相思相愛
「ふん?」とフルカワさんがじっと私を見る。
そっと目を反らす私。
「え?カナエ?」と私を見たままのフルカワさん。「もしかして中田さんと一緒に来たの?」
すごいなフルカワさん!いきなりな洞察力!
が、ソワッとした私とは裏腹に「お~」と普通に答えるキタガワ。
「へ~~そうなんだ~~~」と言ったフルカワさんの声がとたんにちょっと怖い。
そして「クラス会どうだったの?」とキタガワだけでなく私にも、両方に笑顔で聞いてくるフルカワさん。微笑んではいるけれどやっぱりちょっと怖い。
「小学校の時のだったよね?」フルカワさんが言う。「楽しかった?みんな仲良くいろいろ話せたの?たくさん来た?」
「あ~まぁまぁ」と私をチラチラ見ながら答えるキタガワ。
だって…二人きりだったもんね。
「へ~~そうなんだ、良かったね」と黄金の笑顔でキタガワにほほ笑むフルカワさん。「だから今朝も中田さんと来たの?」
うっ、と思う私。
校門の所から別々に入ってきたら良かったのかもしれない。
「今朝はバスで会ったの?」と細かくしつこいフルカワさんだ。
「バスで一緒に来た」キタガワも嫌だと思い始めているのか、淡々とした感じで答える。「中田の家からバス停近いから」
「え!?」大きな声を上げるフルカワさん。
フルカワさんだけではなく回りにいた子たちがいっせいにこっちを注目したのがわかった。
「え、どういうこと?」とフルカワさん。「中田さんの家から一緒に来たの!?」
「朝練なかったからオレが迎…」
「キタガワ!」と思いあまってキタガワが正直に答えるのを止めてしまった。
「今朝!…今朝はありがとう、わざわざ忘れ物届けてくれて」
へ!?という顔のキタガワを睨みつけて、もう何も喋らせない。ここでフルカワさんに騒がれたら面倒くさい。
「忘れ物?」と今度は私に聞くフルカワさん。
ほんとフルカワさん苦手!
「うん」とそれでも笑顔で答える私だ。「クラス会の時の忘れ物、キタガワが朝、うちまで届けに来てくれたんだよ」
にっこり、とフルカワさんに笑って見せる。
「ふうん」と微妙に納得するフルカワさん。
そしてじいっと私を見つめるキタガワ。
フルカワさんに嘘をつきながら、そしてキタガワにはビミョーな顔をされながら、それでも土曜の二人きりのクラス会をまた思い出し、頬っぺたを引っ張られながら「好き」って言われた瞬間を思い出して赤面しそうになる私は先に席に着こう。
窓際の一番後ろの、自分の席に向かう私だ。
「クラス会の写真ないの?ラインで送ってよ」とフルカワさんがキタガワに言っているのが聞こえる。
フルカワさんはやっぱり凄いな。攻めが凄い。
が、「なんで?」とさっきよりもイライラした感じで聞くキタガワ。いつもならもっと適当に、『まぁまぁまぁまぁ』みたいな、否定とも肯定とも取れないような好い加減な優しい返事を返して流すはずなのに今朝は冷たく言う。
「なんでフルカワが見たがんの?」
「え…、」
ちょっとひるんだがすぐに持ち直したフルカワさんがきっぱりと言った。「見たいから」
当然、という風に言い放つフルカワさんの声。
なんか…なんかすごく良くない感じがする。
キタガワが正直に土曜日の事を話してしまったら、私はキタガワの事を好きな子たちからなんて思われるんだろう…
…マズいよね。
キタガワと二人でやったクラス会…っていうかクラス会じゃなかったけど、あの嬉しくて恥ずかしい土曜の話が、キタガワの事をいいなって思ってる子たちにバレて、私が嫌な感じに思われるのはイヤだ。
言ってみたら私とキタガワは相思相愛…
自分で思ってみて、またド恥ずかしいけど。小学の時からずっと相思相愛的な感じだった事がわかったわけだけれど、それでちゃんと「好き」だって言われたけど、でも、…でも付き合おうみたいな話にはなってないし…
…付き合ってはいないけど、じゃあ今朝一緒に来たのは何?
それはキタガワが、朝練がないから迎えに来てくれたわけだけど、あの時小学校の校庭で好きだって確認し合った後の私たちは…
…私たちはもう彼氏と彼女なの?付き合おうって確認してないと彼氏と彼女じゃないの?
付き合おうってどっちかが言って、相手がうんて言って、ずっと仲良く一緒にいるようになったら彼氏と彼女なの?
付き合おう、とかそういうのは言わないで、しょっちゅう喋ったり、どこかへ一緒に行ったり、そうやってだんだん仲良くなって、相手の事を彼氏とか彼女って思えたらいいのにな…
でもそしたらどうなんだろ…どんな感じになった時点で私はキタガワの彼女なんだろう…
キス…とかしたりしたら?と考えてあやうくキタガワとキスするところまで想像しかけ慌てて頭からその想像を追い払う。
ダメだ。授業に全然集中できなくなる。
2時限終わりの休み時間、トイレに行こうと教室を出ようとした所で、キタガワのところへよそのクラスの派手めの女子がやって来たのを見る。いつものように教科書を借りに来たわけでもないみたいで、見るとその後ろに女子が5、6人いて速攻問い詰められるキタガワだ。
「カナちゃん、バス通に替えたの?今朝バスで見た子がいたらしいんだけど」
「私もバス通に変えよっかな~~」と言う子もいる。
「いや」と普通に答えるキタガワ。「今日だけ。今日だけっつか朝練のない日はこれからバスに…」
「ねえ!」と別な女子。「なんか隣に女子座ってて、ずっとその子と話してたって見た子が言ってたんだけど」
「あ~~まあそれは…」と答えかけるキタガワが私に気付いて目が合った所で、私はそっと首を振った。
言わないでいて、と念を送りながら。
「もしかして…!まさか彼女出来たの?」問い詰められるキタガワ。「どうしたの?いつ告られたの?その子はどこが良くてオーケーしたの?」
「「「「「やだ~~」」」」」と周りの子たちも声を合わせる。
「あ~…」めんどくさそうな声を出しているキタガワ。
「だれ?この学校の子なんでしょ?誰?このクラスの子?」
私はもう立ち止まることなくトイレに向かった。
逃げたな私。逃げるよねそりゃ。