その4
国語の時間中で、小野田くんという、運動は得意だけど勉強はできない男の子が、教科書に載っている小説を、漢字を何度も読み間違えながらつっかえつっかえ朗読している時にそれは起きた。
机の上、ぎりぎり視界に入る左端の方に、気がつくと見覚えのある薄紫色のシャーペンが転がっていたのだ。
それは、非常に違和感のある光景だった。
僕の机の上に自分の持ち物ではない何かがある。
基本的に休憩時間もトイレに行く時以外は席を立たない僕の机には、他の生徒が座るということがない。
だから、他の誰かのシャーペンが机の上にあるということは、まずないことだった。授業が始まってすぐならまだ可能性がないでもないが、国語の授業が始まってから30分以上過ぎていた。
僕は、薄紫色のシャーペンに触れるのが恐ろしくて、しばらくの間ただじっと見ていた。見覚えのあるシャーペンであることは確かだった。どこか親しみさえ感じさせる。ただ、どこの誰のシャーペンなのか、とっさに思い出すことができなかった。
いつの間にか小野田くんの朗読は終わり、担任の猪俣先生が板書をしていた。その時、窓際の席でがさごそという物音がした。葉月さんが、机の上の教科書をどかしたり、ペンケースの中をかき回したりしながら、何かを探している。
突然、薄紫色のシャーペンが誰のものか閃いた。それは、葉月さんのものだった。葉月さんの机の上に、それはいつもあった。