に響く大きく重い音と共にビリビリと足先から伝わるなんとも言えないダメージと痺れ。

足音が少しずつ大きくなっていき、今飛び降りた階段から踏み切る僅かなきゅっという音を耳が拾い、前転する。


その勢いでもってまたパッと起き上がり、後ろに走りながら浩太の方にべぇっと舌を出した。


「私の勝ちっ!」


ここだけ見れば、リア充にしか見えないのに、今までが今までで、超アクロバティックだったから、本当につまりどう言うことだ?と言いたくなる結果である。


☆☆☆


……あの超人気トリックスターがお芝居に!?

同時存在など、多種多様なマジックを取り入れた舞台が、今宵も貴方を魅了する……!


怪しげなスポットライトが照らす先には、二人の同じ人間がいた。

いや、本当は双子なのだと、トリックスターのファンだったら皆知っている。

けれど、知っているのに、そう認識してしまうのだ


同じ人間が二人いる、と。


だから彼等は、二人で一人のトリックスターなのだ。


かくいう私も、トリックスターの大ファンである。

老若男女分け隔てなくマジックでもって魅了して、夜の怪しくも甘美な世界に引き込んでくれる。

暫く見ていなかった……というか、外国に行っていたから見れなかったが、なんと今回は日本での、しかもはじめてのお芝居公演である。

寂れた公園の出入り口にある見窄らしいチラシ張り版の、ヤンキーの悪戯でボロボロのチラシの前で、私はずっとずっと立ち尽くし続けていた。


……ってことで、金と権力を全力利用して見に行ったトリックスターのお芝居公演。


それは、一人の青年の独白だった。

上の人が何時も司会を勤める何時ものマジックショーでは見られない、何時も影として活躍している弟の方の。


……私が想いを殺す度、私の想いを表す宝石が現れる。

私が想いを溜め込む度、貴女は何時も私に触れた。

それが想いを増やすとも知らずに。


これは、恋と呼ぶには育ちすぎている。

しかし、愛と呼ぶには歪みすぎている。


そんな言葉から始まる芝居。

主人公はとある女性への想いを抱えていた。

ずっとずっと、ため続けた想いを。

ため続け、ため続け、ずっとずっと、抱え込んでいると、それは腕の中で変色していった。

そう、それがまさに、

"恋と呼ぶには育ちすぎているが

愛と呼ぶには歪みすぎている。"

ナニかになってしまった。


そのナニかの名称を知らぬまま、彼は大人になり、年を取り、一人で背を丸めながら歩いていく。

彼は宝石を吐く病気を抱えていた。

恋情だけじゃない、様々な思いが大きくなっていくと、大きくなりすぎると、その思いが結晶化し口から吐き出されるのだ。

吐き出したあと暫くその想いを忘れていられるし、刺激がなければ思い出すこともない。


……彼は、思い人に、近付きすぎたのだ。

そして、太陽に近付きすぎたイカロスのように、永遠の幸福であり不幸の海へと堕ちて行く……


そんな湿っぽい終わり方だったが、彼の考えていることをたまにもう一人の彼が解説してくれて、感情移入しやすかった。


文句なしに面白い作品だった。


カーテンコールは、スタンディングオベーションによって占められた。


☆☆☆


翌日


バレていないと思っているのであろう付きまといが再開した。

ちらりとバレないように浩太を見ると、潤んだような上気した瞳と目があった。


(……恋を、しているんだなぁ)


私は前を向いて、ぶらぶらと学校に向かって歩いていく。


あいとこい。


一文字違いだが、私は


私はそれを愛とする方法を未だ知らない。



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