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誰にも言わないで!  作者: 山吹カオル
14/22

彼女じゃない

 それは私が小学生設定の夢だった。

 キタガワにもらったネックレスを作り替えて作ったキーホルダー。黒ネコのマスコットと一緒に、通学用の補助バッグに付けていたはずなのに無いので探し回ると、中庭の濁った池の真ん中に浮かんでいるのを発見。どうしよ…。中庭の池は楕円形で、教室半分くらいの大きさ。この池にはどこからともなくドッジボールほどの大きさのある牛ガエルが住みついているという話があり、誰もちゃんとその姿を見た人はいないのに、背中にアルファベットのBの字型に黄色いイボがあるという噂で、みんなはその、本当にいるかいないかわからない牛ガエルの事をビイと呼んでいた。とにかくそんな気持ちの悪いデカい牛ガエルがいる池に落ちてるなんて最低!と思いながら脇に落ちていた竹の棒を拾って池を突くが、池の水はどろっとしていて、水面がゆぅらっ!と揺れても、離れた所に浮かんでいるネックレスには届くどころか、返って離れて行ってしまう。ヤバい!黒ネコに水が浸みこんだら沈んでしまう。

 …あっ、キタガワ!キタガワがこっちに来てくれる。

 が、どうにか棒を使ってそれを取ってくれると思ったキタガワは冷たく言ったのだ。「いいじゃんアレはもう。汚ねえし。新しいのやったじゃん」

「…え…」

 私の目の前にいるのは高校生の、今のキタガワカナエだった。

 

 いやだ、と思う。私は新しくもらった綺麗なネックレスも嬉しかったけど、最初にキタガワからもらったネックレスが一番大事。絶対に失くしたくない。汚い濁った真緑色の池の中に、もういっそ入ってみようかどうしようか迷っているところにどこからかキタガワを呼ぶ女子の声だ。「カナちゃ~~~ん♡」

 そこで目が覚めた。



 恐ろしく寝覚めの悪い夢だ。池のリアルに不気味な水の色が半端なさ過ぎた。あんなにふわふわした気持ちで眠りについたのにどういう意識してんだ私の脳みそ。

 ゆっくりとベッドから起き出して、机の中に仕舞い直した、キタガワから最初にもらったネックレスを手に取り、じっと眺めた。

 なんか嫌だな…あの夢、何か現実の良くない事を暗示してたらすごく嫌。




 

 キタガワは朝練があるので今朝は一緒には行けない。まあでもいいや、と思う。夕べの夢は暗くてすごく嫌な感じだったけれど、キタガワはあんなに嬉しい事を電話で言ってくれたのだ。私一人で見た暗い夢より、二人の今いる嬉しい現実に目を向けなきゃ。

 日曜はデートだし…

 初めてのデートだし!

 初めてのデートを妄想し、ニヤニヤしそうになるのをどうにか押さえながら学校へ行くと、体育館の横で朝練終わりのキタガワを発見…

 

 あっ。

 でもそれは、今まさに女子にリボンの付いたクリアパックに入った、黒いリストバンドらしきものを渡されている所をピンポイントで発見だ…

 うわ…女子は1年の、クラスはわからないけれどうちのクラスまで来て騒いだりはしていない子だ。髪の毛を後ろで一つにくくって結構真面目そうなタイプ。それでも一人で朝練終わりのキタガワを待ち伏せてリストバンドを渡そうと思うくらいキタガワの事を好きなんだな…勇気あるなぁ。…私だったら出来ないやそんな事。チラチラ見るくらいしか出来なかったもん。

 そして、あっ、キタガワがチラッとこっち見た。

 わ~~~、と思う。

 わ~~…見たくなかったな。見たくなかったっていうか、そんな現場を目撃してる私を見られたくなかったな本人に。

 

 気付いたキタガワが、「中田!」と私を呼ぶ。

 わ~~!私を呼んだ!他の子からプレゼントもらってる現場で私を呼んだ!そんなのどうするの私。そして私を呼ばれたあの子はどうするの?

 どうする事も、返事をする事さえ出来ずに速攻で目を反らした私は、小走りで教室のある第2棟へ向かった。



 …そうか…あれやっぱリストバンドだよね…渡されるか~~。

 …いやぁ渡されるんだろうな…あの子だけじゃないはず。今までも渡されてたはずだ。そしてリストバンドだけじゃなくて、タオルとか飲み物とかも渡されてるよねきっと。高校入ってからだけじゃなくて中学の時だってきっと何人もから。


 『あ、わりぃ、オレ、彼女いるからもらえない』、なんて言ってくれてないよね…だってまだ付き合ってないもん。まだ私は彼女じゃない。

 それでもあの子が『いいじゃん彼女いたって。ちょっと使って欲しいだけなの!』って。…違うな、さっきの子はそういうタイプじゃない。『こんなものを私が渡してごめんなさい。でもどうしてもキタガワ君に使って欲しいの!』って感じかな。『ごめんなさい、彼女がいるのに私がこんなもの渡して。彼女には本当に悪いけど、でも!でもどうしてもキタガワ君にもらって欲しいの!好きなの!入学した時からずっと好きなの!キタガワ君に彼女がいても!』…って教室に走りながら妄想してるけど、それでも彼女じゃないからね!しつこいけど私はまだ。

 そしてキタガワが『あ~…じゃあまぁうん、ありがとう』、って感じ?

 わ~~~ヤだな…貰って欲しくないな。でも、わざわざ用意して待ち構えて渡して来たら無下には断れないよね。それにキタガワ、調子よく受け取ってたもん先週もクッキーとか…

 もう、ほんとヤだな!なんで受け取るんだろう。私の事好きだって言ったくせに。私にはヤキモチやいて来たくせに!



 やっぱりあの夢、暗示だったんだよ。こういうモヤっとした事が起こりますよ、っていう暗示。

 夕べ見た夢の中の冷たいキタガワを思い出しながらモヤモヤは増す。

 ヤだなヤだなヤだな…あんな現場見なきゃよかった。見たくて見たわけじゃないけど。仕方なかったけど。キタガワがリストバンドをはめているのを見たとしても、あの現場を見ていなかったら、他の女の子からもらったって気付かないだろうし、知らなかったら別になんとも思わないかも…

 …いや!やっぱそれも嫌だ!私が知らないうちに誰かからか貰ったリストバンドをキタガワがはめたりするのは嫌だ。

それに何より、見ちゃったもんあの現場。




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