表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/66

第七話 第二の点 5



 時間遡行については胡散臭そうに聞いていたものの、ジャガーノートの脅威はカリーナも正しく認識してくれたようだ。

 根拠がなんであれ、万が一があったら怖いと、協力してくれる事になった。



 やがて教会で保護された少女は、自分の名前さえ覚えていなかった。

 間が悪い事に、教会の孤児院で彼女ぐらいの歳の行方不明者は複数おり、それだけでは身元が判明しなかったのだ。

 何人かは都合をつけて面通ししたものの、その中に彼女を知る者はいなかった。



 フレデリカと名付けられた少女は、持ち前の明るさと元気の良さで、すぐに街の人々に可愛がられるようになった。



 そして、二年目の春休み。

 当日、教会の用事を言いつけられたフレデリカに、ピートが念の為に張り付き。

 殺虫剤を撒くからという理由で人気ひとけの無くなった学校周辺を、大勢の人間が走り回っていた。



 アルカとニーナは勿論として、カヤにサラ、理事長とカール。

 生徒会の面々やカールの仲間の他にも、荒事に対処出来る生徒が十数名。

 それと、外部の何でも屋も何人か雇われている。

 取り逃がした場合が最もまずいので、単独行動は避け、無理はするなと厳命されていた。



「それらしい物は見当たらんな」


 鏡の祠から東門の方へ向かってすぐの開けた場所で、魔導銃を手にニーナが辺りを見回した。

 楓の森に囲まれた原っぱは、静かに草を揺らすばかりだ。



 まだ、あの時見つけた夕方までは時間がある。

 しかし、それまで近くに居たとは限らないのだと、アルカは額を押さえた。



「よく考えたら、どっかからフレデリカが連れて来たって可能性もあるのか」


「街の方を見てる者もいたはずだが、捜索範囲が絞れないと厳しいな。

 今日を逃すと、人数が減るのもあって見つけ難くなるぞ」


「何か手がかりがあればいいんだけど」


 今までにも思い出そうとしていたのに、これといって何も無かったのだ。

 フレデリカの抱えていた猫の色さえ、薄暗かったのもあって断言出来ない。

 何より、半年以上も魔法で封じられた間に、だいぶ記憶も薄れてしまっていた。



 だが、分かる事もある。



 あの時、ニーナは銃を持っていたのだから、練習帰りで間違いないだろう。

 第一射爆場でアルカは見かけなかったし、エメットの街に学院施設以外の射撃練習場は無い。

 だから、彼女が第二射爆場から、寮にある銃の保管室に向かっていた事までは分かる。



「ここと第二射爆場、それから南寮までの間を、もう一度見てみるか」


「私と同じ結論に至ったようだな。

 参考までに言っておくと、私は銃を持ったまま散歩はしないはずだ」


「途中で何かを見て、追ってきたのかね」


 その辺りに注意してみようと言って、歩き出そうとした彼らのところへ、ダンが駆け寄ってきた。



「お、いたいた! あのなんとかっての、サラが倒したぜ」


「本当か?」


「ああ。

 こっちだ、来てくれ」


 大きく手で招いたダンに続いて、アルカとニーナも走っていった。

 それなりに速かったのでアルカは息を切らせたが、訓練部隊で鍛えられただけあってダンには余裕があるようだ。



 少し苦しそうなニーナが、何かの魔法を唱えようとしたところで、石畳の上で待つ副会長とサラが見えてきた。



「来たな。

 早速、確認してくれ」


「これなんだけど」


 校舎の方へと伸びる石畳の脇に、猫のような死体が倒れていた。

 アルカは目を凝らしてみたものの、見た目はただの猫と変わらなかった。



 すっと顔を近づけたニーナの様子を窺うと、流れ出た血や傷跡を調べているようだ。

 真似してアルカも、その辺りを重点的に見てみる。

 傷口から溢れる血の周りを、ぼんやりと菫色の魔力光が覆っていた。



「間違いない、ジャガーノートだ。

 しかし、これは……」


「やはりそうか」


 眉間に皺を寄せたニーナを引き取って、副会長が頷く。

 アルカとサラが彼を見ると、渋い顔で教えてくれた。



「幼過ぎるんだ。

 これが半年で成体になるとは、とても考えられん。

 薬品や魔術で、無理やり成長させる方法もあるかもしれんが」


 つまり、学祭の前夜、アルカが死んだのはジャガーノートのせいではない可能性が高いようだ。

 といっても、寝ていたら死んでいたらしいアルカに、死因の心当たりなどあるはずもないが。



 てっきり周囲一帯ごと毒で殺されたと思っていただけに、アルカも多少は気が楽になったようだ。

 だが、それでは一体どうして過去に戻されたのか。



 考えに耽るアルカをよそに、ダンは副会長に指示を求めた。



「とりあえず、他の連中どうします?」


「この件は我々と会長、後は理事長への報告に留めておくべきだな。

 学院長辺りには知らされるだろうが、そちらは我々が決める事でもない。

 念の為、捜索はしばらく続けようか」


「了解っす」


 その後も捜索は続けられたが、サラの倒した物の他にジャガーノートは見つからず。

 一抹の不安は残ったものの、これといって何事もなく日々は過ぎていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ