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誰にも言わないで!  作者: 山吹カオル
18/22

可愛い

 アイちゃんユウミちゃんと並んで校門を出ると、そこには他校の制服を着た男子が3人。

「お~~」と言いながら手を上げるその中の一人は何回も写真では見た事のあるアイちゃんの彼氏だ。

「おまたせ~~」

彼氏にフリフリ手を振るアイちゃんは可愛いけど…

 アイちゃんの彼氏以外の男子二人も写真で見た。日曜日にユウミちゃんと写真に写っていた子ともう一人。背が私よりちょっと高いくらいの、女の子みたいな可愛い感じの男子。少し長めの髪もサラサラ。クリっとした目で私をじっと見ているから目を反らしてしまった。



 「この子だよ」とアイちゃん。「ナカちゃんの写真見て可愛いって言ってた子。ヨシノイズミ君」

そっか…名前も女の子っぽいな。

「今、」とヨシノ君が言う。「名前も顔も女の子っぽいって思ったでしょ?」

思った!ヤバい思ってる事顔に出たな私。

『うん』と明るく肯定することも、『ううん』と首を振っていい加減に否定することも出来ずに、ただあやふやに笑うしか出来ない自分がふがいない。『ごめんね』って言うのもさらに失礼だし。

「大丈夫、」とヨシノ君がニッコリ笑う。「みんなそう思うから」

「うん」…結局『うん』て言ってしまった。


 「こんにちは」

その子がニコッと笑って若干まだ狼狽気味の私に言った。

 あ、八重歯もあるんだ…

「ヒロちゃん?」

「え?」

今日初めて会ったヨシノ君が当たり前のようにヒロちゃんて私を呼ぶから驚いた。私は男子には『中田』、女子には『ナカちゃん』と呼ばれている。フルカワさんだけどういうわけかナカティって呼び始めてるけど。父と母は『ヒィちゃん』と呼ぶので、私を『ヒロちゃん』なんて呼ぶ人はいない。しかも初対面で。

 …あ、そう言えば土曜日、キタガワのお姉さんにも呼ばれたっけ。

「カッコいい名前だね」ヨシノ君が言ってくれた。「僕がイズミで女の子っぽいのの逆だね!」

そっかそうだね。でもここで素直に「そうだね!」って言ったらやっぱり失礼なのかと思って、ただ「うん」とうなずく人見知りな私だ。



 下校するうちの学校の子たちが、制服の違う3人をチラッと見て帰って行く。

「じゃあせっかくだし」とタカムラ君が言う。「どっかみんなで寄って帰ろっか。今日はヒロちゃんもいるし」

お前も『ヒロちゃん』て呼ぶ気か、と思ってしまう。ユウミちゃんがタカムラ君の事、女の子と喋るのが慣れてる子って言ってたけど、本当だね。

 アイちゃんの彼氏は、アイちゃんが前からカッコいいと自慢していたように、あまり目立つ感じではないけれど、清潔で落ち着いていてしっかりした感じの印象。175センチくらい?タカムラ君はアイちゃんの彼氏より少し高いくらいだ。少し長めの髪を茶色っぽくしていて、見た目やっぱりチャラい感じだ。


 「なんか急にごめん」とアイちゃんの彼氏。「オレがやまぶき高校寄ってくって行ったら勝手について来て」

「いや、日曜日楽しかったから」とタカムラ君。「あの時はラインも教えてくんなかったし。ね~ユウミちゃん?次会ったらって言ってたよね」

「あ~~…」とちょっと困り気味なユウミちゃん。

困るっていうより面倒くさいんだろうな。っていうかほんと調子良さそうな感じだタカムラ君。先週までチャラいと思っていたキタガワより断然調子良い。


 

 「日曜日」とヨシノ君も言う。「僕だけあぶれてた。クラス会があったんでしょヒロちゃん」

「うん」

うん、て言ってるけどクラス会土曜日に変わったしね。そもそもクラス会じゃなかったし。

「あのね、」とアイちゃんがヨシノ君に言う。「ナカちゃん…、私たちはナカちゃんて呼んでんだけど、クラス会の時に告られたの。そいでナカちゃんもその子の事ずっと気になってたみたいで、急なんだけどヨシノ君ごめん、ナカちゃんの事可愛いって言ってくれてたのに」

「へ~~」とヨシノ君。「僕があぶれてる間にさらにそんな事が!」

アイちゃんの彼氏とタカムラ君が笑う。「「残念だな!!」

「マジか…」とヨシノ君。「結構…すげえショックかも。仲良くなれそうな感じが勝手にしてたから」

写真しか見てないのに?

 

 …なんかアイちゃんの彼氏の友達、二人とも調子良過ぎない?アイちゃんの彼氏も本当はそうなんじゃないかと思って、アイちゃんの事が心配になってくる。

「うわ~~」とヨシノ君。「マジでか…ヒロちゃんの彼氏ってどんな人?カッコいい?」

「結構カッコいいよ」とアイちゃん。「でもまだ彼氏ではないらしい」

「へ?」とヨシノ君。「どういう事?」

「だんだんちょっとずつ仲良くなっていくんだって」とアイちゃんが説明してくれるのが恥ずかしい。

それでも「ちょっ…アイちゃん」と軽めの突っ込みしか出来ない。

「へ~~」とヨシノ君がニッコリと笑う。「可愛いね。小学生みたい。けどそういうのすごい良いね!うらやましいな」


 「私心配なんだ」とアイちゃんが自分の彼氏に言う。「その相手の子、結構女子に人気があってね、ナカちゃんの事、舐めてんじゃないかと思って」

「アイちゃん!」慌てて否定する私。「そんな事ないから」

「駅ビルの中のアイス屋、行ってみようか」とヨシノ君が急に提案する。

「「行こう!」」とアイちゃんとタカムラ君。

「ユウミちゃん、行こうよ」とタカムラ君がユウミちゃんを優しく誘う。

…ユウミちゃん、こういう男の子苦手そうなのに…。はっきり断るのもアイちゃんに悪いって思ってんのかな…と心配したのにユウミちゃんは迷いもせずに「行く」と答えた。

「期間限定のアイス、テレビでやっててすごく食べたかったんだよね」

 ユウミちゃん、アイスにつられるか…



 「よし、じゃあ行こ」とヨシノ君。「アイス嫌?ヒロちゃん。どっか別のとこがいい?」

なんか…もう一緒に行く事になってる!

「いや、私は…」行かないって言うの感じ悪いかな。

「取りあえず行ってみよ?」とヨシノ君がニコッと笑う。「あんま好きなのなかったら他んとこ行けばいいし」

笑うともっと可愛くなるなこの子…ほんと女の子みたい。

「今さあ、」とヨシノ君がビシッと私を指差してちょっと睨みながら言う。「『ほんと女の子みたい』って思ったでしょ」

「うっ…あ、いや…ごめんなさい」

「まあいいけどね!」

ニッコリ笑うヨシノ君だけど、ホントその笑顔が可愛い。

 うらやましい。私もこんな可愛い顔でいつもニコニコしてたら…キタガワだってちゃんと本気で私を好きになってくれると思うのに。



 


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