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誰にも言わないで!  作者: 山吹カオル
20/22

アイス

 テーブルにアイスを置くと、ヨシノ君は私のカバンを取って、自分のと一緒にテーブルの脇のかごに入れてくれた。

「…ありがとう」

「いえいえ」

それをタカムラ君とユウミちゃんが『『おお~~』』という目で見る。

ユウミちゃんが私のアイスを無言で一すくいし味見して、私にも自分のカップを差し出してくれたので、私もユウミちゃんのチョコチップが入ったイチゴのアイスをスプーンですくう。

「わ~~いいな~~~」とタカムラ君。「オレもオレも。ちょっと一口味見~~」

言いながらタカムラ君がユウミちゃんのアイスにスプーンを向けたが、「無理」と簡潔に断るユウミちゃんに苦笑する私とヨシノ君だ。


 「え~でも、」とタカムラ君。「オレの、味見してみる?」

ユウミちゃんに自分のピスタチオ入りのモカアイスのカップを差し出すタカムラ君。

ちょっと躊躇したユウミちゃんが聞いた。「…いいの?」

え?と私が軽くうろたえる。いくらアイス好きでもそれは…

「いいよ、はい」とタカムラ君。

「でも私、スプーン口に入れちゃったから」とやっぱり断るユウミちゃんだ。

「いいよ別に気にしない」

 そんなタカムラ君を『『おおおおお~~~』』という目で見る私とヨシノ君。そして結局、「ごめん!」と言いながらタカムラ君のアイスをすくうユウミちゃんだった。

 ユウミちゃんマジで…タカムラ君の事女の子慣れしてるってちょっと嫌がってる感じだったのに…


 「あ~~…」とヨシノ君が言った。「僕もしたいわ~~」

「させてもらえばいいじゃん」とタカムラ君。

「ダメだよ」とヨシノ君が言う。「すげえ残念だけど、ヒロちゃんには彼氏みたいな人が出来たんだもんね?」

「あ~~」とタカムラ君。「さっき言ってたやつか」

「ほんとはあっちの二人掛けの席にヒロちゃんと座りたかったし」

残念そうに言ってくれるヨシノ君にドキっとするが、ハハハ、と笑うタカムラ君。

 いや、ユウミちゃん…アイス黙々と食べ過ぎじゃないの?



 「でもさ、」とヨシノ君。「いつも男だけだとこういうとこ寄らないんだけど、今日はヒロちゃんたちが一緒だから寄れてうれしいよね」

「う~~ん…」とタカムラ君。「オレはカラオケとかゲーセン行きたいけど。今度はじゃあカラオケ行く?」

ユウミちゃんが「いや、それはいい」と答える。

 現金だなユウミちゃん。アイスは味見したのに。

「そっか~~」となぜが嬉しそうに笑うタカムラ君。「アイス好きなの?」

「好きだよ」と即答するユウミちゃんだ。

「じゃあ今度は二人で来ようよ」

「いや、それはいい」

「ハハハ」

 面白そうに笑うタカムラ君と真顔のままのユウミちゃんを嬉しそうに見るヨシノ君の顔は優しい。



 ユウミちゃんがお手洗いに立ち上がった。

「いいよなあ」とヨシノ君がタカムラ君に言う。「そういう事軽く言えて」

「いや軽くはねえよ」とタカムラ君。

「僕なんかもう誘えもしないし。あ~~もう!後1週間早く会えてたら…。まだ付き合ってなくても、ヒロちゃんもその彼氏みたいやつの事、好きなんでしょう?」

 恥ずかしい。こんな所でそんな感じで訊かれたら。

「だからやっぱダメだよね?ヒロちゃん」

「…え」

「僕が誘っちゃダメだよね?」

「うんダメだよね!」

私の後ろから声がして驚いて振り返ると…

 お姉さん!!


 

 そこにいたのはアイス屋の爽やかブルーのセーラー型のミニスカ制服を着てツインテールにしたキタガワのお姉さんだった。ビックリ!…今までどこにいたんだろう。

「この子はね、」とお姉さんが静かにヨシノ君に言う。「うちの弟の彼女なの」

 ビックリしているヨシノ君とタカムラ君。

「もうヒロちゃ~~~ん」今度はなじるように私に言うお姉さん。「ビックリしたよ~~。カナエの彼女浮気してる!と思って」

「いえ、これは…」

言いかける私に被せてお姉さんが言う。「だいたいわかってる。友達の彼氏のツレとかでしょ。見てたからずっと。裏からこっそり見てたからわかってるから大丈夫」

マジで…


 「でもね…なんか…」ちょっと笑いながら小さい声でお姉さんが言った。「カナエにさっきラインしちゃった。ほんとは写真送りたかったけどバイト中だから。ね?」 

いやラインもいけないよね。それにキタガワはまだ学校にいるはず。

「あの…なんて送ったんですか?」

ふふっとお姉さんは笑った。「一緒に帰ろっか。私もうすぐバイト終わるし」

 

 そこでヨシノ君が口を挟んだ。「ヒロちゃんの彼氏みたいな人のお姉さん?」

ヨシノ君はもちろん私に聞いたのだがお姉さんが言った。

「なに、彼氏みたいな人って」

 ヨシノ君が私を見る。タカムラ君は『ヨシノ、余計な事を』みたいな顔をしている。…ように私には見えた。私も非常に気まずい。

「みたいじゃなくて彼氏なの。もう付き合ってます」言い切るお姉さんだ。「うちの弟、小4の時からずっとこの子の事好きだから。絶対誰にも渡さないって言ってたから」

 ウソだソレ。

 キタガワは絶対そんな恥ずかしい事言わない…言わないって思うのに、それをお姉さんから聞いて凄く嬉しい。


 キタガワさ~~ん、とお姉さんが別なスタッフから呼ばれた。

 ちっ、と舌打ちをするお姉さん。

「ヒロちゃん、先に帰っちゃダメだからね。先に帰ったらある事ない事カナエに吹き込むよ?」

「…」




 アイス屋の入っている駅ビルから、キタガワのお姉さんは私を自転車の後ろに乗せて、恐ろしい速さで漕いだ。横乗りでお姉さんのお腹にしがみつく私。お姉さんは私より少し背が高いくらいで体つきもほぼ同じくらいの感じなのに、そして私のカバンも前かごに乗せてくれていたのに、息も切らせず凄いスピードで自転車を漕いだ。

 最初は我慢していたが、思わず「お姉さん!怖いです!」と叫ぶ私だ。

「落ちます!ぎゃああああ!」

叫ぶ私を面白そうに笑うお姉さんは。「ハハハハ!落ちないって~~。てか落ちないようにちゃんと手を回さないと。カナエだと思って抱きつきなよ~~。カナエと二人乗りした時はどうだった?」

「した事…ぎゃああっ…ないです!お姉さん!や…ぎゃああっっ」

歩道の段差とか全く気にも留めず、そして私の叫びも気にも留めず、がんがん漕ぎまくるお姉さんの自転車の後ろで、私はとてもお尻が痛い。

 あっという間に私たちの母校の小学校を過ぎて、私たちはキタガワの家へ着いた。



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