その19
そうして4月の後半にさしかかった頃、朝、偶然昇降口の下駄箱付近で葉月さんに遭遇した。
「あ、おはよう」
葉月さんは1ヶ月も顔を合わせていなかったのが嘘みたいな親しさで挨拶をしてきた。
「お、おはよう」
対する僕は、変に意識し過ぎて、彼女と目を合わせることができなかった。
1ヶ月ぶりの彼女は前よりも髪の毛が短くなっていて、少し大人っぽく見えた。
「最近あれ、起きてないね」
「う、うん、そうだね」
「やっぱり違うクラスになったのがいけなかったのかな?」
「そうなのかな……」
「物がなくらなくなったのは嬉しいけど、でもちょっぴり残念」
葉月さんはそう言っていたずらっぽく笑った。その後、ちょっとした世間話をして、彼女はD組の教室の中に消えていった。
いつか葉月さんに会った時に渡そうと英語のノートを鞄の中に忍ばせていたが、結局渡すことができなかった。もしかすると彼女はノートをなくしたことに気づいてさえいないのかもしれない。
その日は久しぶりに葉月さんと挨拶を交わせたというのに胸の中にぽっかりと穴が空いたような感じで、授業に集中できなかった。葉月さんが、完全に僕とは違うクラス、僕とは違う世界に行ってしまったような気がして、寂しかった。たまに廊下で顔を合わせて挨拶したりすることはあるかもしれないけど、基本的には何の接点もない。赤の他人。
それが起きたのは、その日の3時間目、英語の時間のことだった。
僕は授業を真面目に聞くような気分でもなく、ぼんやりと黒板を眺めて、その時間をやり過ごしていた。海外での生活経験のある英語の先生の発音はとても流暢で、ぼんやりとしたい時のBGMとしては打ってつけだった。
そんな時、突然、すぐ近くで悲鳴が起きた。最初1人の悲鳴があがり、続いて次々と悲鳴が沸き起こり、それは教室中に伝播した。
隣の席に、葉月さんが座っていた。




