嫌なの?
キタガワが続けた。「お前、そんなに嫌なの?今日も誰にも言うなつってたけど!オレとどうこう言われるのそんなに嫌なの?」
「違う!」慌てて言う。「キタガワとの事を言われるのがっていうか、女子のみなさんに私の事をあれこれ言われるのが嫌なの!」
「え、でもお前もオレの事気にしてたって言ったよな?オレがだんだんいろんな事一緒にやってきたいって言ったのも、『うん』て言ったじゃんお前も」
「…うん」
「じゃあもうめんどくせえから」
「…なに?」
「誰かに聞かれたら『付き合ってる』って言う」
「へ!?」
「2回言わせんなよバカか。すげえ恥ずかしいわ」
「だってまだ付き合ってないよね!?」
「はあ?」
「だって!だんだんって言ったじゃんキタガワ。だんだん仲良くなろうって」
「…なんか今のお前の言い方ムカついた」
「…なんで?」
「まだ付き合ってないよねって念押しされるってすげえムカつくわ、なんか知らんけど」
「自分で言ったんじゃん!だんだんて!」
「言ったけど…やっぱムカつくわ!今日もサワダの付き合ってるヤツのツレとどうのこうのってまだ言ってたし、エザワの事だってこの間聞いた時にもはぐらかしたよな」
「…」
キタガワこそ、と思う。いったい私のどこをずっと好きでいてくれたのかわかんないのに。
それでなんで、初めての電話でこんな言い合いしてるんだろう。
「…エザワくんは…恥ずかしいけど…エザワ君いいなって思ったのは、なんかむかしのキタガワに感じが似てたからだよ」
「…」
もう~~~…恥ずかしいなもう!本人にこんな事ぶっちゃけるなんて。電話だから言える事だ。
が、キタガワはこう言った。
「今な、一瞬すげえ喜びかけたけど、お前…うまい事言ってごまかそうとしてねえ?」
「…」
うまい事って…
「なんか腹立つわやっぱ」と機嫌の悪い声で言うキタガワ。「朝一緒に来たのもごまかすし、黙っとけって言うし」
「キタガワだって!」
「なんだよ?」
「むかしネックレスくれた時『誰にも言うな』って言ったじゃん」
「それは恥ずかしかったからって言ったろ」
「私だって今恥ずかしいから言ってんの」
「いや違う。なんかお前のニュアンス違うわ。…それにオレは、今度お前にやったネックレス、オレからもらったって誰にも言うなとか絶対ぇ言わねえし」
…言い合いしてるのになんか顔が赤くなってくる。…ムキになってる話の内容がバカップルっぽくない?
「なあ…」とキタガワが言う。今度は優しい声だ。
「…うん」
「やっとまた一緒のクラスになれたし」
「…うん」
「それだけでもオレはうれしかったけど」
ダメだ~~ドキドキして来た!
「お前、帰りもタダとかとは普通に喋ってんじゃんバイバイとか手ぇ振って。オレには振らなかったじゃん。タダなんか高校からだろ」
「…」高校から?
「ここほんのちょっと同じクラスになっただけなのに、なんであんなに慣れた感じで喋ってんだよ意味わかんねえ…」
「…」
どうしよ…キタガワの言ってくれてる文句が嬉しくてたまらない。 これってヤキモチだよね?
「何黙ってんだよ」キタガワに言われる。
「…うん」
「うんじゃねえよ。もう~~~なんかオレがすげえだせえじゃん!こんな文句ばっか言って…今朝も一緒に行けてオレは嬉しかったって話だよ。お前、なんとも思ってねえんじゃねえの本当は」
「思ってるよ!…嬉しかった。すごいドキドキしたし待ってる時。本当は来てくれないんじゃないかと思って!ずっとほんと連絡ないから怖かったし。朝連絡くれた時すごい嬉しかったし」
「…なあ」
「うん」
「今度の土曜日部活無ぇから映画とか観に行かねえ?」
「うん!行きたい!」
「よし」
と言われたところで思い出した。「ああっ!!」
「何!?ビックリすんじゃん」
「土曜はアイちゃん達と約束してた」
「…」
「ごめん」
「何の?」
キタガワ嫌がるかな…「今日ね、アイちゃん達にキタガワとの事聞かれたんだけどうまく答えられなくて」
「何でうまく答えられない?」ムッとした声を出すキタガワ。
「だって小学の時からの話になるからスっと話せないじゃん。話、すごく長くなるじゃん」
「そんなむかしの事まで話さなくていいんじゃね?」
「…だって…」
私は私の大切な友達に聞いて欲しいのだ。小学の時のキタガワがどんなにカッコ良くて、私がどんな風に好きだなって思い始めたかを。だから今でも好きなんだって事を。
「なあ」とまだムッとした声のキタガワ。「もしかしてそれってサワダの彼氏のツレとかも来んの?」
「来ないよ!三人だけ。キタガワ嫌かもしれないけど私、…二人にキタガワの事ちゃんと話しときたい。むかしからのキタガワの事。まだ付き合ってないにしても…」
「付き合ってない付き合ってないって何度も言い過ぎお前。バカじゃねえの」
「…ごめん」
「じゃあもう…仕方ねえから日曜日な」
「うん!」
「何観たいか候補出しとけよ」
「うん!」
「じゃあな」
「おやすみ!」
「お~」
学校から帰って来る時も、そして電話が来るまであんなにイライラしたのに。
地に足がつかないってこんな感じだな。歯磨きをしようと思って洗面所に降りる時も階段を下りる1歩1歩がふわふわしている。
どうしよう日曜日。困ったな何着て行こう…
あ~~困っているけど超嬉しい初めてのデート!
一昨日の嘘のクラス会の時より可愛い格好をしたいけれど、あんまり可愛い格好過ぎても恥ずかしい。気合い入れてきました感は絶対出したくない。でも可愛く見られたい。なんだったら『可愛いじゃん』とか本人から言われたい。…キタガワがくれたネックレスをつけて行ってみよう。それに気付いたらキタガワ、何て言うんだろう…
そんな事をあれこれ考えてふわふわな気持ちで眠りに落ちたのに…
目覚めた私の胸はまたモヤっとしていた。夕べ見た夢が良くなかったのだ。
それは急に野放しでふわふわ浮ついている私を、ず~~ん、と濁った池に沈みこませるようなどんよりと曇った夢だった。




