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その2
カーテンを開け閉めしているのは、僕の隣の窓際の席に座っている女の子だった。彼女はほとんど音も立てずにカーテンを操作するので、僕は彼女がカーテンの担当者であることに気付いてさえいなかった。
彼女のすらりとした細い左腕がカーテンを動かしているのを見た時、だから心底驚いた。
それは、夜中枕元にプレゼントを置きにきたサンタクロースの身体の一部を目撃してしまった時の衝撃に近かった。カーテンの向こう側でちょうど強さを増してきた太陽の光に照らされたせいばかりでなく、彼女の顔が光り輝いて見えた。
彼女は、目の大きな、顔にそばかすの残る、とても大人しい女の子だった。
名前は、葉月理香と言った。
それまでの人生の中で、僕は自分以外の誰かを気にかけたことがなかった。
両親や妹はいつも家に帰ればいたし、家族はもちろん僕にとってなくてはならない人たちだったのだけど、それ以外の他人を本当の意味で気にかけたことがなかった。
その時、初めて僕の中に他人という存在が入ってきた。葉月理香の神々しい横顔が僕の心に突然侵入してきて、居座った。